研究テーマ


当研究室では蛋白質の合成装置であるリボソームに着目した研究を行っています。 グラム陽性細菌である枯草菌は、栄養源の枯渇など環境条件の悪化に対応して、 さまざまな物理的・化学的刺激に抵抗性で、生化学的にも不活性な胞子を形成することが知られています。
枯草菌は分子遺伝学的解析が容易であることから、 微生物における細胞分化のモデルとして今日においても広く研究されています。 これまでの枯草菌研究では主に遺伝子発現における転写段階の制御機構の解明に重点が置かれてきました。 その結果、胞子形成期における転写ネットワークの全体像は明らかにされつつあります。
しかし、翻訳段階の制御機構について不明な点が数多く残されています。 翻訳制御において重要な役割を担うのは蛋白質合成装置であるリボソームです。 リボソームについては蛋白質の新規合成に関する詳細な生化学的解析がある一方で、 細胞内においてリボソームそのものが種々の生育環境条件に呼応して質的・量的にどのように制御されているのか、 等に関する知見は得られていません。
こうした背景から、当研究室ではリボソームに着目した解析を行っております。


詳しくは以下のテーマで解析を行っています。

1) 生育に必要なrRNAオペロンの最少のコピー数の同定と、変異リボソームRNAの構築・機能解析
  枯草菌のリボソームは57種のリボソーム蛋白質と3種(5S, 16S, 23S)のrRNAより構成されており、 3種のrRNAをコードする領域はオペロンを形成しています。 枯草菌ゲノム上ではリボソーム蛋白質は殆ど1コピーのみ存在するのに対し、rRNAオペロンは10種存在しています。 また、大腸菌では7種のrRNAオペロンの存在が確認されています。 これまで、これら全てのrRNAオペロンは生育に必須であると考えられてきました。 しかし、なぜrRNAオペロン1種ではなく多数存在しているのか、本当に全て生育に必須なのか、 については詳しく調べられた例はなく殆ど何もわかっていません。 こうした背景から生育に必須なrRNAオペロンの最少のコピー数の同定を行っています。

2) 生育環境変化におけるrRNAオペロンの転写制御解析
生物は生育環境変化に伴い、その条件に適応するための巧妙な制御機構を保持しています。 その中で、リボソームは蛋白質合成という、生きていくうえで欠かすことのできない機能を持っていることから、 リボソームを構成するrRNAやリボソーム蛋白質も生育環境の変化に伴い様々な発現調節を受けていることが考えられます。 すでに紹介したように、枯草菌には10種のrRNAオペロンが存在しています。 これまでのrRNAオペロンの解析は、rRNAオペロンは高度に保存されているため、ある1つの代表的なオペロンのみが調べられ、 得られた結果は全てのrRNAオペロンに共通の制御機構であると考えられてきました。 しかし、枯草菌に存在する10種全てのオペロンが様々な生育環境の変化において同じ発現調節を受けているか否かは不明です。 そこで、環境変化に伴う個々のrRNAオペロンの転写制御機構を解明するべく解析を進めています。 これまでの解析結果から、全てのrRNAオペロンが同様の発現調節を受けないことがわかってきました。 現在、さらに詳しい解析を行うとともに、緊縮応答とrRNAオペロンとの関係についても着目しています。

3) 亜鉛環境変動に対するリボソームの適応戦略
  枯草菌のリボソーム蛋白質は57種ありますが、5種類(L31, L32, L33, L36, S14)の蛋白質には 、亜鉛を結合する特殊な配列が含まれています。このうち、2種(L31, S14)には重複が見出され、 2種のL31(RpmE, YtiA)蛋白質、2種のS14(RpsN, YhzA)蛋白質が存在しています。 さらに、YtiA、YhzA蛋白質はRpmE, RpsN蛋白質とは異なり、亜鉛結合部位を有さないことが確認されています。 当研究室ではこれまでに、2種のL31(RpmE, YtiA)蛋白質が細胞内の亜鉛の濃度に呼応してリボソームにて入れ替わる、 ということを見出しました。これは、亜鉛環境変化に適応するために2種の蛋白質を使い分け、 リボソームの構成成分を変化させることによって外部環境に適応していることを示す結果となりました。



また、当研究室では枯草菌のみならず、全ゲノム配列が明らかとなった原始紅藻、 Cyanidioschyzon merolaeを研究材料として、細胞核による各オルガネラ内蛋白質合成系の制御機構について解析すべく、 葉緑体、ミトコンドリアに存在するリボソームのプロテオーム解析を進めています


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