マルチスピーシーズ人類学研究会第12回研究会 2017.12.9.立教大学 池袋キャンパス


Arts of Living on a Damaged Planetを読む

日時 12月9日(土)10:30~17:30
場所 立教大学12号館2階
ミーティングルームA,B MAP
備考 参加希望者は、11月24日(金)までにお申し込みください。
奥野克巳 katsumiokuno[]rikkyo.ac.jp
近藤祉秋  shiaki.kondo[]gmail.com
     []を@に代えてください。
*引き続き、章担当・発表者を募集しています。

人間が地球環境に甚大な影響を与えたとされる人間の時代=「人新世(アントロポセン)」において、消えっていったもの(幽霊)たちや怪物化した生きものたちを取り上げて論じた学際的な論集が、アナ・ツィンやヘザー・スワンソンらによって、2017年に編まれた。Anna Lowenhaupt Tsing, Heather Anne Swanson, Elaine Gan, and Nils Bubandt(eds.) Arts of Living on a Damaged Planet: Ghosts and Monsters of the Anthropocene. University of Minnesota Press, 2017. 本研究会では、その論集の幾つかの章を読みながら意見・情報交換し、人間ー以上のー人類学・人文学の近未来を展望してみたい。

森田 系太郎(会議通訳・翻訳者)
Introduction: Haunted Landscapes of the Anthropocene(G序, Gan et al.)

戸張 雅登(立教大学大学院・博士後期課程)
Future Megafaunas: A Historical Perspective on the Scope for a Wilder Anthropocene (G4, Svenning)

山田 祥子
Haunted Geologies: Spirits, Stones, and the Necropolitics of the Anthropocene (G7, Bubandt)

奥野 克巳(立教大学)
Ghostly Forms and Forest Histories(G8, Mathews)

上妻 世海(文筆家、キューレーター)
Deep in Admiration(M1,Le Guin)

猪口 智広(東京大学大学院・博士後期課程)
Symbiogenesis, Sympoiesis, and Art Science Activisms for Staying with the Trouble (M2, Haraway)

石倉 敏明(秋田公立美術大学)
Wolf, or Homo Momini Lups(M5, Freccero)

藤田 周(東京大学大学院・博士後期課程)
Unruly Appetites: Salmon Domestication “All the Way Down” (M6, Lien)

近藤 祉秋(北海道大学)
Synchronies at Risk: The Intertwined Lives of Horseshoe Crabs and Red Knot Birds(M8, Funch)

阿部 朋恒(立教大学・非常勤講師)
Remembering in Our Amnesia, Seeing in Our Blindness (M9, Parker)

第12回研究会レポート

Arts of Living on the Damaged Planetは、デンマーク・オーフス大学人新世研究ユニットの研究成果として出版された。科学史、文化人類学、保全生態学、生物学、文学などの諸分野の書き手が集う、非常に学際的な論集である。この本は、Ghost編とMonster編に分かれているが、編者らはGhost編を「近代の暴力が憑りついた景観」、Monster編を「種間および種内の社会性」と特徴づけている。

本研究会では、10名のレジュメ発表者が各自ひとつの章を選び、その内容を報告した後、全体で意見交換をおこなった。扱われた話題は、人新世研究の状況、現代における詩の意義、ジャワ島における資源開発と地震、大型哺乳類の大量絶滅と再野生化、自然誌的観察と民族誌を組み合わせる研究手法、アート・サイエンス運動、西洋社会におけるオオカミの記号論とそれへの現代的応答、ノルウェーのサケ養殖、カリフォルニアの外来植物、デラウェア湾のカブトガニと渡り鳥の保全であり、多岐にわたる。

本研究会では、レジュメ発表の内容にもまして様々な議論が飛び交った。いくつか例を挙げれば、”anthropocene”や”chthulucene”の訳語選択、Ghostという言葉とデリダの憑在論との関係を問う意見、マルチスピーシーズ研究の「型」の存在(ツィンの議論との対応を意識した書き方)、再野生化のゲルマン起源とアメリカの猟獣保全、物質的なものと非物質的なもの狭間にあるものとしてのGhost、「流れ」という物質性の在り方、情報革命が人間と非人間をフラットに捉える考え方を生み出したという見解、宮崎駿とハラウェイの関係、哲学界隈でのクトゥルフ神話の静かなブーム、自然科学者との対話、この論集の想定されるオーディエンスはどのような人たちなのかという問い、などである。

本研究会は、人新世をめぐる研究の多様さ、そして、各分野によるアプローチ、修辞戦略の違いを浮き彫りにするものだったと言えるが、この論集は、そのような多様な書き手による多様な話題をGhostとMonsterという2つのアプローチにまとめてみることによって、整理しようとする試みであった。研究会の終盤からは共編者のヘザー・スワンソンさんも参加し、参加者の質問に答えてくれた。研究会は盛況のうちに閉会し、その後の懇親会でも熱心な意見交換が続けられた。参加者は合計で12名であった。(近藤祉秋) 






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