生活と防災についての社会意識調査 報告書
―仙台市、福島市、東京都における震災被害と社会階層の関連―
2017年3月
村瀬洋一編・立教大学社会学部 社会調査グループ
The report of the Social Consciousness Survey about a life and disaster prevention:
Association between earthquake disaster damage and a social stratification in Sendai, Fukushima, Tokyo.
March 2017.
MURASE Yoichi, Department of Sociology, Rikkyo University.
転入者とそれ以外の比較に関する基礎的分析結果
復興政策への国民の意見反映に関する結果が図1である。図内の一番上の横棒は、震災以前から福島市内に住んでいた男性617人であり、そのうち、「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合わせて、21%が肯定だが、否定的回答がほぼ8割である。女性はさらに否定が多い。海沿いや原発近くの被災地から転入した女性は27人しかいないが、さらに否定的である。「その他の転入」は、仕事のため東京や仙台等から福島市内に震災後に転入した人等、いわゆる転勤族(数年毎に勤務地が変わる被雇用労働者層)を含むが、肯定的回答がやや多い。転勤族は大企業勤務で収入面で恵まれた人や高学歴な人も多く、社会的地位が高めであると考えられる。そのような人は、復興政策に問題を感じない傾向があるのかもしれない。仙台調査でも、「その他の転入」において肯定的回答が多く、被災地から転入した女性は否定的回答が多い。東京調査でも、女性は否定的回答が多い。政治家や地域有力者の多くは男性であり、復興政策に、女性の視点が反映されにくい傾向はあるだろう。そのよう事実があることを反映した調査結果なのかもしれない。
図2は原発政策志向についての結果である。全般的に原発に対して否定的な回答が多いが、とくに福島市調査では否定的である。しかし、福島市の「その他転入」男性は、原発に肯定的回答が多めである。東京の男性がもっとも肯定的であり、とくに転入者の男性に肯定が多い。男女で回答に違いがあり、女性の方が、原発に対して否定的である。
図3は大震災の被災者に対する政府支援についての結果である。福島では、以前からの男性住民は支援が十分という答えが多めであり、被災地から転入した女性は少ない。その他の転入者は十分という答えが多めだが、全般的には、不十分とする回答が多く、とくに、被災地からの転入者は、福島でも仙台でも、不十分と答えており、元からの住民と比べて回答に違いがある。東京は、十分とする回答が、福島や仙台の、元からの住民と比べてやや少なめであり、東京の方が政府支援に関して厳しい見方をしている。
図4は、原発事故の避難者に対する支援に関する結果である。福島調査の震災以前から市内に住んでいる人は、もっと支援した方がよいという回答が少ない。被災地から転入してきた人では、もっと支援という回答が多く、その他の転入者は少なめである。仙台の元からの住民は、福島より、もっと支援という回答が多いが、被災地から転入してきた人は少なめである。東京は、もっと支援した方がよいという回答が全般的に多い。この問に関しては、被災地から遠い東京の方が、避難者への同情的見方が多い。東京電力からの毎月の慰謝料によって暮らす避難者に対する、批判的な意見もある程度は存在することも事実であり、福島県内の報道でも、そのような意見が出ることはある。東京よりも、避難者の生活の実態や、今後の生活のあり方についての情報も多く、様々な議論がありうるし、福島での調査結果に、そのことが反映している可能性もある。
図5は階層帰属意識(主観的な自分の社会階層)の結果である。選択肢の5段階は、社会階層と社会移動全国調査(SSM調査)で以前から用いられているものである。福島では、元からの住民と転入してきた人で、回答にあまり違いはない。ただ転入した女性は、自分の所属している階層をやや低めに答える傾向があり、「下の上」と「下の下」を会わせて、被災地から転入した女性は4割が下と答えている。仙台では、その他の転入者が、階層を高めに答える傾向があり、「上」と「中の上」を合わせて約3割である。仙台市は東北地方最大の都市で、大企業の支店が多く、古くからの地元の住民よりも、転勤族とよばれる大企業勤務者が、収入がよく雇用も安定していることはよく知られている。仙台市郊外の新しい一戸建てが並ぶ、よく整備された住宅地には転勤族が多く住むし、そのような仙台市の特徴を表しているのだろう。東京は全般的に階層がやや高めである。