『「従軍慰安婦」問題と性暴力』

01.7.9
担当:中 充

はじめに

近年、国際的にも注目を集めている「従軍慰安婦」問題について、その問題の本質を探り、そして国家の取るべき行動としての戦後補償について、考察してゆきたい

1. 日本政府の態度

1992年7月、日本政府は従軍慰安婦問題に関する調査結果を発表し、軍と政府が深く関与していたことを認めた。(宮沢元首相は訪韓で「謝罪」をしている)
資料:防衛庁防衛研究所図書館はじめ、複数の省庁から計127件の資料が発見された
しかし政府は被害の証言をしている元慰安婦らの話を聴取せず、調査は不十分。また、明確な形での補償はいまだなされていない。

2. 問題の本質

 =民族差別と性差別
・ 若い女性がとくに選別されて連れて行かれた→兵士の性病予防
・ 朝鮮半島や台湾など植民地の女性を数多く慰安婦にした→植民地民衆から民族性を剥ぎ取るのに好都合であり、また日本の女性ではその生殖能力が減退し、戦争に不都合となるから

3. なぜ今ごろになって「従軍慰安婦」なのか?

・戦後数十年この問題が放置されてきた
→日韓基本条約と諸協定は、「反省」「謝罪」「補償」を言葉にせず、「経済協力」という形で植民地支配の清算をすりぬけてきた。今現在もその姿勢は変わらない。
さらに、補償を求めるのなら被害者側が事実の立証と法的根拠を示すべきという態度
=両国間の財産・請求権の問題 「当時適法に行われた徴兵、徴用などに伴う死亡などの人的被害は補償対象にならない」
・性支配、性政策のカラクリに気付かなかった
→日本人女性を慰安婦にしなかったのは彼女らの人権を認めていたからではなく、生殖能力の減退を恐れていたから。
兵士を産む道具としての性 「産めよ殖やせよ」=国家による生殖の性の管理

4. 根幹としての公娼制と家父長制

生殖の性⇔快楽の性=公娼制度・・・男の性も管理されていた
「従軍慰安婦」制度=皇軍による公娼制(兵士による不満・反乱予防のためのガス抜き)
その根幹に男系血統主義としての家父長制→女は男の後継ぎたる男児を産むための存在

5. 「従軍慰安婦」の成立と軍・政府の関与

・からゆきさん・・・娼婦の海外輸出(政府は黙認)→植民地に公娼制を導入
・日中戦争中、1937年の南京攻略線「南京大虐殺」=大量の強姦殺人
→その防止のため(日本兵の性病防止が目的)軍直営の慰安所設置→太平洋戦争開始後、本格化(軍による強制売春)
・慰安婦の性病検査・・・彼女らの健康管理のためなどではなく、また兵士の健康を人道的に気遣ったのでもなく、あくまで「人口政策」のためのもの

6.反慰安婦問題としての上坂冬子氏の主張

@「従軍慰安婦」は韓国人女性に対する人種差別ではない
→戦時中、朝鮮半島出身の女性は日本人であったから
A日本の朝鮮支配は国際社会で了承された「併合」であって「横暴」ではない
B裁判はある種の人々(日本人)が彼女らを利用して特定の世直しを目論むヤラセである
Cあれは混乱していた当時の秩序を維持するための必要悪だった
筆者の反論
@´朝鮮人は自ら進んで日本人になったわけでなく、植民地支配を受け入れてもいない。皇民化政策中、彼らは激しく抵抗していた
A´併合にいたる過程では朝鮮全土で民衆の義兵闘争が、併合後も全民族あげての抗日・抵抗闘争があり、その火は朝鮮解放まで消えなかった
B´訴訟提起はきわめて主体的な意志を必要とする。費やす時間、労力、費用、そして彼女らの年齢を考えれば、その決意の強さは推して測るべしである。また、韓国という儒教社会で自らが慰安婦であることを知られるリスクを考えろ
C´あなたは本当に人間か?

7. 筆者の意見

・これは天皇の軍隊が起こした国家犯罪である→国家がその犯罪の事実を認め、国家補償を行って被害・犠牲者に償わねばならない(「見舞い金」でお茶を濁すことなく!)
・これは過去の過ぎ去った問題ではなく、女性の性を売買の対象にし、それについて開き直る風土自体に今現在も問題性がある

<論点>

@ 筆者の言うように日本は元慰安婦らに補償をせねばならないのか?政府の「解決済み」論や経済協力による代替措置は本当に誤りなのか。
A 慰安婦問題を産み出したという日本の風土自体についても何らかの責任をとるべきなのか?

<私見>

@ この問題における補償は元慰安婦ら個人の補償請求権を意味するのであるから、韓国との条約による国家間の賠償問題とは次元を異にする。また経済協力も国家に対して行われたにすぎない。元慰安婦の補償問題は性差別・民族差別という人権に対する侵害の問題であるから、当然認められねばならない。司法上の解決が困難ならば、立法的解決を図るべきだろう。
A 二度と惨劇を繰り返さないという将来に対する責任として、性を生殖や快楽の道具とみなすような差別的文化・風土を改善する必要はあるといえるだろう。


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