TI専門教育

プロの翻訳・通訳者になるためにはさまざまな径路があります。独習や実地訓練、ベテラン翻訳・通訳者からの個人指導などを通してプロの翻訳・通訳者になる人もいますし、日本では翻訳通訳会社などが経営する翻訳通訳学校で訓練を受ける人もいるでしょう。日本ではあまり知られてないかもしれませんが、欧米、韓国、台湾、中国、オーストラリアなどでは、大学院で翻訳・通訳者の養成が行われています。そこでは、専門的スキルの訓練、職務倫理、理論や研究を含めた翻訳通訳専門教育が行われています。

現在、国際標準機構(ISO)が策定中の翻訳通訳に関する国際規格で、プロ翻訳・通訳者の筆頭定義が「翻訳・通訳の学位を有する者」になっていることから、今後日本の翻訳通訳会社もISO認証を受けるために、翻訳通訳を大学・大学院で学んだ人たちを積極的に雇用することが予想されます。この動きが、日本の大学におけるTI専門教育の発展を促進するかもしれません。

翻訳・通訳を学べる大学院


大学院で翻訳者・通訳者を養成する利点

  1. 選抜された学生を対象にカリキュラムに沿った体系的な教育ができる。
  2. 大学院での翻訳者・通訳者養成という「国際標準」を実践することで、その「コミュニティー」の一員として、外国の教育機関との協力や
    情報交換の機会を得られる。
  3. 研究の場と教育の場が直結することによる相乗効果が期待できる。
  4. 専門職としての翻訳者・通訳者に対してより社会的に認知されるようになる。
  5. リクルート活動を行なう国際機関や多国籍企業のニーズにこたえる

さまざまなアプローチ

翻訳者・通訳者コンピタンス(translator/interpreter competence)ベースのアプローチ

翻訳者や通訳者に求められるコンピタンス(能力、スキルセット)とは何かを見極め、学生がそのコンピタンスをいかに習得できるかを追究するアプローチ。

熟達化(expertise)ベースのアプローチ

エキスパート(熟達者)の技能を見極め、その技能を効率的に習得するために、メタ認知(meta-cognition)に基づく学習と意図的な練習(deliberate practice)が必要とするアプローチ。

    [推奨文献]
  • Moser-Mercer, B. (2008). Skill acquisition in interpreting. The Interpreter and Translator Trainer, 2(1), 1-28.

社会構成主義的アプローチ

教師が学習者に一方的に知識や技術を伝達するのではなく、学習者自らが教師やほかの学習者との対話、体験などを通じて知識や技術を自分で構築することを促すアプローチ。

    [推奨文献]
  • Kiraly, D. (2000). A socialconstructivist approach to translator education: empowerment from theory to practice. Manchester: St. Jerome.

プロセス志向のアプローチ

翻訳や通訳の訳出結果よりもプロセスに焦点を置いた指導法。問題の原因を学生に分析理解させ、その解決法を探り出させるアプローチ。

    [推奨文献]
  • ジル,D./田辺希久子・中村昌弘・松縄順子訳(2012)『通訳翻訳訓練』みすず書房.

「社会化」支援としての翻訳通訳教育

翻訳通訳教育を学生が翻訳者・通訳者のコミュニティーの成員になるプロセスと捉え、翻訳通訳の現場を常に意識しながら、現実感のある設定で訓練を行なうアプローチ。

    [推奨文献]
  • Sawyer, D. B. (2004). Fundamental aspects of curriculum and assessment in interpreter education. Amsterdam and Philadelphia: John Benjamins.

「偶発的な」翻訳教育の場

クラウドソーシング、オンライン上の協働ボランティア翻訳などの過程が「偶発的な」翻訳教育の場になっている状況に注目。

    [推奨文献]
  • Cronin, M. (2005). Deschooling translation. In M. Tennent (Ed.), Training for the new millennium: Pedagogies for translation and interpreting (pp. 249-265). Amsterdam and Philadelphia: John Benjamins.
  • O'Hagan, M. (2008). Fan translation networks: An accidental translator training environment?. In J. Kearns (Ed.), Translator and interpreter training: Methods and debates (pp.158-183). London: Continuum.
  • 『みんなの翻訳』http://trans-aid.jp