イノベーションのジレンマ
報告者 鹿生治行
第2部
第一部での分析結果
○大手企業の失敗の原因は、劣悪な経営が根本にあるのではなく、破壊的技術に遭遇した時の優秀な経営陣にある。
○@顧客の意見に注意深く耳を傾け、A競争相手の行動に注意し、B収益性を高める高性能、高品質の設計と開発に資源を投入するという意思決定・資源配分プロセスは破壊的技術を拒絶するプロセスである。
組織の性質に関する5つの基本原則
1.
資源の依存。優良企業の資源配分のパターンは、実質的に、顧客が支配している。
2.
小規模な市場は、大企業の成長需要を解決しない。
3.
破壊的技術の最終的なようとは事前にはわからない。失敗は成功への一歩である。
4.
組織の能力は、組織内で働く人材の能力とは関係ない。組織の能力は、そのプロセスと価値基準にある。現在の事業モデルの核となる能力を生みだすプロセスと価値基準が、実は破壊的技術に直面した時に、無能力の決定的要因になる。
5.
技術の供給は市場の需要と一致しないことがある。確立された市場では、魅力のない破壊的技術の特徴が、新しい市場では大きな価値を生むことがある。
成功した経営者は上記の原則をどのように自分たちの優位に役立てたのか
1.
破壊的技術を開発し、商品化するプロジェクトを、破壊的技術を必要とする顧客をもつ組織に組み込む
2.
破壊的技術を開発するプロジェクトを、小さな機会や小さな勝利にも前向きになれる小さな組織に任せる
3.
破壊的技術の市場を探る過程で、失敗を早い段階に僅かな犠牲で留める計画を立てた
4.
破壊的技術に取り組むために、主流組織とは違った、破壊的技術に適した価値基準やコスト構造を有する違ったやり方を作り出した
5.
破壊的技術を商品化する場合は、その製品の特徴が評価される新しい市場を見つけるか、開拓した
*5章から9章までは上記の原則を理解し、利用する方法を述べる
*10章は電気自動車の例を検証し、11章で結論をまとめる
第5章 破壊的技術はそれを求める顧客を持つ組織に任せる
本章の目的)
「企業が何ができて何ができないかを実質的に決定するのは、企業の顧客である」という見解を詳細に解説する。
⇒企業の進路を決めるのは組織外部の力である(資源依存アプローチ)
それでは、顧客が求めていない破壊的技術が出現した時の対応方法とは
@ 破壊的技術を追求し、その技術が企業にとって重要であることを全社員に伝える
:企業の投資パターンを本質的に支配するのは、経営者でなく顧客であるという、組織の強力な傾向を闘争する
A 独立した組織を作り、その技術を必要とする新しい顧客の中で活動させる
:組織の力と調和する
イノベーションと資源配分
●企業の資源配分を支配するのは顧客であり、イノベーションと資源配分とは表裏一体である。優れた資源配分プロセスにおいて、顧客が望まない案は排除される。
●プロジェクトへの投資の意思決定過程には組織の下層の人間が関与し、上層部にくるまでにふるいにかけられている。
●重要な意思決定の多くは、組織上層部によるプロジェクトへの投資の支持ではなく、製品の発売後における現場のマネージャーの資源配分にある。
非経営参加者が資源配分を決定する要因とは。
@
非経営参加者による経営状況・経営環境の把握−もっとも利益になる顧客や製品の理解がプロジェクトとその優先順位を決定する
A
社内の地位の変化:個人の利益追求と個人の成功追及のメカニズムによって資源配分プロセス、イノベーションのパターンに影響を与える
破壊的ディスク・ドライブ技術における成功
破壊的技術への対応の事例
カンタムとプラス・ディベロップメント:資源依存の力と調和する事例1
背景)
8インチドライブの大手メーカであるカンタム・コーポレーションは80年代にミニコン市場をターゲットとし、5.25インチ・ドライブが現れた時に乗り遅れる。1984年に同社社員の数人が薄型3.5インチ・ドライブでパソコン・ユーザー向けの市場を見出す。
経営陣の対応)
この事業をスピンオフしたプラス・ディベロップメント・コーポレーションに出資する。
結果)
80年代半ばに8インチ・ドライブの売上げは落ち込んだが、プラスの「ハードカード」の売上増加により相殺される。87年には、旧カンタムを事実上閉鎖し、プラスの経営陣をカンタムの経営陣に据える。2.5インチ・ドライブへの持続的なアーキテクチャ−のイノベーションにも成功する。
コントロール・データのオクラホマ部門:資源依存の力と調和する事例2
背景)
65から82年にかけてOEMメーカーを市場とした14インチ・ドライブの最大手であった。8インチが出現した時は3年出遅れた。CDCが5.25インチ・モデルを発売
経営陣の対応)
5.25インチ部門を、会社の主流顧客から遠ざける為にオクラオマシティーに配置する
結果)
5.25インチ・ドライブ事業で利益を生み、容量が拡大した5.25インチ・ドライブ市場では一時20%のシェアを獲得する
マイクロポリス:資源依存の力と闘う事例
経営陣の対応)
経営者が5.25インチ・ドライブを主力とするメーカーに変るべきだと判断しつつ、次世代8インチ・ドライブの開発にも十分な資源を割り当てることを考えていた。主要な技術者は5.25インチ・プログラムに割り当てたが、顧客のいる8インチ・ドライブに資源を割り当てるようになっていたことから、経営者のエネルギーを必要とした。
結果)
5.25インチ・プログラムの成功と既存顧客に3.5インチ・ドライブを販売することに成功する。
破壊的技術と資源依存の理論
資源依存論者が示唆する「経営者は無能な個人に過ぎない」という結論を受け入れるのではなく、経営者は資源依存の力と調和をとり企業を導く余地があるとする。様々な業界に影響を与えてきた破壊的技術の影響をコンピューター、小売、プリンターの業界に見る。
DECとIBMパソコン
●単一の組織で主流市場の競争力を保ちながら破壊的技術を的確に追求することが困難であるかを示す事例
かつては市場規模が小さく、大手の企業が参入するに値しない市場から発展してきた技術が、上位の市場に進出し、かつての大手企業が市場を確保できないプロセスを見てきた。DEC:ミニコンよりも単純なパソコンを発売し失敗する
要因1)社内での資源配分の決定者によって、利益率の低いパソコン事業への資源配分が抑えられた。
要因2)主流組織からデスクトップ・パソコン市場へ参入しようとしたことから、異なるコスト構造を組織内に有することとなった。
IBM:パソコン業界に参入し、最初の5年間成功した
要因1)自立的な組織を新設する
クレスギとウールワースとディスカウント販売
《ディスカウントストア》
○50年代半ばに出現(コーベッツ)、ローエンドの商品を扱い、全国的ブランドの標準的な耐久消費財をデパート価格の2から4割引きで販売する
⇒使い方の宣伝の必要がない、ブランドイメージがあるため販売員を置く必要がない、ブルーカラー層の子持ちの若い主婦をターゲットとする
○コスト構造はデパートによるバリューネットワークとは違い、低い利益率は在庫回転率でカバーするという収益構造をもつ
○1966年には小売業界の売上げのシェアは40%を占める
《クレスギの方法》資源依存の力と調和する
1961年に参入を発表、翌年に開店する。参入に当り、バラエティー・ストア事業を完全に閉鎖し、経営陣を総入れ替えする。
《ウールワースの方法》資源依存の力と闘争する
クレスギと同年、ディスカウント事業参入を発表、翌年開店。中核のバラエティー・ストア事業で、技術・能力・設備の持続的改良プログラムを続け、破壊的技術にも投資をおこなう。バラエティー・ストア事業に携わっていた経営管理者がディスカウントストア事業にも携わる。ディスカウントストアの拡大期にも同じペースでバラエティー・ストアも新規開店する。1967年にディスカウントという言葉を使うのをやめた。管理スタッフはウールコ事業専用のスタッフではなく、コスト意識の高いマネージャーが多くを占める。
⇒ウールコ部門とウールワース部門の売り場面積あたりの売上げを拡大するために、事業を地域ごとに統合した。
結果)ウールワースの収益モデルがウールコにも求められ、値入れ率の上昇、粗利益率の上昇、在庫回転率の低下を齎す
自殺による生き残り:ヒューレットバッカードのレーザージェットプリンターとインクジェットプリンター
●独立組織のスピンアウトによって破壊的技術を追求すると、もう一方の事業部門をつぶす可能性があることを示唆する事例:インクジェット技術の出現したときの同社の対応に着目する
HPは80年代半ばからレーザージェット印刷技術で成功する。インクジェット技術が出現した時に対応が迫られることになった。
⇒インクジェット印刷は破壊的技術であった
:レーザージェットよりも遅く、解像度は低く、一ページあたりの印刷コストは高いが、本体が小型で価格も低くなると考えられた。したがって、一台あたりの粗利益率はレーザージェットプリンターを下回ることは間違いなかった。
HPの対応)
独立したインクジェットプリンターを開発する組織を作る。性能はレーザーを上回る事はないといえるが、ディスクトップ・パソコン市場で必要とされる機能は達成されると見られる。現在は、インクジェット事業はレーザーを選んでいただろうユーザーを獲得するとともに、一方でレーザー事業にとどまることで、上位市場に逃れながら莫大な利益を得ている。
授業での論点)
・本論では、破壊的技術を有する企業が下位市場から上位市場に進出することを論証し、第2部ではそれをもとに提言している。しかし、反対にコストを削減するなどして、上位市場が下位市場へ進出していることを考慮する必要があるのではなかろうか。