泳光へ
1年半ぶりの大舞台。彼女はあえて腰に負担がかかる片足での踏み切りを決断した。スタート音が鳴り8人が一斉に飛び込む。杉崎の反応は全選手中最速の0秒67。勝利への執念が頭一つ分のリードを生んだ。トップスイマーから猛追を受けながら、ただ強く泳ぐ。終盤は横一線に。だが「みんなの声が大きくなるのを感じた」。 仲間に背中を押されフィニッシュする。
電光掲示板に表示されたタイムは30秒97。そしてその横には"1"の文字が輝く。2位と100分の1秒差の大接戦を制しての優勝に、会場中が沸き返った。
レース後、自らの快挙を実感することができない杉崎。それでも歓喜する仲間を見て安心する。「自分だけじゃなくて、みんなも楽しんでくれるレースができたの何よりが嬉しい」。
仲間と登りつめた表彰台の一番上。「本年度の選手権獲得者は…」というアナウンスと同時に、会場から送られる拍手の嵐。彼女の顔には自然と笑みがこぼれる。メダルを受け取ると小さな体を目一杯に広げた。「このメダルにはみんなの思いが全部詰まってる」。
次は世界水泳の代表選考会。今回の優勝で優勝候補の筆頭に躍り出た。当然、彼女の双肩にかかる期待は大きくなった。それは杉崎自身も自覚している。
「世界水泳に"出たい"じゃだめ。世界水泳に"出る"」。そう力強く話す彼女の瞳には、金色のメダルよりもはるかに輝く未来が映っていた。 (長倉慧)
【スケート部フィギュア部門】
銀盤に訪れた春 中村 全日本 6位
ソチ五輪を1年後に控え精鋭たちが熱い戦いを繰り広げた今年の全日本。美しい演技で観客を魅了した中村健人(営3)が6位に食い込み今季最高の活躍を見せた。
越えた重圧
大会初日のショートプログラム(以下SP)。中村は序盤のジャンプを文句なしの出来栄えで跳び、スピンも丁寧に決めた。リズムに乗った軽快なステップで観客を盛り上げる。その後もミスなくまとめ、笑顔でガッツポーズ。SPで6位に入り、目標だった2年連続でのフリースケーティング(以下FS)最終グループ入りを果たした。
翌日に行われたFSの滑走順は、高橋(関大大学院)の次だった。「心臓が押しつぶされるかと思いました」。会場は高橋への歓声で埋め尽くされていた。直後に演技をする中村にプレッシャーが襲い掛かる。しかし会場の歓声が自分に向けられたものだとイメージ。その重圧に打ち勝った。
中村の名前が呼ばれたその時、高橋一色だった会場の空気は変わった。音楽が始まり静かに滑り出す。序盤のトリプルアクセルで転倒するも、素早く切り替える。その後の難易度の高いジャンプは軽やかに決め、圧巻のスケーティングで演技を締めくくった。
点数が出た瞬間、中村と樋口コーチの目から思わず涙がこぼれ落ちる。FSの結果は5位。演技だけでなく順位でも全国に存在感を放った。大舞台の重圧をはねのけ会心の演技を見せた中村。観客たちは彼とその演技をスタンディングオベーションでたたえた。
磨いた演技
選手層の厚い日本でメジャーな国際大会に出場するのは難しい。中村は今大会でそのチャンスを広げた。
自分の動きを磨き上げたことで、前回の全日本から得点を30点以上伸ばした。彼は夏以降、練習に鏡を取り入れている。カナダで共に練習した元世界チャンピオンが鏡を使っていたことに影響されたからだ。それにより客観的に自分の演技を見るようになった。ポーズや動きを確認し、改善する作業を繰り返す。その努力が今回の結果を生んだ。
それでも彼は実力の8割しか出せなかったと振り返る。試合による緊張感の中で練習通りに実力を出すのは難しい。そこで、練習での完成度を上げることで本番の出来も良くなると考えた中村。「練習から120%出し切れるように」と意気込んだ。
世界を目指し、より完成度の高い演技を追及していく。大きな大会は実力を発揮する舞台であり、独特の緊張感に慣れるために必要な場だ。そう思うからこそ彼は今まで以上に一試合一試合を大事に滑っていく。
とにかく自分のやることをしっかりやるだけ」。そう目標を語った彼は既に未来を見据えて歩み始めている。自分の演技と正面から向き合い、ストイックに取り組み続ける中村。彼が大舞台で活躍する日も近い。 (深山恵里)
【陸上競技部】
集大成への序章 岡田 自己ベスト更新 全日本20kmW 2位
第96回日本陸上競技選手権大会において岡田久美子(社3)が女子20`競歩で2位入賞。自己ベストを更新し、輝かしいラストイヤーへの弾みをつけた
成長の証
「のびのびとレースをすることができて幸せだった」と今大会を振り返った岡田。彼女にとって大きな成長を遂げたレースとなった。
先頭でレースを引っ張る大利(富士通)についていこうと、最初の2`をハイペースで入る。しかし、後半の失速につながると判断すると、3`以降はペースを落とし、自分のレースを展開。反則を一度も取られない安定したフォームを維持する。鬼門の10`地点を迎えるも焦りはなかった。「大丈夫、大丈夫」。自らを鼓舞し、彼女は力強く突き進んでいった。
残り5`。レースが佳境に入るとともに、気温が急激に下がり、低体温症が岡田を襲う。目まいで視界が定まらない。彼女の体は限界に近づいていた。しかし、もう悔しい思いはしたくなかった。不断の努力の成果、自分の成長を示したい。その思いが彼女の足を動かした。最後まで2位をキープしてゴール。昨年に引き続き自己ベストを大きく更新した。
「まだまだやれる」。日本選手権という大舞台で、自己ベストを更新するも、岡田は決して現状に甘んじることはなかった。今よりも強い自分へ、彼女の成長はまだまだ止まらない。(長田優太)
思い描く未来へ
「進化」――。昨年1年間を岡田はこう振り返る。太ももの疲労骨折から始まった昨シーズン。そのけがをきっかけにして右足強化に力を入れた。あまりのつらさに涙を流しながら練習に明け暮れる日日。確実に力はついていると実感し自信につなげた。
監督、部員たち、家族の応援や助けを支えにして、ここまで自分の競技に集中することができた。着実に自己ベストを更新し続けている岡田。周囲からは、彼女は今後日本の競歩界を引っ張っていく存在になると評されている。その期待を一身に受け、岡田は前へと進み続けていった。
「今年は本当の強さが求められると思う。どんな環境でもここぞというときに力を発揮できる選手になりたい」。これまで関東インカレ、日本インカレ共に3連覇を果たしてきたが、彼女にとってそれは通過点に過ぎない。「4連覇は必ずする。しばらく更新されないような学生記録を作りたい」とラストイヤーに懸ける意気込みは十分だ。
今までの経験がどのようなかたちとなり、結果として表れるのか。学生選手としての集大成を迎える最後の1年間。彼女はそのスタートを今まさに切ろうとしている。(竹中進)