9月12日の日体大戦をもって本学硬式野球部はオープン戦の日程をすべて終えた。その明くる13日。私たち硬式野球班は監督、選手にインタビューを試みた。そこには秋にかける自信、不安、期待など目に見えないあらゆる感情が見られた。ここでは、齋藤監督の言葉を中心に秋季の本学を分析してみたいと思う。
〜粘り、鋭さ〜
秋のリーグ優勝を目指すべく本学は8月、秋田キャンプを行なった。そのキャンプで中心となって取り組んだのが「打撃面」。春季リーグではチーム打率1割9分7厘とまったく振るわなかった本学。打線の援護があれば勝ち取れる試合がいくつとあった。監督は「うちに一番欠けている部分は粘りがないこと。だから粘りと鋭さをテーマにしてやってきた」とキャンプを振り返る。
その粘りを生み出すために監督は1,2番の固定、とりわけ出塁率にこだわった。昨年から使い続けた渡辺(経4)、荒木(法4)の1,2番コンビを足のある阪長(経3)と小技のきく岩村(経3)に一新した。実際、監督はオープン戦でこの二人を使い続けた。そしてインタビューでも「阪長、岩村の二人が確立しつつある」と力強く語った。秋季リーグでは新1,2番コンビが立教野球に新たな風を吹かせようとしている。
オープン戦の結果は4勝7敗1分と数字的には負け越しているものの監督は確かな手ごたえを感じていた。
〜帰って来た男〜
たしかに得点力アップのためには出塁率が重要である。しかし、走者を返せる打者がいなければならないのも事実だ。春のクリーンアップは多幡(経2)、和田隼(コ4)、松倉良(経4)が中心となり、出口(法3)や手塚(法2)なども大事な場面で活躍し、チームを盛り上げた。だが、一本ほしいところで安打が出ないなど主軸の不振がリーグに大きく影響した。その反省を踏まえたキャンプ、オープン戦を終え、監督は現状をこう見ている。「松倉良は自覚が出てきた。和田隼は波があり、自分のスイングがまだ出来ないようだ。多幡は貫録あるが、自信とうぬぼれは紙一重。現状に満足せず、さらなる飛躍を望んでいる。」言葉の端々から感じられるのは期待と一抹の不安であった。
しかしその打線に頼れる男が帰ってきた。その男こそ、けがから復帰した清水(経4)である。オープン戦では2本の本塁打を放つ活躍ぶり。監督も「清水が加わり、打線に厚みが出てきた」と目を細めた。秋の神宮では清水の長打に期待大だ。
〜チーム改革〜
そしてこの秋、注目したいのが大幅なコンバートである。「はっきり言って春は(勝ち点からすると)2位も5位も同じなんだ。打線のことを考えると、やはりコンバートは不可欠」と監督は説明した。そのコンバートを見ていくに当たって、まずは阪長の左打者への転向が挙げられるだろう。春からの特訓がこの秋ついに具体化する。監督は言う。「2割5分でいいと思う。とにかく転がすだけでいいんだから」その言葉通り9月12日のオープン戦、対日体大では阪長の俊足が相手の焦りを誘い、サヨナラ内野安打を記録している。すべてが順調なように見える阪長だが、それはあくまで左打者にこだわりを持つ彼の姿勢、惜しむことの無い努力から生まれた賜物(たまもの)にほかならない。
さらに多幡の二塁手へコンバートもその一つである。春季リーグまでは左翼手を守り続けてきた多幡。確かに、オープン戦では不慣れな点も見られた。しかし、高校時代は捕手と三塁手の経験もあるので内野手として今後も期待できるだろう。多幡自身も「不慣れな守備だから打撃不振になったと言われないようにしたい」と意気込んでいる。来季を見据えた監督の構想は着々と進んでいるのだ。
そして多幡が内野にまわったことで外野手の熾烈(しれつ)なレギュラー争いが起きている。荒木、清水、阪長、出口に加え、外野に挑戦する福井(観3)と数多くの選手がしのぎを削りあう。(残念ながら手塚はけがのため、今季は絶望視されている)これにより、チームでの「内なる戦い」が生まれ練習にもより活気が出るようになった。
このようにチーム改革は必ずしもポジションだけでなく、練習に対する意識をも変えつつある。
〜向上〜
春季リーグではエース・多田野(観4)と小林弘(経4)の二本柱を軸に戦ってきた本学。特に小林弘の活躍が光った。監督は小林弘についてこう語る。「チェンジアップを覚えてからかなり良くなった。それにしてもあいつは本当に努力してここまできた。学生野球の手本だよ」。
高校時代から2番手投手だった小林弘は、大学に入ってもなかなか芽が出なかった。打撃投手として明け暮れる日々も送った。しかし小林弘はめげずに努力した。その結実が現在の活躍にいたっている。小林弘は言う。「こういう(今の自分の)姿を後輩が見て、俺でもできるんだと思ってくれたら嬉しいですね」。謙虚な中にも確かな自信がうかがえた。秋も監督の小林弘に対する期待は大きいようだ。
そして秋に向けて朗報が舞い込んだ。主将・上重(コ4)がマウンドに帰ってくる。春は対早稲田2回戦に中継ぎで登板したが、アウト一つしか取れずに降板した。その後、登板することなく終わった上重。秋は果たして投げるのか注目が集まる中、上重は周囲に惑わされず、黙々と調整をし続けていた。監督は「オープン戦では打たれたものの、自信を取り戻してきた。変化球を交えながら打たせて取る投球をしている」と言い、上重は必ず使うと宣言した。そして上重は秋へ向けて「やれる限りのことはやったし、故障も治った。今季はピッチャー一筋で行きますよ」と声高に話した。
さらに速水(経4)の存在も大きい。9月10日のオープン戦、対東海大戦ではストライクを先行させる攻めの投球で3回2/3を見事に抑えた。「春にくらべ、格段によくなっている」と監督の評価も上々だ。
一方、多田野は8月にイタリアで行なわれた世界大学野球選手権に日本代表として出場。準々決勝で韓国を相手に8回1失点の内容。「イタリアに行ったから下半身がまだ出来ていない」と監督は厳しく言ったものの、この経験によって多田野がまた一皮むけたことは言うまでもない。
このように今季は春以上の投手力が期待できそうだ。秋は打線はもちろん、進化を遂げた投手陣にも注目である。
〜天高く〜
秋季リーグは4年生最後の時でもある。当然、今季にかける思いもひとしおだ。主将・上重は「齋藤監督になってからの胴上げがない。(監督を胴上げすることが)自分たち、4年生の使命だと思う」と意気込む。また、多田野は「目の前の一勝を大切にして、チームに迷惑をかけないよう最小失点で抑える」と「For
The Team」の精神を貫いた。そして多幡は「4年生に優勝させてあげたいです」と闘志を燃やしている。監督、コーチ、選手すべての気持ちはただ一つである。
監督が天高く宙を舞う日、それしかない。
最後に。「勝利へのこだわり」をキーワードにインタビューを進めたところ今季の野球部を象徴する話が聞けた。それは攻守交代をきびきびと行なっている点である。夏のある日、選手の心のスキを読み取った監督は「学生野球なんだから何か忘れていることがあるだろう」と選手全員に話した。それは技術面のではなく野球に対する気持ちの問題だった。
監督は言う。「気力がないと技術も生きない」。
その言葉、攻守交代をダッシュで行なう選手の姿――。そこに王座奪取を予感させる光が見えた。
(田代)