10月5日、関東学生テニスリーグ・入れ替え戦をもって本学硬式テニス部のメインシーズンはひとまず終わった。3部への昇格を誓って臨んだ順大との入れ替え戦。
惜しくもあと一歩及ばず、昇格の夢は来季へ持ち越しとなった。試合に敗れ、泣きじゃくる選手たちの中で堂々と、冷静を保つ男の姿があった。主将・橘(コ4)である。
高校時代、インターハイ出場経験を持ち、奈良から上京して自由選抜入試で立大へ入学した橘。
強豪とは言えない立大テニス部の中では、実力が頭一つ抜けていて、一年次からエースの座を与えられた。それは同時に常に「勝ち」を期待されている、ということでもあった。
私が実際に橘のプレイを見たのは去年の夏であるが、第一印象は「怖い」であった。一見テニス選手とは思えない風貌に、やけにごつい体格。その体から放たれるショットは強く、重い。
そしてショットが見事決まると「来いや! おらぁ!!」という叫び声で相手を威嚇する。表情は厳しく「勝つ」ことに徹していたのだろう。
今年の橘は少し違った。まずチームにおける立場が去年までとはまったく異なる。高校時代、実績を積んだ新戦力が数名加入してきたことでもはやエースではなくなってしまったのだ。
レギュラーではただ一人の四年生であり、主将である。一年生に主役の座を奪われることは不動のエースだった橘にとって、喜ばしい気持ちばかりではないはずだ。
だが、この夏の橘のプレーはのびのびとしていた。「一年生が主軸でやってくれている分、(3年までのような)自分が勝たなきゃという苦しい気持ちにはならずにやれた」と本人が話すように、試合中の表情は豊かで、むしろ余裕のようなものさえ感じられた。
そこには一年生に対する信頼、期待、そして何より今までのテニス人生で積み上げてきた己への自信が満ち満ちていた。
「テニスは人の気持ちを読むスポーツだから自分の人生においても役に立てた」と話す彼は、テニスの真髄を知ったのかもしれない。
入れ替え戦が橘にとって大学生活最後の試合となった。手の届きかけた昇格を逃した直後、橘は「悔いはないです」と言い切った。
その言葉とともに印象的だったのはさっぱりとした、無邪気とも思える彼の表情だった。
(2003年10月21日・新屋)