テニス部女子

全力戦
〜4年生の軌跡〜

第3章 吉井悠子




もう、本学の3部への降格は決まっていた、入れ替え戦のナンバーワン対決。主将・吉井は、格上の相手にファイナルセットまで持ち込み、ボールに食らいついていた。
 そう、これが本当に最後の試合――。

 テニスをやってきた時間は「人生そのもの」と本人が言うように、吉井のテニスとの付き合いは長い。父親の勧めもあって小学2年生の時からテニスに触れ、中学1年生から本格的に選手育成に入った。中学まではダントツのナンバーワン。そんな吉井に転機が訪れたのは高校進学の時だった。

「うちの高校でやらないか、君のテニスはいいよ」

 毎年インターハイに出場するテニスの名門・湘南工大付属高から声が掛かった。そして、吉井はテニスへ懸ける情熱からその高校のスポーツ科に進学を決意。幼稚園から高校まである一貫校に通っていた彼女にとって、それは最大の決断だった。

「中学校でもスポーツ中退って珍しかった。初めて親の反対も押し切った。初めて、自分で決めたと思う」

 しかし、高校入学と同時に吉井はレベルの差を思い知らされることになる。周りはプロを目指す一流の選手ばかり。もともと「メンタル面では強くない」吉井は、登校拒否気味になったことさえあった。「同期の中では一番弱かったという吉井だが、高校2年生の冬、コーチが吉井の潜在的な実力を見抜き、キャプテンに抜てきされることになる。そして、初めて吉井はインターハイにレギュラーとして出場し、団体で全国2位を勝ち取ったのだ。

「期待されると、伸びるタイプ。大学でも頑張ろうって思えた」

 大学に入学してから、吉井が出場した試合は数え切れない。エースとして活躍し、リーグ戦はもちろん、インカレにも4年連続出場も決めた。しかし、2年生の時に2部へ降格。戦力不足により、翌年には2部残留も危ぶまれるほどで、吉井は周りの環境に恵まれなかった。4年生になってからは、主将と一選手としてのバランスがとれなくなり、悩んだことも多かった。8月の関東大会では格下相手に敗退。

「今の戦力でリーグ戦をどう戦っていけばいいのか分からない・・・。余裕がない」

 そして――。今回の入れ替え戦は吉井のとって本当に最後の試合だった。吉井はあきらめなかった。1勝でも勝ち取ってやろうとラリーを続け、あきらめずに攻めていった。その不屈の根性は、4年間エースとしてやってきたプライドから表れたものだったのだろう。結果は負けてしまったが、最後まで見せてくれた。

「その時、わたし本当に勝負が好きで、熱いんだなって思った」

 最後に、吉井のテニス観が分かる言葉を紹介しよう。
「わたし、テニスが好き。後輩たちには、テニスができることを、周りにも、同期にも感謝して欲しい。好きなだけテニスが出来るって、幸せなことなんだから。」
 吉井は言葉通り、先輩、同期、後輩にはもちろん、われわれ取材班にもいつも思いやりを持って接してくれた。吉井の試合が見られなくなる・・・。そう思うと寂しさばかりが募る。しかし、わたしは彼女がくれた自分の弱さに打ち勝つ勇気と、胸を熱くしたことを、一生忘れない。

 吉井は社会人になってもテニスを続ける予定だそうだ。好きなものに打ち込むその姿は今までも、そしてこれからも永久に輝き続けるだろう。
                                                     
(2003年11月25日・塙)

 ――これでテニス部女子特集「全力戦〜4年生の軌跡〜」を終えます。