洋弓部男子

「風に吹かれて」

  風の強い日だった。どことなく沈みがちだった思いを振り払いたくて、あてもなく外へ出た。歩みを進めることさえ阻もうとするほどの強い向かい風。それに辟易しながらも、不意に私は取材時のあるやりとりを思い浮かべていた。


 アーチェリー。インドアの大会を除いて屋外で行われるこの競技において、風の強弱は試合展開を大きく左右する。基本的に雨天決行となるが、「雨の日より風が強い日の方がやりにくい」と話す選手は少なくない。雨の中では矢を射る際に手が滑るのではないか、的への視界も悪くなるのではないか…などと素人の私は思っていたのだが、確かに今年の洋弓部男子の試合結果を見れば雨天時よりも強風時のほうが得点は低い。では、雨よりも厄介な条件となる風に対して、選手はどう臨むのか。新主将・福島(文3)に尋ねたのだった。

 まず風の影響で思いつくのは、矢が流されてしまうことである。だが、女子以上に射の勢いが強い男子ではそれほど矢は流されず、むしろ射る際に風で身体や弓が揺れることがスコアを伸び悩ませる。それを防ぐには、しっかり身体の土台を止めていなければならない。
 加えて、矢に与える力を一定に保つため、常に力を入れ続け、射の流れ・力を止めないこと。また、それらが止まらないうちに早く射る技術が必要になるという。
 そして最も重要なのは、風がどんなに吹いていてもこれらのことをしっかり行う心の強さだと福島は語る。彼は続けた。

 「風に一番揺らされるのは心の部分」――。

 思えば、どんなことでもそう言えるのかもしれない。「風」を「困難」に置き換えるとすれば、それはアーチェリーの選手のみならず、どんな人にも、もちろん自分にも当てはまるのではないか。困難なときほど心の強さが試されるということ。風という悪条件を克服してこそ選手として強くなれるように、困難を乗り越えてこそ人も強くなれるのだと…。


 風はいつの間にか向きを変え、私の背中を押していた。心なしか軽くなった足どりに誘われるように戻ってきた、前向きで大切な気持ち。風に吹かれて見上げた空は、ただひたすらに澄んでいた。

(2003年7月29日・小見)