卓球部
〜夏草や 兵どもの 夢の跡〜

 3年前の春に降格して以来、4部に定着してしまった本学卓球部。一時は4年生の不在や主力選手の離脱で5部降格の危機に瀕したこともあった。今春のリーグ戦でも4部Bブロック5位(6チーム中)と3部昇格は叶わなかった。春季リーグ戦からしばらくした夏の日、主将・大宮(理4)に話を聞く機会があった。

 話題が新歓活動に差し掛かると、大宮の顔は急に曇った。卓球部は部員が8人しかいない。しかも4年生5人、3年生1人、2年生1人、1年生1人という人数構成。大宮も「(新入部員が)なんで入ってくれないんでしょうね?」と苦笑いを浮かべるしかないようだ。そんな中であえて聞いてみた。
――秋のリーグ戦の目標は?
大宮は頭を指差して、待っていましたとばかりに口を開いた。
「この頭を見て下さい。”何分”刈りにしたと思いますか?」

 大宮は自身最後のシーズンで3部昇格を果たす決意の表れとして頭を”三分”刈りに丸めていた。いつもと同じ目標。いつも達成できてこなかった目標。春にブロック5位の大学が秋に昇格するというのは至難の業である。一般的に春から秋にかけては卒業・入学といったメンバーの入れ替えは少なく、番狂わせは起こりにくい。正直な話、私は「ブロック優勝も難しいのでは…」という気持ちが少なからずあった。

 だが、迎えた秋季リーグ戦は圧倒だった。見違えるように接戦に強くなっていた。このチームの特徴は全員が勝ちたいという気持ちを前面に押し出す卓球をすることにある。味方がたった1ポイントを取る度に部員全員が全身全霊で大声を張り上げて、何とか後押ししようとする。特に今季は勝利への想いをいつも以上に感じさせられた。結果論ではなく、リーグ戦の序盤で「このチームは強い。負けるはずがない」と確信を持った。取材現場で時折感じる、勝つチームにしか出せない雰囲気が出ていたのだ。結果、4勝1敗で見事、ブロック優勝を果たした。

3部昇格にはここからが「いばらの道」。まず、3部最下位の大学との入れ替え戦への挑戦権を懸けた試合を、ほかのブロック1位の大学と行い、勝った場合のみ入れ替え戦へと進出できる。ここで勝てば、晴れて3部昇格となる。

 10月8日、ついにその日はやってきた。まず、流経大との入れ替え戦決定戦。1番手はエース・羽生(理4)。あえて初戦のエース対決を避ける手もあるが、本学の選択は「真っ向勝負」だ。しかし、緊張からか動きも硬く、まさかの敗戦を喫する。暗雲が立ち込める。
本学の2番手は主将・大宮。何としてでも流れを変えたいところだったが、3セットを立て続けに取られて敗れてしまう。もう負けられない本学はリーグ戦5戦全勝の羽生・里見(理2)ペアが登場。第1セットは里見のサーブが相手を崩し11−3と圧勝。ここからは接戦。第2セットは流経大、第3セットは本学、第4セットは流経大が取って勝負は第5セットにもつれ込んだ。ダブルスでの敗北は本学の「敗北」を意味する。ベンチ横では出番が来ることを信じて疑わない5番手・矢沼(文4)が「おれまで回せ」と言わんばかりに猛烈なウォーミングアップを行なっていた。大宮は誰よりも大きな声を出していた。しかし、デュースの末、惜しくも敗れて本学の3部昇格はならなかった。手を掛けた3部への扉は想像以上に重かった。

 5人の4年生が抜け、来季は厳しい戦いが予想される本学。リーグ戦には最低でも4人必要となるため、春の新歓活動は非常に重い意味を持つものになる。レギュラーは里見が一人残るのみだ。客観的に見れば来季の目標は4部残留になるだろう。だが、大きなアドバンテージもある。ひとつは本学卓球部に脈々と受け継がれてきた部全体で勝つという姿勢。もうひとつは春のブロック5位から優勝したという自信である。

ブロック優勝を決めた直後、「同じ4部だからどこも実力差なんてほとんどなかった」と大宮は語った。思えば、勝敗を分けてきた差はいつも紙一重だったかも知れない。何度も泣いてきたほんのわずかな差。でも、想像してほしい。ほかの大学が一生懸命練習している中で、簡単そうに見えるその差を埋めることがいかに難しいことかを。血のにじむような努力で試合を迎え、気持ちでも負けないように戦って始めて埋まるかもしれない、という世界である。彼らはその難儀をリーグ戦で成し遂げたのである。残された部員たちは一番近くで春から秋への躍進を見ていた証人であり立役者でもある。

優勝への過程で感じたもの、見てきたものを彼らは忘れてはいけないだろう。これはまだ終わりではない。一つの区切りであり、始まりである。

(2006年12月4日・古矢)







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