重量挙部
〜一人じゃない 後編〜

夏休みが明けようかという9月16日、日大藤沢キャンパス体育館に威勢のいい声が響く。この日は第34回東日本大学対抗ウエイトリフティング選手権大会が行われ、各大学の選手が一堂に会した。
重量挙げの大会に初めて出向いたわたしは、独特な雰囲気に気おされそうになった。筋骨隆々の男たち。怒声、ともとれる声援。この会場に一人ではさぞ寂しかろうと本気で心配になった。そしてこちらの心配をよそに69kg級、工藤の出番が早々に来た。
ステージ中央に立った工藤の表情はとてもりりしかった。「お願いします!」と元気良くあいさつし、真剣なまなざしでバーベルを見据え、ぐいとつかむ。深い息を吸い込み、そして意を決して持ち上げる―。その時だった。
「工藤頑張れ!」「工藤ファイトー!」
どこからか沸きあがる学生らしき歓声に、私は思わず周囲を見渡してしまった。本学の関係者で学生といえば、選手の彼と私たち立教スポーツしかいないはずでは…。しかしその予想に反し声援を送っていたのは、えんじ色のジャージを身にまとった男女だった。早大の学生であるにも関わらず、精一杯声を張り上げている。その表情からは、大学は違えどともに練習する仲間を心から応援したいという気持ちが溢れ出ていた。
工藤はこの日、クリーン&ジャークで自己新となる121sを記録した。

試技終了後、工藤に聞いてみた。早大の学生から応援されていますが?
「練習でお互い顔を知っていますし、応援してくれることはうれしいです。力になっています」と試技中とは違った穏やかな表情を見せて語った。そのすぐ傍では本学のOBが彼を見守っている。私はそのとき、たとえ彼が本学唯一の部員であったとしても、一人で練習をこなしているのだとしても、寂しさを感じない理由がわかった気がした。立大外の人々が、立大を卒業した人々が彼を支えているのだ。彼は高校時代に大事にしていた「チームで乗り切る」という考えを、今周囲の人々にダブらせているのかもしれない。

夏のあの日、彼に聞いてみた。来年の春はどんな人に入部してほしいですか?
「うーん…。どんな体型の人にも必ずメリットはありますし…興味を持ってくれれば誰でもいいです(笑)」。そう言って、工藤はまたはにかむように笑った。
 
(2006年12月4日・須部)







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