アメリカンフットボール部
―改革者・北村雅史―

 昨年12月9日に行われた東京学大との1部・2部入れ替え戦。延長戦にもつれ込む激戦の末、本学は1部残留を決めた。涙を流し勝利を喜ぶ選手たち。しかし、その歓喜の輪の中に一人、悔し涙を流す選手がいた。北村雅史(当時経3)、後に新チームの主将となる男である。
涙の訳を語る前に、彼の経歴を紹介する必要があるだろう。抜群の運動能力を持ち、本学の守備の要としてフィールド上でその才能を遺憾なく発揮している北村だが、アメリカンフットボールをはじめたのは大学入学後。元は生粋の高校球児であった。それも甲子園常連校で4番を打つほどの実力をもつ一流の選手である。そんな彼がアメリカンフットボールへの転向を選んだ理由は「熱さ」。無論、野球場が暑かったわけではない。より熱くなれるスポーツを探していた北村は、友人の紹介でアメリカンフットボールと出会う。そして、後の彼の活躍を目の当たりにして、ひとつ断定できることがある。この出会いは決して偶然ではない、必然なのだと。
競技を始めた北村は、その類まれなる身体能力を武器にメキメキと頭角をあらわす。そしてその活躍はチーム内に留まらなかった。わずか一年も経たないうちにU−19日本代表に選出されたのである。この経験が北村に与えた影響は大きい。高いレベルの試合で技術的に大きな収穫を得、何より、ともに戦った他大学の選手のアメフトにかける思いは、彼のアメリカンフットボールに対する情熱をより強いものにした。
順風満帆に見えた競技生活。だが昨シーズン、北村の行く手には逆風が待ち構えていた。まさかのブロック最下位。ここでようやく涙の訳を語ることができる。もちろん最下位に沈んだ悔しさも理由のひとつではあろう。しかしそれ以上の訳がある。「チーム全体で本気になっていないのが悔しかった」と語る北村。そんな、敗戦が続いても焦りを抱かないチームの雰囲気と、「負け続けて気持ちも落ち込む。立て直しできないまま敗戦を重ねた」というような選手たちの気持ちの弱さが悔しかったのだ。この悔し涙は彼にひとつの決意を抱かせた。チームの改革への決意である。
 改革は意識面から始まった。北村がチームに求めたのは勝ちにこだわる気持ち。それは今季のチームのスローガンに表れている。3K1G。三つのKは共通認識、継続、危機感を、Gは具体化を示す。チームで意識を共有し、一日一日目標を持って、常に本気で練習に取り組む。本気で取り組めば自然と危機感が生まれる。それを継続する。すべては勝利のために。基本的なことではあるが、何より大切で難しいことである。この意識改革の成否が今季のリーグ戦の鍵を握る。
 チームは変わるのか、それを試す絶好の機会があった。5月はじめに行われた二試合の定期戦である。これを連勝で終えた本学だが、前半リードするものの後半に追い上げられた同大戦、試合終了間際の得点で勝利した桃山学大戦、ともに内容はまだまだ満足のいくものではない。それでも北村は試合後「気持ちの部分が変わった、全員がこのままでは勝てないことをわかっている。次にどうすればいいのかを考えている」と語った。昨年のような甘えの無い、選手たちの危機感と共通した意識。これらが物語るものは、明らかなチームの変化である。改革は進んでいる。
 1部には今年も強豪校がひしめいている。チームの前途は決して平坦なものではないだろう。しかし「目標は本気でやること、そして毎試合一戦必勝の気持ちで戦うこと」という彼の言葉には期待を抱かせる何かがある。北村の下でチームが変わったとき、彼は再び涙を流すはずだ。昨年とは違う、笑顔の涙を。

                                     (6月9日・丸山)