バレーボールがくれたもの
〜女子バレーボール部・那須恵(営4)〜


大きく息をつく。投げ上げたボールをオーバーハンドで叩くと、もう頭には何も浮かばなかった。「一球一球が最後なんで」。春からずっと、自らに言い聞かせるようにそう語っていた。最後の瞬間が、目の前に迫っていた。

3年生でありながらキャプテンを務めた昨年は、那須にとって苦しい一年だった。ひとつ上の代が残るチームを引っ張っていくことは、容易なことではない。自分のことでいっぱいいっぱいになり、先輩に頼ってしまうこともあったという。その一方で試合に負けると「先輩方に申し訳ない」と、責任感から涙を浮かべた。
那須は燃焼してしまったのかもしれない。当時のチームの柱・小泉(08年度卒)は、昨シーズン終了時、そんな風に考えていたという。しかし今年、那須について改めて聞くと、「去年とは違いますよね」と言って笑った――。

秋季リーグの後半戦、それまでリベロとして不動のレギュラーであった那須が、スターティングメンバーから外れた。ピンチサーバーやピンチレシーバーが、彼女の新しい役割となった。「戦術のことを考えて」と事も無げだったが、少なからぬ悔しさと葛藤(かっとう)があったに違いない。しかし、それでも彼女の姿勢は変わらなかった。キャプテンとして何をすべきか、そして、何ができるのか。昨年の苦しさから得た経験が、間違いなく彼女を支えていた。
試合中、那須の声が途切れたことはない。ベンチでも、ウォームアップエリアでも、そしてもちろん、コート上でも。最初から最後まで、チームを鼓舞(こぶ)し続けた。エースの石間(コ1)は語る。「一生懸命自分が(チームを)引っ張ろうと思っていたんですが。引っ張ってくれたのはメグさんでした」。もう、去年とは違う。体育館に絶えず響く、何の迷いもない彼女の声が、それを何よりも物語っていた。

立教コートに試合を決めるスパイクが決まったとき、那須は一瞬、呆然と立ち尽くした。が、すぐに清々しく、笑った。

「自分自身です」。最終戦終了後、"バレーボールとは?"との質問に、じっくり考えた末、那須はそう答えた。「バレーをやってなかったら、今の自分はないので」。笑顔でそう話す。もう思い残すことは何もない。そんな表情だった。そこには確かに、去年と違う彼女がいた。
(2009年11月7日・森田)





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