短い髪を一つに結わえ、彼女はコートの隅に立っていた。 身長146センチ。小柄だが、埋もれない存在感がある。 4年生唯一のマネージャー・秋山彩(文4)。 試合会場で見る彼女はいつもパワーにあふれていた。 ボール拾いやドリンクの補充、OBとのやり取りなど、会場を小走りでかけまわる。 仕事ぶりは誰もが認める完璧さで、後輩マネージャーも「かなわない」と口をそろえる最小にして最強のマネージャー。 それが、この日は少し違っていた。 夕方の新座体育館。アップを始める選手たち。 せわしなく動くはずの秋山が、コートの隅に立たずんでいた。 どこかさみしい後ろ姿。それはきっと、12月9日、今日が彼女の引退の日だからに違いない。 弟の試合を見に行き、男子バレーと出会った秋山。 応援する楽しさを知り、大学ではマネージャーの道を選ぶ。 しかし入部当初、立大は13部中8部という暗黒の時代にあった。 部員もマネージャーも少なく、秋山は異例の早さでマネージャー長の仕事を任される。 選手たちは昇格を誓った。 練習日を週5日に増やし、がむしゃらに練習する。 しかし、その道のりは順調と呼ぶには程遠いものだった。 部員同士の衝突も絶えず、時にはチームが割れるほど対立したこともあった。 あくまで選手を支える立場でしかない「マネージャー」。 その真価が問われる中、秋山が貫きとおした一つの姿勢がある。 「"良いマネージャー=強いチーム"。全てがチームの勝ちにつながると思って、マネージャーは常に高い意識を持ち続けるよう、自分に言い聞かせてやってきました」 秋山は声を絶やさない。練習のサポートをしながら、試合のベンチで、勝った時も、負けた時も、秋山は選手に声をかけ続ける。 一日に必ず全員と話す機会を持つようにした。 「みんなのこと心配だし、成長を願っているし」。 その献身的な姿勢と見守る温かい目、そして多くの苦労から身につけた気の配り方が、秋山が完璧なマネージャーとよばれるゆえんだ。 入部から4年の月日が経った。 気付けば体育館はにぎやかになる。 マネージャーも増え、秋山が後輩にてきぱきと指示を出す場面もよく見られた。 昇格、残留と途中何度も岐路に立たされ、課題に直面するたびに一丸となって乗り越えてきた立大。 そして春。 悲願の3部昇格を果たした瞬間は、決して忘れられないものとなった。 「選手にはとにかく強くなってどんどん昇格してほしいです。マネージャーはいい意識、いい志をもって部活に取り組めば絶対にチームは強くなるから、そう信じてがんばってほしいです」。 あくまで笑顔で、すがすがしくそう締めくくる。 彼女が示したのはマネージャーとしての絶対像。 そして激動の部を支えたというキセキ。 最後の日に見た立ち姿は、後輩たちへの信頼と愛情の表れだったに違いない。 (2010年3月24日・石田明日香)
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