第二回 見守り続けた主将 小野秀大(観4)

記事:相馬

  小野はこの2年間、試合に出場することができなかった。
  大学からアイスホッケーを始め、2年生からGKとしてゴールを守った。しかし3年生になって優秀な経験者が入部したことで、小野の出番はなくなってしまった。
  それでも、ベンチには常に真剣な眼差しでチームを見守る姿があった。
  毎試合後のインタビューで、負けた時は誰よりも悔しそうに、勝った時は誰よりも喜んで話す。プレーヤーとして氷上に上がれなくても、小野には一つの決心があった。「俺について来いってタイプの主将ではないし、ホッケーの実力がないのは分かっている。だからチームのためなら頭だって下げて、色んな人に協力してもらう」。試合に出られない分、プレー面では後輩や同期に力を借りる。自分は、自分のできることをする。
  そんな小野の真摯な姿勢は、本人も気づかないうちにチームの原動力になっていた。インフルエンザにかかり休んでいた時も、試合を終えた後輩から真っ先に「やりました!」とメールが着た。誰よりも仲間を信じて見守る小野に対して、同期も後輩も全力で応えようとしたのだ。

  13年ぶりに出場するインカレの1回戦。負けたら終わりのトーナメント戦で、先発GKは小野に任された。2年間のブランクがある彼にとっては、当然大きなプレッシャーだ。「チームのことより自分のことで精一杯だったけど、後輩に『自分のことだけ考えて下さい』って言われて」。試合前日まで緊張は解けなかったが、そんな時も後輩たちが「大丈夫、取られたら取り返すだけですよ」と明るく声を掛けてくれた。これまでチームを牽引してきた小野の、花道を飾りたい――試合前、下級生は口々に語っていた。



  運命の1回戦、本学の先発GKに2年間のブランクは感じられなかった。氷上、ベンチ、観客席。360度からの支えを一身に受け止めて、小野は堂々と戦った。誰もが勝利を信じて疑わなかった。

  試合終了1秒前で同点に追い付かれ、PS戦にもつれ込む。たった一人でゴールを守る小野に、たくさんの声援が掛けられる。1−1で迎えた7回目。無情にも、弾いたはずのパックはゴールラインをすり抜けた――。

  立ち尽くす小野のもとには、これまで彼が信じ、見守り続けた仲間が駆け寄ってきた。「プレー上等でした。秀さんのせいじゃない」。「すみません」。後輩の言葉が、胸に染みる。「そんなこと言わせたくなかった。申し訳なさで一杯だった」。
  「最後に笑って泣いて終わりたい」と語ってきた小野。喜びの笑顔や涙ではないにしろ、最後にこれだけの悔し涙を流せる、結束の強いチームを作り上げたのはほかでもない彼自身だ。




  小野を始めとする4年生は、3部から1部昇格というアイスホッケー部激動の時代を共に駆け抜けてきた。「心許せる存在」だった平野(済4)。「最高の主務」の井本(法4)。小野に代わりキャプテンマークを付け、「いつも助けてくれた」小川(コ4)。「今のメンバー一人でも欠けていたら無理だった」と言えるほどの仲間に、大学四年間で出会うことは簡単なことではない。

  この「絆」は、次世代へと確実に受け継がれるだろう。
(第二回・1月29日)





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