それでも笑顔でいてほしい 〜女子バレーボール部〜 われわれ女バレ担当記者が「これでもかっ!」というくらいに使い続けてきた言葉がある。
「「笑顔勝利」を目指し…」 「久しく見られていない笑顔勝利を飾りたい。」 「最後の最後でようやく納得のいく「笑顔勝利」を飾った。」 女子バレーボール部のスローガン、「笑顔勝利」。昨年の秋リーグの戦評では9本中5本の記事に登場している。脅威の打率.556。普通なら後輩記者のボキャブラリーの少なさを叱りつけるところだが、実際のところ、その気持ちもわからなくない。このスローガン、驚くほどチームにぴったり、しっくりきているのだ。
思わず頷くぴったりさ加減
部全体がニッコニコしている。新米記者として試合を取材しに行った1年生の春、わたしはチームからそんな印象を受けた。そしてその印象は、2年半以上が経った今でも変わらない。何せ、他にも様々な担当部を取材してきたが、こんな部は他になかったからだ。試合時間の半分を笑顔に費やしていると言っても言い過ぎではない。それでいて、現在関東リーグの2部にいるのだから、文句のつけようがないじゃないか。ただヘラヘラしているわけでは、決してないのだ。
そして上述の初取材時に何より驚いたのが、試合会場にかかる横断幕を発見したときだった。女子バレーボールの試合会場は、各大学、色とりどりの横断幕で彩られているのだが、正直に言うとあまり印象的なものはない。「一球入魂」とか「一生懸命」とか、こう言ってしまうと失礼かもしれないが、ありきたりな類のものが多いのだ。だが贔屓(ひいき)目抜きにして(いや、贔屓目かもしれないが…)、立大の横断幕に書かれた文言には、思わず頷いてしまった。「笑顔勝利」。うん。本当に、彼女たちのために作られたかのようなスローガンだ。
そんなこんなでわたしを大いに驚かせたこのスローガン。取材を進めていくうちに、実はそれなりの歴史を持っていることがわかってきたりもした。ちょっと真面目に書いてみる。
躍進のかたわらに
03年12月5日発行の立教スポーツには、「女子バレーボール部6部昇格」の見出しが踊っている。今からすれば7部リーグに所属していたことも驚きだが、記事によると、なんと前年度の春までは部員が2人しかいなかったそうだ。念のために書いておくが、バレーボールは6人でプレーするスポーツである。2人では試合にならない。それくらい危機的な状況を乗り越えての昇格。記事では「うれし涙の「笑顔勝利」。」と伝えられている。「泣くほどうれしかったんだなぁ…」というのは置いておいて、すでにスローガンが「笑顔勝利」であったことを知らされる。
ちなみに、この6部昇格を皮切りに、女子バレーボール部は快進撃を始める。あれよあれよという間に4季連続昇格を成し遂げ、一気に3部リーグにまでのし上がったのだ。そうなると、当然有力な選手も集まりやすくなる。今年度のチームを見ても、下北沢成徳、市立船橋などなど名門ぞろい。08年度からのアスリート選抜入試開始も相まって、戦力も充実し始めた。7年前の選手たちも、今のメンバーを見たら腰を抜かすに違いない。
だが、「戦力の充実」などよりも、もっと、ずっと重要なことは、「笑顔勝利」が継承され続けてきたという事実だろう。チームカラーの継承がどれほど困難で、どれほど大切なことか、今年1年の取材を通して、わたしはそのことを痛いほど実感した。これより先は、さらに力を入れて、真面目に書く。
笑わなければ… 相手が強くなればなるほど、笑っているのは辛くなる。今年度の秋リーグ、立大は本当に苦しみ抜いた。昇格1年目ということもあり、周りは格上だらけ。個の力では張り合えても、チーム力では他のチームに一歩及んでいなかった。開幕から敗戦が続き、試合後はチームの課題や反省が口をついて出た。「チームに軸がない」、「焦りが試合に出ている」、「安定感がない」――どれも的確な指摘ではあったが、外から見ていたわたしにとって、気になることは他にあった。
笑顔がぎこちない。素人の戯言だと思ってもらってもかまわないが、何にせよ、3年間取材してきた中で一番強いはずのチームが、一番わざとらしく笑っているように見えたのだ。
今までは、「笑顔だから勝てる」、「笑顔の立大は強い」と思っていた。少なくともわたしは「笑顔勝利」とはそういうものだと思っていた。そして事実、この時のチームは「笑おう」とする意識が先行しすぎているように見えた。だが、本当にそれでいいのだろうか。もしかすると、笑ってばかりもいられないのではないか。勝つためには、チームカラーすら変えるべきなんじゃないか――。
エースの苦悩 不調のチームの中でも、明らかにいつもと違っていたのがエースの石間(コ2)だった。プレーがなんとなく固く、いつもの元気がまったく見えてこなかった。
彼女は1年次からエースとして、そしてムードメイカーとしてチームを引っ張ってきた。実力も主将の鈴木雅(文3)が「周り(2部校)を見てもセンターで石間より上手い人はいない」と太鼓判を押すほど。だが、彼女はこの秋、大いに悩んでいた。「高校と大学では違うんじゃ…」という考えから、言いたいことを言わないこともあった。後輩ができたことで「1年生が思い切りできるように」とも考え始めた。それが全部迷いとなって、プレーや表情に悪い形で表れてしまっていた。
「吹っ切れた」
「吹っ切れました」。10月10日の順大戦の直後、石間はそう語った。本当に、そういう試合だったのだ。試合はストレート負け。はたから見れば完敗だったが、その試合の第1セットでチームは確かに何かをつかんでいた。得点が決まるたびに、エースに、チームに、自然な笑顔が戻っていった。
「相手に勝つのが大事なのに、チームメイトの顔色ばかり気にしていた」。チーム不調の原因を、石間はそう振り返った。相手に勝ってこそ、笑っていられる。1点1点の得点でも、きっちり相手と勝負できなければ、笑顔は生まれない。それは彼女たちが強豪校としのぎを削る中でようやく見つけた、新しい「笑顔勝利」の形だったのではないだろうか。
立教の元気印 「その代その代で、解釈してくれれば」。そういえば、前主将の清水(コ4)がそんなことを言っていたことがあった。どうしても書きたいので、ここに清水の話を添えておきたい。無理やりにでもねじ込んでみようと思う。
ハスキーボイスでの「よっしゃー!」と、派手なガッツポーズ。コート上の彼女は「笑顔勝利」を象徴するような存在だった。ここだけの話、スパイクを決めた後のガッツポーズが絵になりすぎて、
ウォームアップエリアから声を出す姿も、なんとなく遠慮がちに見えた。春リーグ終了後には「主役と言うより、必要とされつつ、サポートしていきたい」と話していたが、わたしは(性に合ってないんじゃないかな…)とも思っていた。ずっとレギュラーとして出場して、自らが喜ぶことで周りに力を与えてきた選手である。外からチームを支えることに戸惑いや難しさも感じていたのではないだろうか。
そんな清水だったが、秋リーグの最終戦を勝利したときは、なんとなくホッとした表情をしているように見えた。「やっとお互いのためにプレーできるようになってきた」。こうやって安心できるまで、どれくらいの苦悩があったか、インタビューを受ける清水の表情から、なんとなく推し量ることができた。とにかく、彼女はホッとしていた。
4年間、本当にお疲れ様でした。
それでも「笑顔勝利」を! 話は大幅にそれてしまったが、最後にこれだけは書いておきたい。
「笑顔勝利」。わたしが人生で出会った中で、一番素晴らしいスローガンだ。わたしが取材してきた3年間、チームを支え、その成長とともに確実に継承されてきたのが、このスローガンだった。
時代が変われば、選手も入れ替わるだろうし、今の勢いを見ていると、さらに上の舞台に立つのも、そう遠い未来のことではないのかもしれない。
だけれども、「笑顔勝利」だけは、どうか引き継いでいってほしい。冒頭の繰り返しになるが、そんなチームは他にないのだ。そしてこれだけドンピシャなスローガンも他にないのだ。誇りを持ってほしい。意地を張ってほしい。いつか笑顔で、日本一になってほしい。
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本当に最後に なぜここまで駆け足で、詰め込んで書いたのかと言えば、これが立教スポーツの記者としての、わたしの最後の記事だからだ。ほとんどわがままな感じで、稚拙な文章を書いてしまったことを最後にお詫びしたい。
ただ、案の定、書き足りなかった。本当はわたしの同期である3年生のことも書きたかったし、有望な1年生たちのこと、新主将のこと、丸山姉妹のこと、応援に来ているご家族のこと、小池さんのこと、山崎監督のこと、などなど、もっと取材して、もっと書きたかった。
まあ、それは後輩記者たちに託すことにしようと思う。きっといい記事を書いてくれると信じている。読者の皆様、どうぞご期待ください。
(2011年1月26日・森田直)
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