洋弓部

努力の果てにつかむもの



集大成となるインカレに単独出場
  「アーチェリーをやってきてよかった」。
  優勝したのではない。2011年9月15日、決勝ラウンド一回戦敗退後にも関わらず、小木曽和輝(法4)の口から出た感想は清々しいものだった。2年次に立大から18年ぶりとなる出場を果たしたターゲットでのインカレ。3年目の今年は小木曽にとってまさに学生アーチェリーの集大成となる大会であった。目標であった入賞とは程遠い結果に終わってしまった彼の一言は、なぜこれほどまでに清々しいのだろう。



KSAFカップでの試合風景
  遡ること半月。猛暑の余韻冷めやらぬ富士見に、後輩たちに交じって弓を引く小木曽の姿があった。春のリーグ戦以降しばらく休養し、たるんだ体に鞭を打つ。後輩たちの練習試合後、射場に残って黙々と射ち込みを続けるのだ。8月初頭に行われた個人選手権予選では、リーグ戦以来となる実戦に体が付いていかず、本戦への進出ライン*1ぎりぎりの627点でなんとか通過。25日の本戦においても本調子とは言い難いコンディションであった。2日後の27日に行われたKSAFカップは、彼が前年度に制覇している大会。セットシステム*2が導入された今大会も106点、105点と安定した得点を重ねるが、3回戦に一昨年度の覇者、専大の星の前に敗れてしまう。
  「試合までに弱点を補強できなかった。ここをバネにインカレで必ず結果を残す」。
  この敗戦が立大の歴史を塗り替えてきた男の闘争心に火を付けた。

*1 上位93名、612点以上。進めるのは「インカレ予選」の本戦。
*2 エンド毎の勝敗で、勝者2ポイント、引き分け1ポイント、敗者0ポイントが与えられ、4ポイントを先取した者が勝者となるルール


  これ以降、4年生は通常参加しない合宿にも一部参加するなどインカレに向けての準備に余念はなかった。努力の甲斐あって、大会前のコンディションは万全の仕上がり。いよいよ迎えた初日、公式練習*3でもかなり調子が良く、予選ラウンドではロング(90m・70m)の時点で15位前後と快調な滑り出しを見せる。余裕の予選通過かのように思えたが、得意のショートハーフ(50m・30m)でまさかの失墜。1242点、28位と苦しい予選通過となった*4。予選通過順位は下になればなるほど上位で通過した選手と当たることになる。小木曽の決勝ラウンド一回戦の相手は、なんと前年度準優勝・近大の太田となった。

*3 インカレは3日間で、14日に公式練習日、15日が予選、16日に決勝ラウンドという流れ。 会場は大阪府豊中市、服部緑地公園内にある陸上競技場。大阪出身の小木曽は会場から1時間 ほどの場所にある実家から通った。
*4 決勝トーナメントへの進出ラインは上位32名。


射つ前に行う精神統一
  「風吹いてきたし、ここまで来たら後は運かな」決戦の朝、小木曽の胸中は意外にも穏やかなものだった。決勝トーナメントのルールは70m、3射3セット、6点先取だが、試合内容は以下の通り。

  1射目 2射目 3射目
小木曽 10・9・8/27 10・9・9/28 10・9・7/26
小林 10・9・9/28 10・10・9/29 10・10・9/29


  ストレート負けだった。得意の70mで調子も悪くなかったが、相手はさらに上をいった。27点以上は関東ではかなり上のレベル。実力を出し切った結果の完敗であった。試合後、小木曽に聞いてみた。3度のインカレを通じて今、何を感じているのかと。すると彼は、悔しさを噛みしめながら静かに語ってくれた。

ナイスショット後は気迫を見せる
「アーチェリーをやってきてよかった。アーチェリーに対してだけでなく、精神的にもいろいろ強くなれたと思う。最後のインカレで結果を残せなくて悔しいけど、達成感はあったかな。もし今後、立教からインカレに出る選手がいれば、自分が駆けつけられる。伝えられる。自分の経験を下に還元できたらこの4年間には意味があったんじゃないかな」

  競技を問わず、並々ならぬ努力を続ける才能を持った選手というのは独特のオーラを放っているものだ。またその選手たちが集まる会場は、例外なく洗練された空気感に包まれる。小木曽は近年立教から唯一その高みへ達した選手。彼の謙虚な言葉から感じられる清々しさの正体は、まさにその境地に達した選手のみが放つ貫禄のオーラなのだろう。彼はそのオーラをまとった「強い先輩」のポジションを後輩に託したがっている。しかし今、後輩の目に小木曽和輝はどう映っているだろう。憧れの選手か。「目標」か。彼はもちろん、憧れの先輩として見られることを望んでいない。彼の希望、それは後輩たちの「通過点」となることだ。

「だからこそ下級生に来てもらって、この雰囲気を味わってもらいたかった。アーチェリーは経験者が強いのではなく、努力で上に行けるスポーツ。素人でも3年やれば十分、優勝も狙えるし、大学から始めるにはうってつけ。はじめから頑張りもしないで諦めてちゃいけない。心がけ次第で640(今回の予選ラウンドのショートハーフの点数。立大の現状では、ほとんどの部員が目標とするレベル)でも見方が変わる。640がしょぼいと思えるくらいじゃないと強くなれない。それくらいできなきゃ体育会でやっている意味がない。逆にそれをやりきったら何かしら良いことがあるはず」
試合後、爽やかな笑顔を見せてくれた小木曽


  日々の努力の果てにつかむことができるもの、それは必ずしも輝かしい栄冠だけとは限らない。彼の使った、「何かしら良いこと」という表現が、その可能性を示唆している。「何かしら良いこと」は人によって様々であり、努力が報われる、とは努力した者のみがこれをつかめることを言うのだろう。アーチェリーにはターゲットの他に、フィールド、インドアという競技があるが、10月、12月にはそのインカレが控えている。4年の冬、さらなる高みへ。小木曽の飽くなき挑戦はまだまだ続いていく。
(9月22日・田中大志郎)


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