Offensive Line・Defensive Line
チームの最前列で構えスタートと同時に激しくぶつかり合うアメリカンフットボールで最も特殊なポジジョン「ライン」。横幅のある体に迫力あるタックル。ラインというポジションはオフェンス、ディフェンス両方にあるが、一概に「ライン」とは一くくりには出来ない。
〜アンサングヒーロー〜 オフェンスライン オフェンスチームは観客から大喝さいを浴びる華やかなポジションばかりである。しかし彼が輝けるのにはオフェンスライン(以下OL)が陰で体を張っているからだ。2011年度にOL陣の先頭に立っていた松崎にこのポジションは何か聞いてみた。 すると一言、 「アンサングヒーロー。縁の下の力持ちといったポジションですね」。
"謳われることのない英雄"とも訳されるアンサングヒ―ロー。 OLの魅力はこの言葉に凝縮されている。
・1つのユニット OLは5人で一つのチームである。ユニットとしてのプレーが求められる彼らは何よりOL間の意思疎通が欠かせない。味方のRBを通すため、司令塔を狙う相手ディフェンスから守るため、息の合ったユニットプレーを確実にこなすことを要求されている。立大のOLは特にチームプレーを意識している。何百通りもある作戦をOL同士の綿密に話し合い、それを全て理解する。RBを進ませるため、動きに乱れは許されない。頭脳が必要とされるポジションと言えばQBと思われるだろうが、OLにも戦略を十分に理解し、それを実際の試合でミスなく実行する頭脳がなければ務まらないのである。その点では森田OLコーチは「一番複雑なポジション」とも評している。 ・目立たないポジション? 球技スポーツを観戦するとき、観衆の目は誰に向くのか。当然ながら大勢はボールを持つ選手に向く。QBやRB、WRはひときわ目立つポジションだろう。しかし、OLはその目立つための条件である「ボールに触ること」が許されない、目立とうにもそれができない役回りなのである。OLはある意味球技をしているというよりも格闘技をしていると言っても過言でもない。 しかし一見地味に思える彼らは、自分たちのポジションについて口をそろえてこんな言葉を言った。 「勝ったらOLのおかげ、負けたらOLのせい」。 なぜボールにも触ることができないポジションがそんなことが言えるのだろうか。 以下の図を見てほしいのだが、ラインはチームの最前線を任されている。自陣が獲得したヤードの一番前にいるために、ここが崩れるとオフェンスチームは相手ディフェンスの猛攻を受けてしまう。またOLの真後ろにはQBという司令塔がいるため、QBに状況判断をする時間を与えるためにも彼らがしっかりとディフェンスから"護衛"しなければならない。またRBが前に進むためにOLがディフェンスをブロックして、道を作らなければならない。逆に考えれば、彼らが崩れない限りRBを走らせるのも容易になるし、QBも安心して冷静な判断が下せるのである。
「試合中RBに『OLのおかげで走れた』と言われた時はやりがいを感じた」。このように話してくれた松崎は「目立ちたがりだけではチームは成り立たない」とOLに必要な心構えを教えてくれた。 ・OFFENSIVELINE OF RUSHERS 今年度ラッシャーズの主将であり、同時にOL・DL両ポジションを務める平戸(済4)は個々のファンダメンタルの強化を第一に今季の課題にあげ、OLがみな250sのダンベルを挙げられるになるのが最終目標としている。嫌でも体と体のぶつかり合うため、この練習は避けて通れない。筋力トレーニングによってウエイトをあげて「しつこくブロックできる」ラインを目指している。また練習中のコミュニケーションも大切にしており、辛いトレーニングの最中もみんなで声を出して場を盛り上げている。「今年はOLがオフェンスのメインだと言われている。そのつもりでもっともっと盛り上がっていきたい」と平戸は意気込んでいる。 ・〜破壊する守護神たち〜 ディフェンスライン OLがオフェンス陣を守りサポートするなら、ディフェンスライン(以下DL)は相手を倒すことで動きを止めてチームを守るのである。よくDLを表現する時に彼らを野獣と呼ぶことがある。それはディフェンスにも関わらず、彼らは野獣のごとく「オフェンスを潰す」という気概を持っているからだろう。 まさに"攻撃は最大の防御なり"を体現しているような存在といえる。
・ディフェンスラインの醍醐味 ディフェンスの最前線で相手を迎え撃つのがDL。彼らはディフェンスでありながら、攻撃的なプレーを要求される。DLは「プレーを壊すこと」こそが真骨頂であると言える。 「相手のOLのやりたいプレーを壊して、OLをコントロールする」と森野(済4)が言うようにDLの最大の敵は、セットした時に常に向き合っているOLだ。彼らはボールキャリアーを守り1ヤードでも前に進むため、さまざまな策を練ってディフェンスを出し抜こうとする。そこをDLがOLの動きを読んだうえで動きを封じるのだ。そのためにDLはオフェンスの動きを学んでおく必要がある。 もう一つDLの醍醐味といえば"QBサック"だろう。OLをすり抜けてオフェンスの司令塔であるQBを倒すビッグプレーだ。QBがボールを持った状態で決まれば、大きな後退となりオフェンスにとっては致命傷にもなりうる。試合中に決まれば、ランでは1stダウンを獲得しにくいので、リスクがあるパスかなるべくゴールから遠ざけるパントを選択せざるを得なくなる。攻撃的な戦術を取ってこのQBサックを決めれば、味方から大喝采を浴びる。 ・大事なのは「始めの3歩」 ラッシャーズのDLが口をそろえて大事だと明言するのは"始めの3歩"である。というのもプレーが始まった瞬間ライン同士がぶつかるために、ヒットした時に押し負けてしまえばすぐさまそこにスペースが生まれてしまい、ボールキャリアーに入り込まれてしまう。ここでOLに押し負けないことこそDLの最優先課題なのだ。 押し負けないために重要になってくるのがヒット時の"スピード"と"位置"だ。たいていの場合OLを務めるのは各校自慢のビックサイズの選手が大多数である。そのためラッシャーズはOLよりも素早くタックルをすることを徹底している。今年度OLからDLにコンバートした佐野(法4)は「細かいステップの一つまでDLは徹底している。プレー開始の素早くリアクションするなどOLとは違う」という。リアクションを早くすることで相手よりも一歩先にヒットできる。 屈強なOLに正面から当たるのは得策ではない。そのためDLはスタート時にややOLの斜めから姿勢を低くしてヒットさせる。この理由は相撲やレスリングなどをイメージしてもらえれば分かりやすいかもしれないが、特に姿勢を低くする理由は相手の体制を崩す競技の基本中の基本だからだ。これによってヒットの位置を真正面から少しずらしOLの体制を崩すのである。この"スピード"と"位置"を徹底するために"始めの3歩"が何より大事になってくる。
・DIFENSIVELINE OF RUSHERS 今年度DLはスタートの走るレーンとリアクションの練習を繰り返し行っている。3、4種類あるレーンを練習で叩き込む。叩き込んだ上で「試合の中で相手も対応してくるので、こちらも試合中にしっかり修正する(森野)」ことも念頭に置いてプレーしている。また他大のプレーヤーに比べややサイズが小さいというラッシャーズのDLは、それを自覚した上で、始めのステップのテクニックを磨くことで「テクニックとスピードを兼ね備えたDL」を理想像として練習を重ねている。 昨年度DLのパートリーダーを務めた小山(23年度卒)はDLで最も記憶に残った試合についてこう話してくれた。 2年生の時に関学大戦でタッチダウンされたら負けるという場面で、最後相手の攻撃だった。残り5、10ヤードのところまで攻められてダメかと思ったのですが、最後の最後まで粘って4回抑えられた時は本当にうれしかった」。 こういった場面で試合の勝敗を決するのは「テクニックとスピードを兼ね備えたDL」がいるかどうかなのだろう。 ラインというポジションは「ぶつかっているだけのポジションではない」のだと少しでも伝わっただろうか。このポジションこそ実はアメリカンフットボールというスポーツの中核である。観客がボールを見ている時に、彼らは味方のためにコースを作ったり、少しでも進めまいと体を張ったりしている。 でも両ラインに「どうやってラインを見ればいいですか」と質問してみれば、「ぐちゃぐちゃして分からないだろうから、そんなに注目しなくていいよ」と笑って答えてくれる。 (11月5日 山崎翔太)
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