箱根駅伝を目指す"非強化校"の強化


立大、半世紀ぶりの出場を目指して


■総合28位で総合は遠く…

  新春の箱根路を走る"権利"を懸けた、本戦よりも厳しい争い。第91回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)の予選会が、10月18日、東京・立川の陸上自衛隊立川駐屯地から国営昭和記念公園までの20キロのコースで行われた。

 『10枠』という狭き関門に、全48校、561人の選手が挑戦し、名門校の伝統を守った大学、初出場を決めた大学など、今年もさまざまなドラマがあった。

 そんな中、第44回大会(1968年)以来の本戦出場を目指した立大は、上位10人の最終総合タイムが11時間1分54秒で28位。トップで本戦出場を決めた神奈川大とは53分43秒の差がつき、10位の創価大とも47分51秒の差で、今年もまた悲願達成はならなかった。

■夏合宿を順調に消化

  箱根駅伝予選会は、立大陸上競技部長距離パートにとっては最大の目標としている大会。そこには他のパートからの応援も熱く、部活動に関わる全員の夢として本戦出場を目指している。陸上競技部は短距離、中距離、長距離、フィールド、マネージャーのパートに分かれているが、駅伝強豪校のように、毎日付き添い、指導してくれる指導者は存在しない。

  また、立大には元々アスリート選抜入試という公募入試が存在するが、この入試はインターハイベスト8などといった選手ではないとなかなか合格することができない。そのため今日の長距離界では留学生の台頭や他大学のリクルートの動きが早いことから、選手獲得の動きが遅れ、よりレベルの高い選手を獲得できないのが現状ではある。
  それでも学生の自主性に重きを置く『自由の学府』らしく、個人の力量で勉学、競技の両立を目指すべく、日々活動を行っている。

  今季はひとつ変わったことがあった。今年7月、新座キャンパス内に「セントポールズフィールド」と呼ばれる練習施設が完成したのだ。今までは代々木公園陸上競技場(織田フィールド)など学校から遠い場所を拠点にして練習を行ってきたが、学内に競技場ができたことで、効率よく練習に取り組めるようになった。これは選手たちにとっても大きな意欲につながっただろう。

  また今年の8月上旬には4泊5日の菅平での1次合宿、8月下旬には10泊11日の黒姫高原での2次合宿を行なった。長期に渡る夏合宿ではあったが、故障者も少なく、多くの選手が高いレベルで練習を積むことができた。さらに慶大などライバルとなる大学との練習も例年以上に増え、競い合うことで刺激を受け、タイムを伸ばす選手も多く見られた。その結果、1万メートルを30分〜32分台で走る選手がそろい、予選会に臨むことができた。


■関東学生連合選出までもう一歩だった

  ただ本番では、終盤で大きくペースを落としてしまい、チーム全体として好記録をたたき出すことはできなかった。20キロという距離の中で粘りを見せられなかったことは今後の課題と言えるだろう。

  そんな中でも気を吐いたのは大西政徳(コ2)。序盤から前に出て集団走を離れ、積極的なレースを展開する。最初の5キロを想定タイムを上回る15分28秒で通過すると、その後のラップタイムも15分42秒を維持。残りの5キロは16分05秒とペースを落としたものの1時間2分57秒の学内トップでゴールした。

  「一人だったので不安もあったが、周りの選手の動きも知りながら落ち着いたレース運びができた(=大西)」。

  大西は昨年の夏、けがで思うように練習ができず、長い距離に対応することができなかった。そのため、今年は故障をしないように意識しながら、距離を踏むことに重点を置いて練習を続けてきたことが、今回の記録につながった。
学内トップで通過し、チームに勢いをつけた大西


  大西の順位は190位。選抜チームとなる関東学生連合には1時間2分40秒までの選手が選出されただけに非常に惜しい結果となった。しかし、全国高校駅伝の常連校である宮崎・小林高出身で地力のある大西だけに、来年以降の選抜メンバー選出に期待が懸かる。

  今回の大西の結果について、自身も第84、85回大会で学連選抜(当時)のメンバーとして箱根路を走った中村嘉孝コーチ(08年度卒)も「(選抜への)距離が短く感じ、現実的になってきた」と評価する。

  大西と同じ2年次に中村コーチが走った時の記録は1時間3分46秒、ここから学連選抜に選出される3年次までの1年間で1時間1分32秒と2分以上縮めることができた。一方、大西のタイムは1時間2分57秒。今後、順調にタイムを伸ばせば、選抜メンバーへの選出は非現実的な話ではないだろう。


■個々の強化からチームの総合力へ

  2度選抜チームで箱根路を走っている中村コーチの存在は立大の関東学生連合選出、そして本戦出場に向けて大きな鍵となる。「体が疲れている状況での速いペースの練習や、試合の中でも一番きつくなった時の動かし方を伝えていきたい」と中村コーチ。ほぼ土日の練習のみ指導するという状況で難しさを感じながらも、自身の経験を伝えることで、チームの成長に導きたいと意気込んでいる。

  立大陸上競技部は特別な指導者や、寮などは存在せず、いわゆる"非強化校"の大学である。ただ、学生主体となって練習メニューや合宿の日程などを考えて、取り組んでいく姿はこの部の大きな特徴であり、『自由の学府』である学校の特色であると言える。その中で個々の選手が強化を図り、学生連合への選出がかなうことで、箱根駅伝は"夢の舞台"ではなく、現実の戦う舞台となる。そうなれば、ほかの選手たちも「自分も実際に箱根路を走るんだ」という意思が強くなれば、チームとしての総合力の向上、そして半世紀近く離れていた本戦出場も現実味が帯びてくるはずだ。

  27回の出場で最高成績は3位。伝統の『R』を胸に、新春の箱根路を駆けることをいつか再びかなえてほしい。



(10月30日・取材=糸瀬裕子、宇野静華、大島佳奈子、長田優太、
      櫻井遥、添田美月、永野伽那子、藤井俊/編集=藤井俊)




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