箱根駅伝を目指す"非強化校"の強化
〜選手層の形成と学生主体による活動の両立を目指して〜
毎年、様々なドラマが繰り広げられる東京箱根往復大学駅伝競走(箱根駅伝)の予選会が10月17日に立川陸上自衛隊駐屯地から国立昭和記念公園の20`コースで行われた。
全49校中10校のみが本戦出場を獲得できる。伝統を守る中大の87年連続出場、そして東京国際大の箱根駅伝初出場などが今年は大きな出来事となった。
第44回大会(1968年)以来、チームとしての出場がない立大は11時間00分(上位10人の合計タイム)の32位でタイムでは昨年を上回ったものの、順位では下回る結果となり、夢の舞台にはほど遠い結果となった。
上位進出のためには、何が欠けていて何が求められるのだろうか? あるゆる視点から立大の現状に迫っていく。
■大学長距離界と立大におけるアスリート選抜入試の現状
近年は箱根駅伝の人気の高まりもあり、大学駅伝の強化に名乗りを上げている大学が増えてきている。その中でも筑波大は今春から実績のあるーチを招聘(しょうへい)。箱根駅伝常連校のように本格的な寮などは存在しないようだが、箱根駅伝出場を本気で狙う体制が見えてくる。
「リクルートと強化が両輪で回らないといけない」。
陸上競技部監督であり体育会監督・コーチ協議会会長を務める原田昭夫監督(79年度卒)は大学スポーツ界の現状を踏まえこのように述べる。立大にとって強化の鍵となるのが「アスリート選抜入試」だ。
この入試制度は各部最大5人までの選考となっている。そのため、陸上競技部にとっては短距離・中距離・フィールドを含めての選考となってしまう。各パートで層を厚くすることが難しい状況となっているのだ。特に近年は女子部員の選考が多い傾向に。個人が主の陸上競技ではあるが、駅伝となるとどうしてもある程度の人数が必要不可欠だ。そして、アスリート選抜といえども、立大(体育会)は「文武両道」を掲げる大学。だからこそ、入試では一定の学力も求められる。最近は、リクルートが早い段階から動き始める大学が多いことを考えると立大は強化がしにくい状況でもあるだろう。
原田監督は大学に対して、入試制度改善の検討の申し入れも継続して行っている。そのような改善や自由選抜入試、指定校推薦入試などで立大におけるリクルートを充実させていきたいところだ。
■課題は中間層の充実
上の過去3年の立大上位10人の結果を踏まえて、今年の立大には大きな穴があったことが分かる。それは上位と下位でタイム差が広がっていたことだ。
2013年は上位から下位まで安定したタイムであったことから、合計タイムが立教記録に残り2秒に迫る記録であった。2014年はトップの大西こそ好走を見せたが、2位以下は奮わない結果に。そして2015年は4位の皆川までは過去3年を見ると最も速いタイムとなったが、4位と5位の差が2分11秒も開いてしまい、チームの順位を伸ばすことができなかった。第84回、85回で学連選抜(当時)を走った中村嘉孝コーチ(08年度卒)は「4番と5番の間が開いてしまった。64〜65分台がいなくて、ここの層がもう少し厚くないといけない」と振り返る。
この中間層の欠如は練習の取り組みにおける選手同士の意識の差から始まっていた。予選会まではA〜Eチームに分けて練習を行っていた立大。一番速いチームであるAチームに主に所属していたのは黒崎(社4)、大西(コ3)、皆川(文3)、轟木(コ1)だ。そのエースと呼ばれる4人に対して主にBチームで練習していた嶋(観1)は「その4人を別と考えてしまっていた部分はあった」とどうしても彼らに頼りすぎる部分があった。このような状況を踏まえ、新長距離パートチーフの皆川は「底上げというかチームとして戦うことを考えて予選会ではやっていかないといけない」と次の予選会に向けて意識を植え付けていた。
今年の予選会は雨が降る中でのレースとなったが、選手たちにとっては気温も20度以下であり、良いコンディションであった。そのため好記録を出す大学が多く見られたが、立大はその勢いには乗れなかった。記録こそ上がったものの、順位が落ちた原因はここにもあった。
■チームの中での個の強化、そしてまずは学生連合選出から
予選会をもって長距離パートの4年生は引退。部員数が多かった最上級生が抜けることにより、人数は少なくなる。より1人1人の成長が求められる状況になっていくのだ。
長距離パートチーフを率いることになった皆川は、選手1人1人のモチベーションの維持に努めていきたいと考えている。寮などでの生活もなく全体での集合も他の大学に比べると少ない。そのため、立大は個に委ねられる部分がかなり大きいのだ。選手1人1人が自主的に競技に向き合える環境。まずはそこを作っていくことが大切になっていくはずだ。
チームとしては4年生が抜けても中間層の穴は埋まらない。2年生で唯一、予選会を走った青山(社2)は「来年こそは3年生が主力となっていかなければいけない」。1年生ながら走った嶋は「エースと言われる中に自分も食い込む」と意気込みは十分だ。チームで行う駅伝でもやはり個の成長は欠かせないのだ。
現状で考えるとまだチームでの本戦出場は厳しいかもしれない。しかし、そのステップとして関東学生連合への選出を果たしたいところだ。学生連合は本戦出場を逃した大学から1名ずつ、計16名が選出。立大からは駅伝の名門校である宮崎・小林高出身の大西や轟木あたりが狙える位置につけている。大西に関しては昨年選出まであと20秒足らず。中村コーチは「(学生連合に)選ばれたプラスそこから(箱根駅伝で)走るということもハードルがすごく高いので、そこも含めてあと1年間準備をしていく過程などを伝えていきたい」と自らの経験をもとに選手をサポートしていく。
中村コーチ自身も練習に顔を出す機会が少ないため、現状では選手が主体となって練習を行っている。しかし、それこそが『自由の学府』と呼ばれる立大の本来の特色だ。
今春期待をされて入学した轟木は「高校時代は毎回のレースが都大路(全国高校駅伝)の選考レースになっていて、レース前になると誰ともしゃべらなくて、自分をどんどん追い込んで結果的に硬くなってしまって、結果が出ないということがありました。立教では先輩たちが優しく声をかけてくれ、同期も多いので、ちょっと緊張していても先輩たちから「硬くなっているぞ」とか、「ここはこうした方がいいぞ」など客観的な視点から声をかけてくださっています。その部分は今の結果が出せている一番の要因かなと思います」と立大の環境下で成長できることを感じている。
選手層の形成という面では入試などによるリクルートが重要となってくる。しかし、個が自律して努力できる環境は寮などがない現在の立大でも作ることができるのではないだろうか。この2つがうまく合わさることで、箱根駅伝本戦出場も現実となってくるはずだ。
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(藤井俊)
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