勝利まであと1ポイント。強心臓の石川とはいえやはり緊張が走る。「その時けっこう考えたよね。このワンチャンスをものにしたら勝てるっていうの。勝つとしたらこの1ポイントしかない。デュースに追い付かれたらたぶん負けると思ったから。」しかし決して守りに入ろうとはしなかった。強気こそが石川の真骨頂だ。「マッチポイントで、こっちのサーブ。サーブで攻めるしかない」。反動で足が浮き上がるほどに振り抜いたサーブは、レシーバーのバック側の角に突き刺さった。「サービスエース級のサーブがいい感じに入ったね。良かった。思い切り攻めた甲斐があった」。
石川仁貴というプレーヤー
試合後、仲間に手を振る石川 |
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試合後、仲間の喜ぶ顔を見て笑顔がこぼれた。「みんなが『うおー!』と盛り上がってくれて嬉しかったね」。だから、石川は個人戦より団体戦が好きだ。「そういうのがあるから団体戦は楽しい。みんなと戦っている感があるから」。試合中は全て俺に任せろという気概を持つ石川であるが、仲間を大切にする一面も持ち合わせている。
その団体戦を戦うときに、常に秘めている想いがある。「俺は先輩のために戦う。高校の時からそういうスタンスだよね。先輩が出られないのに俺が出ている時は先輩の分まで頑張るぜ、みたいな。これはマタさん(川俣=現4)にもよく言われる。出られない先輩も文句言わないわけだから、まあ頑張れって」。試合中はどんな時でも強気を崩さない。そしてその力は仲間のため、先輩のために使う。これが石川仁貴というプレーヤーの流儀なのだ。
1番の収穫は…
がむしゃらにコートを駆け回った半年間だった。遠目にコートをのぞくだけで石川と分かるほどの存在感。これほどまでにプレーに集中できる理由は何なのか。そこには、高校時代には忘れかけていた、純粋にテニスを楽しむ心があった。「高校は、負けることは許されないみたいな風潮があって堅苦しかった。だからプレッシャーに押しつぶされそうになることもあったし」。勝利を義務付けられた強豪校の重圧は計り知れない。しかし、今は違う。「立大に入ってテニスが楽しくなったね。これが1番の収穫。高校の時よりのびのびとテニスができている」。単に高校の延長線と捉えられがちな大学ソフトテニスだが、石川は大学に舞台を移すことでプレーヤーとしての原点に立ち返ることができた。
栄冠を手にするまで
無限の可能性を秘めた石川の挑戦はまだ始まったばかりだ。彼のテニスには、見る者をワクワクさせる魅力がある。しなやかなフォームから繰り出されるサーブ、会場の空気を一変させる痛烈なカウンター。そして格上の選手にもひるまない心の強さを持つ。チームの悲願である1部昇格にも彼の力は欠かせない。今月行われたインカレの大学対抗戦は、ベスト4を期待されながらまさかの3回戦敗退。試合後のインタビューでは「経験不足だった」と振り返った。しかしまだまだ進化の途中。2年後、3年後、経験という鎧を身にまとった彼の活躍が心から楽しみである。
(9月19日/取材・編集=栗原一徳)