寒かった冬が終わり、春が訪れる。暖かくなるとともに春一番が吹き荒れる。その風に乗って海を、氷上を滑るようにさっそうと進んでいく。蒼い海に緑色の帆が映える。白い大きなトライアングルが、ぽつぽつと水面に浮かぶ。風に揺られる三角の隅の方、そこに刻まれているのは紫色のユリのマーク。立大ヨット部の春が湘南の海を舞台に始まる。
  2月から新しいチームが本格的に始動した立教大学体育会ヨット部。神奈川県を中心に練習や試合が行われたこの春を、取材やインタビューを踏まえて記していく。





  4月の11日と12日に春季六大学戦が行われた。前日に春の嵐が列島を包み込む。その余韻が残る葉山の海は波も荒く、時折降る雨がレースコンディションを悪化させる。立大ヨット部としては新チームとなって初めての公式戦は様々な課題が見つかる結果となった。
  八景島、葉山で2月中旬から春合宿が行われた。「どの大学よりも海に出る」を目標とし、日が沈むまで海に出続ける。体力の無さを痛感し、容赦なく荒れ狂う海上に悪戦苦闘しながら経験を培い技術を磨き、競争心を高めながら確固たるチームワークを築く。また他大と合同練習や合同レースを催しながら、競り合いの中で自分たちの実力を確認したり、他大の長所を学んだりと効果的な練習を積み上げた。この六大戦はその成果を見せる場でもあった。
  この日戦う六大学はどこも強敵で、今年参加した中大、日大もインカレ常連の強豪校である。全日本インカレの出場を部の目標に掲げている立大としては、彼らとの戦いにどれだけ食い下がれるかに注目が集まった。
  低く垂れ下がる曇天の下での試合は、不規則な強い風が吹き荒れる二日間となる。今年からコースが変更されたことも影響してか思うように艇を操れない。強豪に競り負け、順位としてはなかなか浮上していけない展開が続く。スタートが良くても、その後スピードが落ちてしまい抜かされてしまう場面も多かった。「全体としては練習でやったことを再現できなかった」(久保=文4)「いいところがあってもなかなかキープできなかった」(岡崎=コ4)と試合後口々に語った。それでも意識して良いスタートを切れた艇があったり、レースを通じて各々強い大学から学ぶ部分もあったりと各々収穫も掴んでいる。春インカレを目前として得た貴重な経験が立大に新たな価値を生む。





  春季六大学戦では、470級、スナイプ級ともに課題の残る結果となった。ところで大学のヨット競技は、主に「470級」と「スナイプ級」のふたつの艇種での戦いがある。ここでは簡単に説明していきたい。
  470級「ヨンナナマル」と呼ぶ。艇の全長が4m70cmであることから付いたこの競技は、古くからオリンピック競技として採用されていることでも知られる。普通時は2枚のセール(帆)を、風下へ進む時はスピンネーカー(スピン)という3枚目のセールを出して進む。クルー、スキッパーの二人乗りで、艇が軽くスピードが出やすい。主将である岡崎が今井(文2)や濱本(社1)とともに、緑のスピンが目印の立大の艇から、全身を海に乗り出して滑走する様は疾走感に溢れている。
  スナイプ級は、「シギ」と呼ばれる鳥から語源が来ている。「スナイパー」は、元はこの鳥を撃つ人のことを指していた。「シギ」もヨットも、風上に向かって進む時はジグザグに走ったり飛んだりして前に進む。二人乗りで重量があり、スピード差そのものはあまりつかないため、風の向きや強さ、海の環境や周りのライバルとの駆け引きといったタクティクスが重要となる。より良いコース取りを狙い、この春で組むことが多かった副将の菊池(文4)と主務の本多(コ4)ペアが素早く息のあった体重移動で艇を自在に操る様は圧巻である。
  このふたつの艇種を用いてレースを行い、一部を除いて順位がそのまま得点となる。ひとつの大学で数艇出し、すべての艇の合計得点が一番少ない大学が優勝を手にする。春から秋にかけ数々の主要な大会がある中、4月後半から5月上旬にかけて行われたのが、平成27年度関東学生春季ヨット選手権大会、いわゆる「春インカレ」だ。





  春のインカレは予選が4月26日と5月2日、決勝が5月3日と4日の計4日間で行われ、予選A、Bブロックからそれぞれ470級で上位8校、スナイプ級で上位7校が決勝に進める。秋のインカレ予選免除がかかる試合であるが、新人戦としての意味合いも強く各大学ここまでの合宿を経て、自分たちがどこまで戦えるのかが実感できるレースでもある。六大戦から「特別なことはしていない」(岡崎)ながらも、レース直前ということを意識しながら「金曜などは学校がある日でも練習できる日はして調整した」(菊池)など、各々が好成績を目指してこの日へ臨んだ。
  その努力が実を結んだのか、順位の上でも成果が見られる。スナイプ級では予選の1レース目から久保・西村(文2)ペアが2位通過、風が比較的無かった二日目にもトップで通過するなど流れを作る。真下(法3)・相前(社3)ペアも4レース目に5位通過などで好得点をあげ、立大スナイプ級は全体の3位で予選を通過する。470級も岡崎・濱本が5位通過など出場した3ペアが安定したセーリングを見せ、全体の5位でこちらも予選を通過した。

   GW真っ只中に行われた決勝大会。先日の六大戦で戦った早大や慶大、インカレ常連の中大や日大との再戦でもあった。この日実に44年ぶりとなる5月上旬での台風6号が発生した影響もあってか強風注意報が発令され、南風が選手に襲いかかる。悪条件の中ここで経験が光った。「前日はあまり風が無かったのでギアチェンジが必要だったんですけど、その調整が比較的上手くいった」(菊池)、「陸でも出来ることを頭の中で考えて練習をしながら、この試合に臨んだらこの強風の中でも頑張ることができた」(今井)と語るように、厳しい環境下でも良いスタートが切れたことで安定したレース展開に持っていけた艇も多く、スナイプ級と470級それぞれ好レースを見せる。470級では岡崎・今井が安定して良い得点を重ねれば蜂谷(済3)・二瓶(異4)も随所に前に出るなど、総合で8位となった。スナイプ級も久保・山口(異2)(途中、伊勢に交代=法2)や真下・相前が艇を上手く乗りこなして総合9位に入る。ふたつの級を合わせた立大としての総合順位は8位となった。

  秋のインカレで8位以上に入り全日本インカレに進むことを第一の目標としている立大ヨット部にとっては、今回の春インカレ8位は大きな意味を持つ。立大に全日本インカレに出場できる実力が十分にあることが実践を通してわかったのである。もちろんボーダーぎりぎりということもあり、安心できる順位というわけでもない。上位7校とは実力差以上に「勝ちへのこだわり」(二瓶)に差があると感じている。それでもこの春に培った経験やその結果出た成績は、今の現役部員達が未だ達成し得ていない全日本インカレ両クラス出場の目標へ、確かな一歩となったに違いない。





  今年、立大ヨット部には20人を超える入部希望者が来たという。濱本のようなアスリート選抜の入学者も迎え、5月中旬からはいよいよ新入生も含めて本格的に新チームが動き出す。今後しばらくは八景島の方で練習を行うという。近い大会としては5月の同立定期戦に、6月に江ノ島ヨットハーバーで行われる関東学生ヨット個人選手権大会がある。「一番手のクルーになってレースに出たい。」(今井)と語るように、人も増えてより今後競争意識も高まってくるだろう。立大ヨット部として勝負の秋へ向け、部員総勢39名ひとりひとりが努力を惜しまない日々が続く。
立大よ、潮風をつかめ。


(5月8日/取材・編集:浅野徹、伊藤太一)




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