【軟球見聞録(3)】
「永田に新エースの片鱗を見た」
来年度のチームが、私は不安でならなかった。石川(現3=後衛)、佐藤(コ3=後衛)、峯村(コ3=後衛)の三本柱が就職活動で抜ける。彼ら3人の存在があって初めて、立大は2部校としての実力を保つことができていた。これからは新2年の永田(理学部=後衛)が「自動的に」エースに昇格することになる。永田自身も「分かってはいるが、あの3人を見てしまっているから…」と、不安を隠せない様子だった。
プレーに、大きな悩みがあった。「高校のままだと大学で通用しない」。埼玉・松山高では県内で敵なし。県内の公式戦で負けたのは一度だけで、ガンガン攻めるスタイルで速球を打ちまくった。それが、初出場のリーグ戦でことごとく打ち返された。自身2連敗で途中交代と惨敗だった。たしかに、強敵相手に鋭い球で得点できる場面もある。だが、勢いだけで戦うから肝心な場面で踏ん張れない。そんな負けパターンが続いていた。監督にも「お前は単純だ」、「もっと(空気や展開を)感じろ」と指摘された。そんなの分からないよと愚痴をこぼした。
先輩の何気ない一言も心に突き刺さった。峯村との談笑で「永田、そろそろ勝たないとヤバイよ」と言われた。笑ってごまかしたが、内心、焦った。峯村はアスリート選抜ではない中で1年次から結果を残し、不動のレギュラーに上り詰めたから説得力がある。
その永田が今、飛躍のきっかけを掴もうとしている。石川や峯村の試合を見ているうちに、それまで分からなかったことが分かるようになってきた。石川のコートを広く使う視野の広さ、峯村の頭を使った配球。校内戦では、石川に自らアドバイスを求めた。「上(ロブ)を使えば新しい世界が見えてくるよ」。金言を授かった。
「おっ。石川、良いこと言うじゃん」と私は思った。なぜなら、2年前の全く同じ時期に、永田と全く同じことで悩んでいた選手がいたからだ。石川だ。東インカレ3位の一流選手も、かつては速球一辺倒の単調なテニスで勝てない時期があった。2年次から、当時「中学生レベル」(チームメイト)だったロブを徹底して磨き、左右だけでなく上下、奥行きも使える三次元のテニスを完成させた。
永田は「石川さんを鏡にしてやっていきたい」と貪欲に学ぶつもりだ。峯村からは「バックの技術を盗みたい」と意気込む。その姿勢に、永田ならやれるかもしれないと希望を感じた。さらに、昨秋のリーグ戦から、結果が伴うようになってきた。2部復帰を決めた入れ替え戦の五番勝負では、これまでとは違ったロブを活用した戦い方でチームを救った。この日は三本柱の一角である佐藤が負けていた。三本柱が負けた状態で団体戦に勝ったのはここ2年間で初めてのこと。新時代の到来を予感させた。
「(入れ替え戦は)マグレな部分もありましたね」。永田よ、これがマグレでは困る。来年度は永田が負ければ団体戦も負ける。次の春季リーグ戦で真価が問われることは間違いない。
(2月15日/取材・編集=栗原一徳)
◆記者プロフィール
栗原 一徳(くりはら かずのり)
社会学部社会学科3年
背中を反らせて喜ぶ「永バウアー」が
今年は何度見られるか。期待したい。
中学時代はソフトテニス部(後衛)。大学1年次からソフトテニス部を中心に取材する。初取材は1年生の5月。志願して単身で練習試合に乗り込み、選手から「誰だこいつ」という視線を一手に浴びる。今では、リーグ戦で選手と同部屋で寝るほどの関係性に(深い意味はない)。土井(文2)曰く、「最も一部に昇格したいと思っているのは僕らではなく栗原くん」。五番勝負の試合では、常に六番手として試合に出る準備をしているが、もちろん出場したことはない。
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