フィギュアスケートと音楽は切っても切れない関係にある。トリノ五輪で荒川静香がフリーに選んだ『トゥーランドット』は記憶に新しく、『ボレロ』や『白鳥の湖』など数々のスケーターたちが滑り継いできた曲も多く存在する。![]() 5月30日、東大和スケートセンターで行われた第37回関東学生フリースケーティング選手権大会で五島(済3)が選んだ曲は『仮面の男』だった。この曲は1998年に公開された映画のテーマソングであり、彼女が尊敬するアイスダンスペアであるマリナ・アニシナ、グウェンダル・ペーゼラ組がソルトレイクシティ五輪を制した曲でもある。五島はどんな解釈でこの曲を滑ったのだろうか――。 「前は『今日の夕飯は何だろう』とか考えてました」。競技中に何を考えているか、との質問を受け五島は苦笑まじりにそう振り返った。だがスケート歴も10年を越え、現在は全く違った意識で競技に臨んでいるようだ。「今はプログラムのストーリーを考えて、(そのストーリーの主人公に)なりきるようにしています」。彼女はそのストーリーの詳細も語ってくれた。 仮面をとるようなしぐさと共にゆっくりと曲は始まった。まず、最初のジャンプで「仮面がとれた嬉しさ」を表現すると、ループとコンビネーションジャンプをはさみ、「舞踏会」をイメージした華やかなストレートラインステップへ。そのまま流れるようにスパイラルに入り、物語はこのまま華やかで幸せな結末をむかえるかのように思われた。しかしその後に急展開が待っていた。曲が変調し、仮面を主人公に再び被せようとする敵が現れる。激しい戦いの幕開けだ。4つのジャンプと2つのスピンを含むこの後半のプログラムはあわただしく進み、一気に物語を結末へと導いていく。最後のスピンを終え、五島は再び仮面をつけるしぐさを見せる。主人公は戦いに敗れたのだ。リンク中央にたたずむ五島の物悲しい表情が、悲劇の終焉を物語っていた。 映画『仮面の男』は、決してこのようなストーリーではない。彼女が演じたのは間違いなく彼女が作り出したオリジナルの物語だ。そしてそれは、彼女にしか演じることが出来ないただ一つの物語だ。 演技終了後、「調子が良すぎて、逆にプレッシャーを感じてしまいました」と振り返った五島。最初のジャンプを失敗したために、中盤の演技が上手くいかなかった。目標とするインカレ予選の突破には、更なる成長が必要となるだろう。「(実力を)出し切るためには何が必要か、考えてやっていきたいです」。彼女は力強く語ってくれた。ひと夏を越えた彼女の、華やかさと切なさを増した『仮面の女』を見る日が楽しみだ。 (2009年6月11日・森田)
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