2015年度現代企業法(租税法部分)(EX282)
2015年度EX282 現代企業法(1年次後期) 租税法部分 担当:浅妻章如 (ア) 〜 (ケ) に適切な語句又は数字を記入せよ。
1.PB (primary balance:プライマリー・バランス:基礎的財政収支)に関する次の図A〜図D(注:PBを考える際には、厳密には歳入から利子収入を除く必要があるが、ここでは簡単化のために捨象)のうち、2015年度の日本の状況に最も近いのは (ア) である。
図A 図B 図C 図D
税収より借金が多い状態 借金より税収が多い状態 PBが均衡した状態 財政収支が均衡した状態
(歳入) (歳出) (歳入) (歳出) (歳入) (歳出) (歳入) (歳出)
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┃ 借金 │債務償還費┃ ┃ 借金 │債務償還費┃ ┃ 借金 │債務償還費┃ ┃ 借金 │債務償還費┃
┃ ├─────┨ ┃ ├─────┨ ┃ (財政収支├─────┨ ┠─────┼─────┨
┃ (財政収支│ 利払い費 ┃ ┃ (財政収支│ 利払い費 ┃ ┃ 赤字)│ 利払い費 ┃ ┃ (財政収支│ 利払い費 ┃
┃ 赤字)├─────┨ ┃ 赤字)├─────┨ ┠─────┼─────┨ ┃ 均衡)├─────┨
┃ │(PB赤字)┃ ┃ │(PB赤字)┃ ┃ │(PB均衡)┃ ┃ │(PB黒字)┃
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┃ 税収等 │政策的経費┃ ┃ 税収等 │政策的経費┃ ┃ 税収等 │政策的経費┃ ┃ 税収等 │政策的経費┃
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2.憲法84条は租税法律主義を定めており、民主主義と自由主義の理念によって支えられている。この2つの理念のうち、租税法律主義の中で主に課税要件法定主義を支えているのは (イ) であり、課税要件明確主義を支えているのは (ウ) である。
3.包括的所得概念に沿って所得税のみが課される世界を想定し、利子率・割引率が年25%であるとし、税率は一律40%であるとし、所得控除は講義で扱ってないのでないものとする。甲氏は2015年に1000を稼いで2015年に税引後所得を全て消費する。甲氏は400の税が課せられ、税引所得600を消費することができる。乙氏は2015年に1000稼いで税引後所得を1年間貯蓄し、2016年に税引後に残っている額を全て消費する。乙氏は、2015年に600を貯蓄し、2016年に税引前利子所得として600×25%=150が発生する。乙氏の2016年の税引後の残額として消費できる額は (エ) であり、 (エ) の2015年における割引現在価値は (オ) であるので、甲氏と乙氏とでは有利不利が生じる。
4.無税の世界で或る卓球ラケット(以下「丙」と呼ぶ)が1000で売買されていたとする。ここで、新たに税率100%の付加価値税が導入されたとする。租税負担が全て消費者に転嫁されると仮定すると、丙の価格は、税抜価格1000、税込価格 (カ) となる。他方、租税負担が全く消費者に転嫁されないと仮定すると、丙の価格は、税込価格1000、税抜価格 (キ) となる。
5.X国とY国の2国のみがあり、X国の法人税率は20%であり、Y国の法人税率は30%であり、X国とY国の通貨は共通であるとし、法人税以外の税は無いものとし、本問の事象は一年度内に起きたものとする。X国で設立された法人である丁社と、Y国で設立された戊社は兄弟会社である。丁社はX国で1000の製造費用をかけて或る卓球ラバー(以下「己」と呼ぶ)を製造し、丁社は己を戊社に1600で卸売りし、戊社はY国で300の販売費用をかけて己を2000で消費者に売った。 (ク) 国の課税当局が移転価格税制を発動し、丁社から戊社への卸売り価格は1600ではなく、そのarm's length priceは1400であるとした。相手国の課税当局も、卸売り価格が1400であることに納得した。卸売り価格が1600から1400に変わることで、丁社・戊社の法人税額の合計は (ケ) だけ増える。丁社も戊社も他に欠損金はないものとする。
【解説】
1.2015年11月18日講演スライド28より。(ア)=図B。
2.講義ノート3頁。(イ)=民主主義 (ウ)=自由主義
3.講義ノート5頁。乙の税引後利子所得は150×0.6=90なので元本600と合わせると600+90=690を消費できるから、(エ)=690。690/1.25(=690×0.8でもよい)=552なので、(オ)=552。
4.講義ノート9頁。付加価値税の税率と所得税の税率で意味が違うことに留意する。税抜価格1000ならば税込価格(カ)=2000。税込価格1000ならば税抜価格(キ)=500。
5.講義ノート15頁。丁社・戊社間の卸売り価格が1600よりも低いとすることで税収が増える国はY国なので、(ク)=Y。200の価格変更により、X国の20%の税率で課税される状態からY国の30%の税率で課税される状態に変わる所得が200であるので、200×(30%−20%)=20であるから、(ケ)=20。
詳しい計算式を書くと、
丁社(X国)の税額の変化は(1400−1000)×20%−(1600−1000)×20%=(1400−1600)×20%=−40であり、
戊社(Y国)の税額の変化は(2000−300−1400)×30%−(2000−300−1600)×30%=(−1400+1600)×30%=60である。
丁社と戊社の税額の変化についての式を一度にまとめると、
{(1400−1000)×20%−(1600−1000)×20%}+{(2000−300−1400)×30%−(2000−300−1600)×30%}
={(1400−1600)×20%}+{(−1400+1600)×30%}
=200×(−20%+30%)
=20。
【講評】
平均17.8点(33点満点、54%)、標準偏差8.04点、最高点33点5人、最低点0点6人。
講義担当者が4人から3人になり、配点も変わったので、出題も変化をつけました。問題は昨年度より易化したと思います。過去最高の得点率、とまではいきませんでしたが、そこそこ高得点でした。小問ごとの平均点は算出していません。氏名を書かなかったり、鉛筆・シャーペンで解答したりしている答案については、問答無用で零点としましたというのは嘘ですが、気を付けましょう。
1.ひっかけ問題のつもりではなかったのですが図Aという解答が過半を占めていたような気がします。財政危機を煽るマスコミ報道の印象が強くて図Aと思ってしまったのでしょうか。他は全部正解なのに、(ア)だけ間違えた、という答案が多かったです。
2.民主主義、民主主義と答えておく、または、自由主義、自由主義と答えておくとすれば、どちらかは点数がもらえるだろうという発想、頭いいです。少しでも点をとろうとする姿勢は良いと思います(これは皮肉ではないです。採点者の 気分次第では採点基準の作り方次第では加点しない可能性もありますが、何もしないよりは加点する可能性にかけるべきでしょう)。逆に空白にしておく人、点をとるようにあがきましょう。(ウ)につき予測可能性という答案があって、どうしたものか悩みましたが、講義を聴いていた証拠であるとして加点しました。珍解答としては、給与所得控除とかインボイスとか法人税とか図Cとか。おいおい図Cはないでしょ。
3.普通に計算すればいいだけですが、案外正答率は低かったです。面倒な計算にならないように作問時に数値を調整しているつもりなのですが、(オ)で面倒な計算をしている答案が幾つかあり、「浅妻は性格悪そうだから計算が面倒な問題を出しているのだろう」と思われているのだと思うと、少し悲しいです。
4.(キ)の誤答としては1000とか0とかいう答案が目立ちました。しかし、まあまあの正答率だったと思います。ダイエットの例で所得税率と付加価値税率の違いを説明する(これは私オリジナルではなく指導教官の中里実先生のアイデア)のが少しは効いたのだと思います。
5.(ク)に「戊」という誤答が少なからずありました。会社を勝手に国に昇格させるのは良くないと思います。例年の傾向ではあるのですが、移転価格の問題は難しい方であると思われるのに正答率が高いです。移転価格は直感的に理解しやすいのかもしれません。
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