2019年度租税法2(EX412)




期末試験解説 2020年1月29日水曜日1時限実施

 配点は時間配分の目安にすぎず、問題に関し租税法学上意味のある記述には配点を超える加点の可能性がある。計算結果が違っても計算過程の加点の可能性がある。原則として現行法令に依拠するが、震災復興増税、地方税、同族会社の行為計算の否認規定は、講義で扱ってないので、無いものとする。日本の法人税率は30%であるとする。英国の法人税率は17%であるとする。税率以外、英国(通貨単位:円)の租税法令は日本の租税法令と同内容であるとする。[条文について、省略]。付加価値税については(4)においてだけ論ずればよい。
 日本法人たるBrushing Soft社(以下、B社と呼ぶ)はゲームを制作している。B社の取締役であり日本居住者である柏木倫也(かしわぎともや)氏(以下、T氏と呼ぶ)の配偶者である柏木英梨々(かしわぎえりり)氏(以下、E氏と呼ぶ。B社の従業員ではない)は、ゲーム用の絵を描くため英国に居住している。B社が制作したゲームを大手ゲーム流通業者に売り込む際、B社の経理担当である叶恵(かのうめぐみ)氏(以下、M氏と呼ぶ)が、B社に支払われるべき金員の一部を横領し持ち逃げした。B社は、シナリオライターであり日本居住者である霞詩羽(かすみうたは)氏(以下、U氏と呼ぶ)が設立した法人であるが、現在は、B社の100%親会社が英国法人たる不死身社(以下、F社)であり、F社の株主がU氏である。F社はB社に対し少額の出資と多額の金銭貸付をしている。
 (1)(20点)E氏が絵の対価としてB社から受ける金員について、日本の課税庁は、E氏が日本にPE(Permanent Establishment)を有すると考えて、課税しようとしている。E氏が絵を描くのは専ら英国においてであるが、頻繁に日本所在のT氏の住居に戻ってきた際にT氏とゲーム制作に関わる話をすることがあるので、T氏の住居がE氏のPEに該当する、と日本の課税庁は考えている。先ず、PEの認否について論ぜよ。次に、PEの認否に関する貴方の見解とは別に、仮にPEの存在が認定されるとした場合の、日本の課税権が受ける制約について、説明せよ。余力があれば、PEの存在が認定されるとした場合の、英国の課税権が受ける制約について、説明せよ(個人所得税率については貴方が設定せよ)。
 (2)(30点)M氏の横領によって生じたB社の損害及び損害賠償請求権について、M氏を捕まえることができるか否か等複数の事実を想定しつつ、B社の損金、益金の計上時期を、説明せよ。
 (3)(30点)日本の課税庁は、B社に対する金銭貸付の法形式上の貸主はF社であるものの、実態としてはU氏がB社に貸しているようなものであるので、B社の当該支払利子額を損金に算入することによる日本の課税ベースの浸食(Base Erosion)(F社がU氏に配当等の支払をしてないのでF社に所得が溜め込まれている)を否認したいと考えている。U氏が出資したF社が、B社へ金銭貸付をした、という法律構成が形式上採用されていることに関し、U氏のB社に対する金銭貸付という法律構成を前提として課税することが許されるか、論じよ。また、日本の課税ベースの浸食を防ぐための別の課税方法について、複数の可能性を論じよ。
 (4)(20点)現実世界の付加価値税制では事業者が納税するので、講義では、無税の世界と比べて付加価値税がある世界において供給曲線が上方にシフトするとして説明したところ、仮に、付加価値税が無く、付加価値税の代わりに消費者が消費額に比例した租税を納税するという税制が導入された場合、供給曲線又は需要曲線が上方に又は下方にシフトするかに留意しつつ、当該租税負担が経済実質的に消費者余剰と生産者余剰との関係において消費者と供給者との間でどのように帰着するのか、供給曲線と需要曲線を含むグラフで図示せよ。(ヒント:供給曲線の傾きと需要曲線の傾きを少し変えておくと、租税負担の帰着の違いが分かりやすくなる。)

【解説】
 (1)PEの認否については教科書(租税法概説3版)287頁辺りを参照。日英租税条約5条4項の準備的補助的な活動にとどまるならばPEは認定されない。E氏が「頻繁に日本所在のT氏の住居に戻ってきた際にT氏とゲーム制作に関わる話をすること」がPEを認定するのに充分といえるかどうか論じてほしい。結論は正直どっちでもよい。東京高判平成28年1月28日訟月63巻4号1211頁等参照。
 仮にPEの存在が認定されるとした場合の、日本の課税権が受ける制約について、PE帰属利得にしか日本は課税できないから、E氏が英国に所在している間にしていた活動(主に絵を描くこと)に帰せられるべき利得に日本は課税できないことを論じてほしい。E氏の主たる活動は絵を描くことであるから、仮にPEの存在が認定されるとしても、PE帰属利得は少額である筈である。
 PEの存在が認定されるとした場合の、英国の課税権が受ける制約について、外国税額控除を論じてほしい。

 (2)損害賠償の扱いは所得税法と法人税法とでかなり異なるので、注意を要することを講義で強調した。日本美装事件・東京高判平成21年2月18日訟月56巻5号1644頁等参照。損金・益金については以下のように三段階に分けて考えることを推奨する。
 第一に、法人税法22条2項3号が「損失」の損金算入を定めているので、先ず損害額に相当する損金が立つ。
 第二に、所得税法と異なり法人税法に関し損害賠償請求権については原則として益金に計上する。原則として権利確定主義に従い損害発生時に損害賠償請求権を益金に計上しなければならない。よって、損害発生年度においては損害額の損金計上と損害賠償請求権の益金計上とが釣り合う。
 第三に、B社がM氏に対し損害賠償請求権を観念上有するとはいっても、M氏を捕まえることができなければ又はM氏を捕まえることができてもM氏の資力が不充分である等の場合には、損害賠償請求権を満足させることはできないので、その分の損失をどこかの年度において計上することとなる。ここで興銀事件・最判平成16年12月24日民集58巻9号2637頁の貸倒損失の計上基準と同様に、B社の損害賠償請求権の回収不能による損失の計上基準も、全額が回収不能であること、及びそのことが客観的に明らかであること、この二つの要件を満たして初めて損金計上が認められる(興銀事件では更に、全額回収不能性の明らかに関し、社会通念に従って総合的に判断するとし、債務者側の事情、債権者側の事情を考慮せよと述べられている)という基準が妥当すると考えられている。M氏の横領が明らかになった時点で、全額回収不能であることが客観的に明らかであるならば、結局その時点で損害を損失として損金計上できることとなるし、回収不能であることが客観的に明らかとなるのが後の年度においてであればその年度に損金計上が遅れることとなる。「全額」回収不能という要件に関し、損害賠償額を一部回収できた場合は、未回収額全額の回収不能性を問うこととなるであろう。

 (3)「U氏のB社に対する金銭貸付という法律構成を前提として課税すること」に関し、租税回避行為の否認は原則としてできないと考えられていることを前提として、租税に関する訴訟の最先端においては、当事者が主張する契約等が真実の法律関係ではないという主張を課税庁がするようになっていることを、相互売買事件・東京高判平成11年6月21日判時1685号33頁・教科書61頁を挙げて説明した。
 次に、「日本の課税ベースの浸食を防ぐための別の課税方法について、複数の可能性」が考えられる。B社からF社への利子支払いについて、移転価格税制、過小資本税制、過大利子支払税制を視野に入れて論じてほしい。
 英国法人F社の株主が日本居住者たるU社であることから、タックス・ヘイヴン対策税制で日本が課税する可能性について、論じることができると、更に加点できる。

 (4)教科書には載ってないので講義で描いた図を理解できていたかの勝負。そのため問題文中には数々のヒントをちりばめた。


【講評】
 (1)9.00点。ゲームに関する設定の相談が事業活動に当たると認定される可能性は、今ではあまり低くないかもしれない、と私は思っていますが、PEは認定されないという答案が予想より多かったのは意外です。結論がどちらであっても、きちんと論じていれば加点しますが。外国税額控除の話も数人書けていました。
 (2)4.65点。狙い通り、興銀事件の貸し倒れの基準を書いた答案がありました。良かったです。
 (3)2.50点。租税回避行為の否認の可否は、未だ充分に学生に伝わってないようです。
 (4)1.25点。恒常的に講義聴いていた人数の5倍の人数が期末試験を受ければ、そりゃ壊滅しますわな。単純計算で8割が不可であったとしても不可の原因は私の講義の下手さには求められないでしょう。
 平均17.40点。標準偏差19.44点。最高70点。最低0点。大っぴらには言えませんが成績評価には手心を加えています。S10%, A05%, B20%, C30%, D35%。
 澤村・スペンサー・英梨々があまりに哀れなので(霞ヶ丘詩羽は救済漫画があるからまだいい)せめて問題文中においてだけでも結婚させてあげたい、という趣旨での出題ですが、私自身は、作者の狙い通りに加藤恵にブヒブヒ言っている萌え豚です。何はともあれ、冴えない彼女(ヒロイン)の育てかたが映画できちんと完結して、大変感激しております。
 

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