2024年度租税法2(EX412)




期末試験解説 2025年1月23日(木)1時限実施

 配点は時間配分の目安であり、問題に関し租税法学上意味のある記述には配点を超える加点の可能性がある。抜粋されてない条文も関係しうる。抜粋されている条文が解答に関係する場合、条項号を記せ。解答に際し数値例を自作することが望ましく、計算結果が間違っていても過程に加点する可能性がある。原則として日本現行法令に依拠するが、震災復興増税・地方税は無いものとし、付加価値税率を10%、内国法人に係る法人税率を30%とする。日本とX国の租税法令は同様であるとする。日本とX国はOECDモデル租税条約と同内容(23条はB:税額控除方式)の条約を締結している。
 日本のプロスポーツチーム・横浜DNA湾星(日本法人。以下「Y社」)は福岡ソフトパンク鷹と日本一をかけて対戦し、2連敗した。桑腹将志外野手(以下「K氏」)が「悔しくないんか」と檄を飛ばし[諸説あり]、Y社は4連勝し、日本一になった。K氏は最優秀選手に輝いた。活躍に応じてY社はK氏に臨時ボーナスを支払った。Y社の親会社(日本法人。以下「D社」)の代表取締役である南馬智子社長(以下「N氏」)は日本一を祝し、D社がN氏へ臨時ボーナスを支払うことを命じた。
 D社はゲーム・Pokérnon(以下「P」)を運営している。味浦大輔番長のファン(日本居住者。以下「F氏」)はリーゼント小説を投稿サイトにあげていた。N氏はこれを見てPの新キャラを構想し、F氏にキャラ設計を依頼した。
 D社のX国100%子会社(以下「S社」)がX国でのPの運営を担っている。S社はPに係るX国内の知的財産についてD社から許諾を適法に受け、対価としてS社はD社に使用料を支払っている。更にS社はS社の資本金の10倍の額をD社から借り、S社はD社に利子を支払っている。D社はX国に、S社は日本に、恒久的施設を有していない。
 (1)(15点)Y社がK氏に支払う臨時ボーナスと、D社がN氏に支払う臨時ボーナスの、法人税の扱いを説明せよ。どちらのボーナスも不相当に高額ではないとする。
 (2)(20点)K氏がY社から受ける給付が給与所得に当たる場合と当たらない場合とで、Y社がK氏に支払う臨時ボーナスの付加価値税に関する扱いの違いを説明せよ。K氏の年収は毎年1000万円を優に超えているものとする。
 (3)(20点)D社がF氏に支払う設計料が不相当に低額である場合と不相当に高額である場合の、当該設計料に係る法人税の扱いを説明せよ。
 (4)(35点)S社がD社に支払う使用料について、X国又は日本における所得税又は法人税の扱いを説明せよ。次に、日本X国租税条約がないと仮定して説明せよ。
 (5)(10点)S社がD社に支払う利子について、X国における法人税の扱いを説明せよ。
[条文抜粋は省略]

【解説】
 (1)教科書200-201頁参照。K氏がY社の役員ではないのに対しN氏がD社の役員であることにより、臨時ボーナスの扱いが変わる。
 K氏がY社から受ける給付が給与所得に当たるか事業所得に当たるか不明であるが(問題文では「プロスポーツ」とあるだけで競技内容は明言されていない)、何れにしても、Y社がK氏に支払う臨時ボーナスは法人税法22条3項2号の「費用」としてY社の所得計算に際し損金算入される。同項1号の「原価」にも3号の「損失」にも該当しない。本問では2号の「債務の確定」が満たされていないとする要素は問題文に見当たらない。
 D社がN氏に支払う臨時ボーナスは法人税法22条3項の「別段の定め」の一つである法人税法34条1項の「役員給与」に当たる。同項は同項1〜3号のいずれにも該当しない役員給与は損金算入できないと規定している。本問の臨時ボーナスは1号の定期同額給与に当たらず、2号ロ〜ハの株式又は新株予約権の交付に当たらず、同号イの所轄税務署長への届出もしていないということが「臨時」ボーナスという表現から推測され、3号の業績連動給与にも当たらない。よって、本問の臨時ボーナスはY社の所得計算に際し損金算入できない。本問の臨時ボーナスはN氏の一存で決められたように見えるので、正に、役員給与のお手盛り防止という法人税法34条の趣旨に即しているといえよう。
 (2)教科書247頁参照。K氏がY社から受ける給付が給与所得に当たる場合、消費税法2条1項12号が「課税仕入れ」の定義から「給与所得」を除外しているため、Y社の給与の支払は課税仕入れに当たらず、消費税法30条1項の仕入税額控除の適用がない。
 K氏がY社から受ける給付が給与所得に当たらない場合、事業所得に当たると考えられ、Y社の給与の支払は消費税法2条1項12号の「課税仕入れ」に該当し、消費税法30条1項の仕入税額控除の適用がある。例えば、K氏の受ける給付が税込で1億1000万円である場合、Y社の納付すべき消費税額の計算に当たり、(付加価値税率が7.8%ではなく10%であると仮定されていることに留意)1億1000万円×10/110=1000万円が仕入税額控除としてY社の納付すべき消費税額から控除される。
 (3)D社がF氏に支払う設計料が不相当に低額である場合に関し、法人税法22条2項が「無償による資産の譲受け」を益金計上事由として挙げている一方で、無償により役務の提供を受けることを挙げていないという非対称性が鍵となる。D社が時価より低い額で役務の提供を受けることは、時価との差額を益金に計上する必要があるかが問題となるが、法人税法22条2項の規定が「無償による資産の譲受け」にとどまるので必要ではないと先ず考えることができる。次に、「その他の取引」として益金計上する必要があるかも考えるべきであるかもしれないが、D社が不相当に低い額しかF氏に支払っていない場合、時価との差額分、D社の損金がその分減るので、その分D社の課税所得は増える。時価200万円の役務提供に対し30万円しか請求されなかった場合、D社の損金が時価取引の場合と比べて170万円減るため、D社の課税所得が自動的に170万円増える。そのため、D社が時価より低い額で役務の提供を受けることは法人税法22条2項の「その他の取引」にも該当しないと考えることができる。
 D社がF氏に支払う設計料が不相当に高額である場合、法人税法22条3項の「別段の定め」の一つである法人税法37条1項の「寄附金」が問題となる(教科書198頁参照)。法人税法37条8項は低額譲渡の場合に時価との差額が寄附金に含まれると規定しているところ、本問のように受けた役務の対価を時価より高額で支払う場合について規定していないが、時価との差額を同条7項の寄附金と解すべきでない理由はないし、8項も「〜は前項の寄附金の額に含まれるものとする」と規定するにとどまり他の形態の寄附金を排斥していないので、本問における時価との差額は寄附金に当たると解される。例えば、時価200万円の役務提供に対し500万円支払ったという場合、差額の300万円は寄附金に当たり、法人税法22条3項だけならば2号の「費用」として500万円損金算入できそうであるが、当該差額300万円のうち法人税法37条1項が指定する法人税法施行令に従って計算される損金算入限度額を超える部分は損金算入できなくなる。
 (4)D社はS社に支払う使用料をX国におけるD社の法人税に関し損金算入することができる。日本X国租税条約12条1項に従い、S社がD社に支払う使用料の課税権は当該使用料の受益者たるD社の居住地国すなわち日本のみに認められるため、X国は当該使用料に対し課税できない。日本はD社の受領した使用料をD社の益金に算入してD社に課税する。D社はX国で納税義務が発生しないので、日本X国租税条約23条の外国税額控除を考える必要はない。
 日本X国租税条約が存在しない場合も、D社がS社に支払う使用料をX国の法人税に関し損金算入できることは同じである。S社がD社に支払う使用料に対しX国はD社の所得としてX国の法令に従って税を課すことができる。S社がD社に支払う使用料は、S社がX国内において業務を行う者から受ける使用料であるから、所得税法161条11号イ又はロによりX国内源泉所得である。X国から見た外国法人たるD社といえども所得税法178条に従い所得税法161条11号の所得はX国における課税標準に算入される。D社はX国に恒久的施設を有してないので、税率は所得税法179条1号に従い20%である。所得税法212条1項により、S社が「外国法人[D社]に対し国内において……[所得税法161条]11号……に掲げる国内源泉所得……の支払をする者」として20%の税を源泉徴収しX国に納付する義務を負う。例えば使用料の額が1000万円である場合、S社が200万円を源泉徴収税としてX国に納付し、S社はD社に源泉徴収税を控除した残りの800万円を支払うこととなる。日本においてもD社は当該使用料1000万円を益金算入し、税率が30%であるので税額が300万円増えるところであるが、法人税法69条1項の外国税額控除が適用され、D社が日本に収めるべき法人税額は300−200=100(万円)となる。
 (5)租税特別措置法66条の5第1項に従い、S社のD社からの借入金のうちS社の自己資本の額の3倍を超える部分に対応する利子支払は、X国においてS社の課税所得計算に際し損金算入ができなくなる。例えば、S社の自己資本の額が1億円、S社のD社からの借入金が10億円、利子率が6%の場合、S社はD社に利子6000万円を支払うが、そのうち7割の部分すなわち4200万円の損金算入ができなくなり、損金算入できるのは3割の部分すなわち1800万円に限られる。


【講評】しません。まさか恒常的に受講している学生の数より受験者数の方が少ないとは。

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