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2021.7.21(水)

【学内向け】2021年度スカラシップ採択結果

審査結果

2021年度立教大学映像身体学科学生研究会スカラシップの採択結果は以下の通りです。

【研究部門】
応募なし

【制作部門】
湯淺歩夢  劇映画『影をなくした者たち』

審査経過

2021年度スカラシップには制作部門に5名の応募がありました。

【制作部門審査員】
砂連尾理、篠崎誠、万田邦敏、山田達也

【一次審査】

一次審査では、5名の応募があり1名が二次審査に進みました。

【二次審査】

二次審査では、1名を審査した結果、1名が選ばれました。

講評

各審査員からの講評は以下の通りです。

【制作部門】

万田邦敏

何事かを表現したいという欲求の根源は、つまるところ「私のこの思いを誰かに伝えたい」という情動だと思う。「私のこの思い」は誰もが持っているものだし、今回の応募者も内容は違えど当然ながら「私のこの思い」を持っている。しかし、スカラシップの採択と不採択を分かつものはその思いの強さ弱さや特殊性一般性にあるのではないというのが私の立場である。誰もが持っている「私のこの思い」を「いかにして伝えるか」という「方法」の問題ときちんと対面しているか、または対面しなければいけないという意識が(たとえ無意識にせよ)あるかないかが、私にとっては重要な選択の基準である。
ここでいう「方法」とは、いわゆる「技術」のことではない。「撮影技術」とか「編集技術」とか「脚本を書く技術」とか、そういうことが上手いとか下手とか、そうことではまったくない。そうではなくて、「私のこの思い」を「誰かに伝える」ために、「私のこの思い」からどのように距離を置くかという、その距離の取り方に対する意識の組織化のことである。「私のこの思い」を「誰かに伝える」ためには、「私のこの思い」から「私」をいったん引き離すことが絶対に必要なのだ。でなければ、「私のこの思い」は動物の呻きとか叫びにしかなりようがない。私たちが言葉で「私のこの思い」を「誰かに伝える」とき、私たちは「この思い」を対象化し(「思い」からいったん「私」を引き離し)、それを言語に移し替えて(言語化という「方法」を選択して)いる。私たちにとっては、喋ったり書いたりすることがすっかり当たり前のことなので、この対象化のプロセスを意識できなくなっているだけのことだ。同様に、私たちにとって映像も身体も身近なものなので、「私のこの思い」を映像や身体を使って表現するとき、ついこの対象化のプロセスをなおざりにしてしまう。しかし、それが「私のこの思いを誰かに伝える」ための表現であるからには、この「方法」化のプロセスを通さなければいけないのだ。伝えたい思いだけがいくら強くても、いくら特殊でも、いくら立派でも、いくら意義あることでも、それだけでは「私のこの思い」は「誰にも伝わらない」のだ。
今回の応募の中では湯淺歩夢の計画書と、計画書以上に参考映像に上記の「方法」の意識と実践を最も感じることができたので、推した。その「方法」の意識によって「私のこの思い」がスカラシップ作品として表現化され、その思いが私たち観客に伝わる可能性に期待する。

篠崎誠

今回のスカラシップに関しては、審査にあたった4名全員一致で湯淺君の企画に決定しました。添付されたシナリオは、正直まだまだ改訂の余地のあるものだと思いましたが、大きな決め手となったのは、これまで湯淺君が手がけてきた映像作品の抜粋でした。言い換えると、これは今回の湯淺君だけに限りませんが、企画内容の魅力だけでは不充分で、企画者がそれを確実に表現できる力があるかが問われます。
たとえば、劇映画にとって、シナリオは、大切な設計図ですが、それを意図する通りの作品に仕上げる「演出」が果たして可能かどうか。それを見極めるには過去作品が重要な手がかりとなります。湯淺君は、俳優の台詞のトーンや仕草は当然のこと、映像の中にどう人を配置し、どう動かすか。人物や空間を捉えるカメラ位置やフレーミング、カメラそれ自体の動きも含めて、これまでちゃんと考えてきていることが、それぞれの映像作品からわかりました。登場人物を単に「物語」を説明するための駒にせず、どのように演出すれば立体的に造型することが出来るのか。映画ならではの固有の時間や空間、運動をどうすれば創出できるか。その試行錯誤が参考映像作品の抜粋から伝わってきました。映画は、単に一つのショットを充実させれば、それでよいわけではなく、それらが繋がった時、どのような飛躍が生まれるか。それこそがとても大事です。
繰り返しになりますが、劇映画の場合、その土台となるのがシナリオです。シナリオは、単に構成の巧みさや名ゼリフがあればいいわけではありません。大げさに言えば、作り手が世界をどのように見つめているのかが、示されるのです。限られた時間の中で、どこまでシナリオを改稿することが出来るのか。期待しています。

砂連尾理

先ず提出された過去の作品から湯浅さんの映像技術の高さが十分伺えました。
画面から何を撮ろうとしているのか、それを伝えるだけのカメラワーク、編集技術に確かな才能を感じます。
また、役者の身体への演出にも目を見張るものがあり、カメラに映る身体、フィクショナルな身体をきちんと意識しながら演出、撮影している点は舞台人の私から見ても興味深く高く評価したいと思います。
演劇人の関田氏のドキュメンタリーも面白く、この現場ときちんと関わらないと撮れない現場の空気感に役者の表情がきちんと撮れていて、彼は他者とその現場に丁寧にじっくり関われ、且つしっかり距離を取れる方だと思いました。
コロナ禍の中で撮影は現状の企画からは様々な支障、変更点は余儀なくされるとは思いますが、湯浅さんの持っている技術、意識、意志、また他者とのコミュニケーション能力は過去のスカラーシップを受けた人と比較しても遜色のない十分な能力を有していると判断します。

山田達也

シナリオ、成果物、その他提出書類と二次面接を総合的に判断して、スカラシップ合格としました。
シナリオについては担当される篠崎先生の指導の下ブラッシュアップしていく必要はあると思います。
スカラシップ作品は授業やサークルでの制作と違い学科からの「予算」がありそれを執行して制作されます。私たち審査を担当した教員がスカラシップにふさわしいと認めたわけですので、映像身体学科生の代表として湯浅君もそれなりの覚悟をもって制作してください。
「スタッフについて」
これは面接時に万田先生もおっしゃっていましたが、制作部ないし演出部の中心となるスタッフには経験のある人材を配置するべきです。同学年や後輩と一緒に悩みながら作り上げたいという志は立派ですが、長期に渡るであろう撮影期間や予算配分と管理、俳優や対外的な対応については、やはり経験値のあるコアになる人材がいないと「思い」だけでは崩壊する可能性があります。「各部あたま数がいれば何とかなる」という幻想は捨てるべきです。
「スケジュールについて」
卒制と期間が重なる事を考慮してください。機材を予算からレンタル出来るのであればその限りではありませんが、スタッフも重なる可能性があるからです。
現役の学生がスタッフの場合平日は授業があるので、どうしても土日や休み期間に撮影を設定しなくてはならないと思いますが、飛び飛びの撮影ほど効率の悪いものはありません。その分予算も膨らみます。コアな部分はブロックに分けて、予算からするとなるべく連続で10日~14日くらいで撮り終えるスケジュールを組み、後は少数でも大丈夫なシーンと予備日の設定。26日間の撮影を見込んでいますが、全スタッフが必ず参加出来る状況にはならないと思うので短縮すべきだと考えます。シナリオを削れるかにも関わりますが。
ポスプロの期間も1月は最低必要だと思いますが、11月中旬以降12月いっぱいから冬休みあたりまででスケジューリングしたらどうでしょうか。
「機材について」
最近の映像を少しやっている学生をみると、たくさんの機材を借りて制作しようとする姿を見かけます。また、実際には不要な機材を多く持ち歩く傾向があります。「やってる感」を味わいたいのは分かる気もしますが、そうした機材だけで素晴らしい作品が出来るわけではありません。シナリオと演出と撮影です。
機材に熟知していないスタッフが多い場合は、機材は極力絞ってフレキシブルに動ける範囲にとどめるべきです。結局は自分で自分の首を絞める事になるので使いこなせる範囲でミニマムにするべきです。あとはある機材で工夫する。
ハイエース1台くらいでは全て(各パートや美術、衣装)が混載になり、現場では全部降ろさないと始まらない事になります。このあたりを甘くみると時間のロスと乱雑な機材の取り扱い、破損や紛失につながりますので十分考えてください。機材についても無理をしない、使いこなせない積み込めないならば、潔く減らす決断も必要。
「安全について」
もっとも重要です。コロナに対する対策はもちろんですが(キャスト、スタッフの準備期間からの毎朝の検温とアプリなどでの報告、マスク着用、現場での消毒、昼夜の食事)実習などとは違い長期戦の日々が続きます。朝から晩まで疲れもピークに達するでしょう。現場での安全を十分考えるように。ですので「スタッフ」でも述べましたが、現場を熟知した一歩引いて見れる経験のあるスタッフが必要です。
車両のドライバーについては篠崎先生もアドバイスしていましたが、現場とは別に専任で運転するスタッフが必要です。疲れ切ったスタッフの運転で事故など過去に見てきた経験からの忠告です。
少なくともキャストについては「マスクを外して」本番を行う事になると思いますが、クランクイン前にはキャスト全員の「PCR検査」は行うべきです。それも予算に組み込むように考えてください。現在は商業的な現場では「衛生班」という専任のスタッフが必ずいなくてはなりません。
子役については特に撮影時間やケアを心がけてください。

以上、講評というよりも撮影へのアドバイスです。
スタッフの力を合わせて素晴らしい作品を完成させてください。