6章 ミスとのつき合いかた 〜失敗は成功の母というけれど(まとめと要点)

 何がなんでもミスをゼロにしなければならない、と思う必要はありません。人はミスをするもの。成功の母でもあります。ミスから生まれた大発見もあるし、誤解から恋が生まれることもあります。生命の進化は遺伝子のコピーミスによって促進され、言語の進化は言葉の誤用が関係します。些細なミスに目くじらを立てすぎると、かえって大きなミスが誘発される可能性があります。たいした事故に結びつかないエラーを装置的に完全に排除することによって、働く人のやる気をそいだり、緊張感を失わせるという副作用を生じるかもしれません。
 そうはいっても、一字違いの薬を出すことで患者が亡くなることもあります。システムによってはちょっとのミスが大事に至ることもあるのです。人はミスをするものだ、ということを前提にシステムを作らなければなりません。ミスをゼロにすることはできませんが、確率を減らす工夫はいろいろあります。ミスをしても被害を最小限に抑える工夫もあります。
 産業現場では装置や作業手順にこういう工夫がさまざまにこらされているのですが、長い間に、なぜこのようなやり方をしなくちゃいけないか、わからなくなっていることもあります。そんなとき、効率化を求めて「改善」が行われ、事故を招く例が多いのです。その一例としてJCO事故をとりあげました。
 失敗の原因を何に帰属させるかによって、失敗の後の態度が変わり、つぎに成功するチャンスが高いか低いかが決まるという話もしました。自分の努力不足に失敗原因を帰属させる傾向の強い人は、同じ失敗をあまり繰り返さないし、失敗したあとに成功する可能性も高く、能力不足に帰属させた人は、自分の能力にあった目標に変更したり、時間をかけて能力を磨く努力をすれば、こんどは成功する可能性があります。失敗を他人や運や外的状況に帰属させる人は、失敗から学ぶことが少なく、失敗を繰り返します。
 最後に、ミスには寛容に、違反には厳格に対処する必要性を強調しました。「ミスに厳しく違反に甘い」という日本社会の傾向を改め、ルールを守る、違反を許さないという社会的風土を育てたいものです。意図しないでミスをおかしてしまった人を許す代わり、徹底的に事実を調べ、再発予防対策に役立てるべきです。これが、ミスとの正しいつきあい方だと思います。


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