原始ブラックホールとは宇宙初期に生成されるブラックホールです。 原始ブラックホールの可能性は、1967年にゼルドビッチとノビコフによって、そして1971年 にホーキングによって指摘されました。原始ブラックホールは インフレーション期に生成された量子密度揺らぎや相転移・宇宙紐・宇宙泡の 衝突などによってできたと考えられています。宇宙の極初期にできた原始ブラックホールは 非常に軽いため、ホーキング輻射によって蒸発し、その際電磁波などを放射 します。また、比較的後期にできたブラックホールは重いため、 重力源となります。そのため原始ブラックホールは暗黒物質の有力な候補にもなっ ています。このように、原始ブラックホールの数が多ければ 観測によってそれらを見つけることができます。逆に言えば、 原始ブラックホールの存在量は現在の観測データによって強い制限を受けるとい うことです。従って、原始ブラックホールは、 初期宇宙の姿を我々に伝える貴重なもの、「初期宇宙の化石」としての性格を 持っています。このような役割は、宇宙背景マイクロ波放射と相補的で あるとして、最近特に注目されています。 一方、相転移や宇宙紐・宇宙泡は未知の高エネルギー物理学と関連しており、 原始ブラックホールを観測することでこのような未知の物理学に関する 情報を得ることができます。
ブラックホールが曲がった時空の場の量子論的な効果によって 熱的な輻射を放射して蒸発するというホーキング輻射とホーキング蒸発は 1974年にホーキングによって理論的に発見されて以来、 一つの大きな分野を形成したといって良いくらいの理論的発展を遂げました。 しかし、星の終末期に形成される太陽質量程度以上の質量の ブラックホールではその効果が小さすぎて、直接にも間接にも 観測することは絶望的に困難です。 ところが原始ブラックホールの場合には、理論的には10万分の1グラムというケシツブ (ケシの種)くらいの質量から想定できます。このようなケシツブ程度から 10億トン程度(霞ヶ浦約一杯分の水の質量)の軽いブラックホールで はホーキング輻射の効果が著しく、蒸発のあり方は直接・間接に観測可能な現象 と結びついてきます。そのため、原始ブラックホールは ホーキング輻射を調べることのできるほとんど唯一の実験場でもあります。 ちなみにこの10億トンのブラックホールの直径は原子核一個程度の小ささで す。
2016年ごろから、原始ブラックホールがさらに注目を集めています。その理由のひとつ はLIGOによって世界で始めて直接観測された重力波の波源が原始ブラックホール 連星である可能性が指摘されていることです。このような原始ブラックホールは 太陽の30倍程度の質量を持っていると推定されています。 もうひとつの理由は、最近種々の観測やそれに関連する理論的研究が進んできて、 原始ブラックホールが暗黒物質の主要な成分であるためには原始ブラックホール の質量にかなり強い制限がかかってきていることが上げられます。 このような背景もあって、原始ブラックホールの生成理論も 我々の研究も含めてかなり整備されてきました。さらに今後数年のうちに 多くのことがわかってくると思います。
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