一般相対論とその宇宙物理学・宇宙論への応用

一般相対論に代表される重力法則は、宇宙の誕生間際から現在そして未来への進化を記述し、原子核程度の高密度 物質からなる中性子星の重力を記述し、光さえも出てこれないブラックホールの構造を記述し、さらに時空のゆがみの伝播としての重力波を記述します。一般相 対論は、時空の曲率と物質場の関係式に よって時空の動力学を与えます。一般相対論は、単に理論的に美しいだけでなく、重力法則をきわめて精密に記述することが実証されており、宇宙論・宇宙物理 学の様々な極限的な状況において非常におもしろい応用を持っています。最近の観測技術の進展は、宇宙が現在加速膨張していることを発見しましたし、近い将 来には重力波の直接検出が可能となるでしょう。さらに、他の物理学や数学と関連した幅広い研究がなされています。また、ワームホールやタイムマシンなど空 想科学的対象を物理として扱うこともできます。そうした様々な研究が有機的に結びついた総体が、Einsteinが提案した重力理論を踏まえつつそれを遙かに超えた、現代の「一般相対論」分野として認識されています。以下では、最新の研究成果を紹介します。

Kerrブラックホール周りのISCO粒子衝突

著者: 原田知広、 木村匡志  http://jp.arxiv.org/abs/1010.0962

要約: Kerrブラックホールの赤道面上を運動する同じ静止質量の二粒子の衝突を考える。まずブラックホール地平線付近での衝突の際の重心系エネルギーE_cmに対する一般公式を導いた。つぎに 、この公式を、最内安定円軌道(ISCO)から急落下する粒子が他の粒子と地平線付近で衝突する場合に適用した。その結果、その典型的な重心系エネルギーはE_cm/(2m_0)~1/(1-a_*^2)^(1/4)となることが分かった。ここで m_0は粒子の静止質量であり、a_*は無次元Kerrパラメータである。これは、無限遠で静止した条件から運動を始めた粒子に対する既知の上限エネルギーと3倍の範囲内で一致する。さらに、ISCO上を円軌道運動する粒子と他の粒子とのISCO上での衝突も考えたところ、典型的な重心系エネルギーはE_cm/(2m_0)~1/(1-a_*^2)^(1/6)となることが分かった。この結果は、もしブラックホールの最大スピン極限をとれるとすれば、宇宙物理学的文脈で何ら人工的な微調整をすることなく、任意に大きな衝突エネルギーが実現されることを意味する。また、たとえスピンに対するThorneの上限を考慮したとしても、高度にまたは程々に相対論的な衝突が非常に自然に期待される。たとえば、地平線付近ではE_cm/(2m_0)=6.95 (最大の場合), 3.86 (一般的な場合)、ISCO上ではE_cm/(2m_0)=4.11 (最大の場合), 2.43 (一般的な場合)である。これは、高速回転する超大質量ブラックホール付近でのコンパクト天体の高エネルギー衝突が自然に期待されることを意味する。高速回転するブラックホールへの降着流に対して意味するところについても議論する。

 

非専門物理学者向けの発表用のファイル

 

解説:宇宙ではブラックホールはかなり高速に回転していると考えられます。回転するブラックホールを記述するEinstein方程式の真空解はKerr解です。Kerrブラックホールには回転に上限があります。つまりブラックホールはあまり速く回ることはできません。(つづく。)