宗教文化論
〜宗教人類学入門にかえて〜


宗教とは何か?


人類はいったいいつ「宗教なるもの」を手に入れたのだろうか?
宗教の起源に関する仮説を紹介する。

<宗教>の概念がどのように形成されたのかについてはここでは省く。




般若心経






メキシコ・テペワノ人



わたしは、『世界の民族』シリーズのメキシコ・中央アメリカ編の巻末索引に載っていた、メキシコのシエラマドレ山脈中に住むテペワノという民族にねらいを定め、「メスキタル村から行ける」という記述だけをたよりに、一人旅に出た。テペワノの村には、1ヶ月弱滞在し、仮面儀礼を目の当たりにし、幻覚植物を用いた不思議な世界を体験し、彼らのコスモスの一端に触れた。 この未知の世界への旅を出発点として、やがて、わたしは、迂回路を経て、後に、文化人類学へと辿り着く。メキシコ以降にも、学生時代に、1ヶ月から半年の旅程で、東南アジア大陸部、インド亜大陸、西アジアの辺境地などを旅した。それぞれの旅が、わたしに、次の行動を決めるための精神的な道標となった。




父の死




【宗教の起源】

人は、どのようにして「宗教」を手に入れたのか?
19世紀の文化進化論の仮説とは異なる新しい仮説
(考古学、心理学、人類学の学際研究の成果)




文化のビッグバン


世界の各地から発見される洞窟壁画は、
いまから4万年ほど前にクロマニヨン人たちが描いたものとされる。

スペイン北部のアルタミラ洞窟の壁画は、
いまから2万年近く前に描かれたとされる。



フランス西南のラスコー洞窟の壁画は、
いまから15,000〜16,000年前のものであるとされる。



いったいそのころ、ヒトに何が起こったのか?

20万年前から、ヨーロッパには、
ネアンデルタール人が暮らしていた。

彼らは高度な石器をつくる技術を持っていたが、
絵を描いたり、文字を用いたりすることはなかった。

ネアンデルタール人は、3万年前に滅亡した。

ネアンデルタール人を駆逐したのが、
クロマニヨン人だと言われている。

彼らは、高度な石器の技術だけでなく、
絵を描いて、洞窟壁画を残している。

その結果、
コミュニケーション能力が
飛躍的に高まり、さらには、生存能力が高まった


5万年前から4,3万年前にかけて
文化のビッグバン
すなわち、
文化の爆発と呼ばれる状況が出現したのではないか。

その後、芸術が誕生し、
宗教が出現した。


こころの進化



宗教の誕生


いまから3、4万年前に、人の祖先は
洞窟で宗教的な儀礼を行うようになり、
洞窟の壁に動物などの絵画を描き、
彫像を作成して、象徴的な行動を行うようになったのではないか。

認知考古学は、
文化のビッグバンを、
現生人類の脳組織に起こった変化に求めている。

ネアンデルタール人の脳では、

【言語的知能】 【社会的知能】
【技術的知能】 【博物的知能】

が分化していた。



ところが、現生人類の脳は、
それぞれの領域を隔てる壁が崩れて、
ニューロンの組み換えによって、
それらをつなぐ新たな回路がつくられ、
その回路をとおして領域を横断する

流動的な知性
が作動するようになった。



どういうことか?
スピーカーを例に考えてみよう。


スピーカーは、それをつくる知識、技術(【技術的知能】
だけでは、うまく機能しない。

音量に配慮する
【社会的知能】を作動させて、
音量調節機能を付ける。
例)ボリュームを夜に大きくしない。

現生人類の認知のシステムは、
さまざまな知能を流動的に組み合わせた
ものの上に成り立っている。


現生人類は、脳の神経系統の組み替えによって、
そうした能力を獲得した。

その結果、いくつもの意味の領域を重ね合わせて、
比喩象徴を用いるようになったのである。


比喩

よく知られた物事を借りて
事柄を説明すること

象徴
感覚的形象や具体的事物を
もちいて概念・意味などを
表現すること


ある領域を別の領域によって考えること
=流動的な知性の作動によって可能となった


どうやらこのあたりに
文化のビックバンがあり、
宗教の起源があるのではないか?



牡丹燈籠


あなたの知らない世界



私たちは、こうした物語を
「ありうべきもの」として理解することができる
(恐怖を感じることもある)

その恐怖は、
一つは、未知なるもの、得体の知れないものに対する防御・防衛であり、
もう一つは、
現存しない存在(物)への積極的な働きかけによる世界把握・統御




「宗教」概念の系譜】

伊勢神宮



「宗教」の概念は、キリスト教との対比において、
未開社会の「宗教」を記述しようとする作業のなかで形成された。