卒業研究について

2000年度は,「ヒルベルト空間と量子力学」(新井 朝雄 著,共立出版)の第3章スペクトル分解のあたりまでをセミナー形式で行いました.(私が10月から1月末まで海外に出張していたため,後期は谷口先生にセミナーを見ていただきました.) さらに,課題として,テキストの各章末の演習問題を解いて,それをTeX形式でレポートとして提出してもらいました.

内容は,関数解析と呼ばれる数学の一分野について理解を深めていくものとなりました.関数解析とは,簡単に言えば,無限次元ベクトル空間とその上の線形写像の理論です.通常取り扱われる無限次元ベクトル空間には,Banach(バナッハ)空間とHilbert(ヒルベルト)空間があります.前者は,ノルムによる位相で閉じたものであり,後者は内積を持つベクトル空間で,内積から得られるノルムによる位相で閉じたものです.たとえば,実数上無限回連続微分可能な複素数値関数 f で,台(={x | f(x) がゼロでない}の閉包)がコンパクトなものの集まりは頻繁に登場するHilbert空間です.関数 f と g の内積 (f,g)は,∫f(x) g(x)^* dx で与えられます.(ここで,g(x)^* は g(x)の共役複素数を表します.) 微分 d /dx は,このHilbert空間に作用する線形写像です.これは微分作用素と呼ばれていて,関数解析学において研究される典型的な例の一つです.このような作用素がどのような振る舞いをするのか,どのような性質を持つのかを調べる手法が関数解析であり,本研究室における卒業研究のテーマです.

前提とされる知識は,ルベーグ積分全般で,このほか,線形代数,微分積分,位相空間論の知識を必要とします.

2001年度は,テキストとして,「Analysis Now 」(Gert Pedersen 著,Springer-Verlag )を使って,関数解析についての理解を深めていきます.