01: 情報の解体と再構築 - Apr 24, 2009

  1. 模写の意義
  2. トレースしてみる
  3. セザンヌについて
  4. 解体と再構築
  5. 来週までの課題

I. 模写の意義
模写という行為がもたらしてくれるものとは、表現の技術ではなく、何を表現しようとしていたのか、という本質的な部分に関与できることである。
→偉大なる作家が、何を見ていたのか、何を考えていたのか、といったことをトレースする、とも言える。

似せようとすること
模写はオリジナルに似せようとすることではない。表層の輪郭をなぞるのではなく、いかにして対象の本質を見極め、それを構成している要素と同じものによって再現(リプレゼンテーション)できるか、ということ。

模写の目的
模写は、その技術を鍛錬するためのものとして行うのではなく、対象の構造・機能を把握するために、表現者が何を表現しようとしていたのかを、追体験する意味を持っている。
→追体験で得たものを、自分の表現に反映させる。

II. トレースしてみる
尾形光琳は俵屋宗達の『風神雷神図』をトレースして、構図を変えて描き直したが、それと同じ作業をやってみて、光琳が宗達の作品に、何を求め、何を自分の作品へと投影したのかを実践的に考えてみよう。

平面上の模写
最初の模写として、まずは二次元表現のものを二次元に写し取る、という作業から始める。
ここから、次元の異なるものを模写したり、アナログをデジタルでトレースしたりした上で、最終的にはメディアを変えた模写をしてみる。

俵屋宗達 『風神雷神図』

尾形光琳 『風神雷神図』

酒井抱一 『風神雷神図』

尾形光琳 『風神雷神図』(部分)

尾形光琳 『風神雷神図』(部分)

III. セザンヌについて
ポール・セザンヌ
Cézanne, Paul
1839-1906
エクス=アン=プロヴァンス生まれ。

セザンヌの言葉
セザンヌは、「自然を球、円錐、円筒などとしてみよ。物体ないし面の側面がすべて中心点に向かって後退するように、すべての物体を遠近法に従って配置せよ」と述べている。
→印象派の方法論を、さらに発展させたもの。

線の否定
セザンヌ以前の印象派もそうだったが、自然の中に輪郭線は存在しない、と考えていた。
→三次元空間を二次元上に落とし込む際、それまでは輪郭線の中に囲い込んでいた。

幾何学的形体による表現
彫刻的な感覚によって、平坦になってしまいがちな絵画表現に、文字通りの奥行きや三次元を与えようと試みた。
→セザンヌが、それ以前の印象派とも、それ以後のキュビズムとも異なる、西洋絵画の分岐点にいる所以。

キュビズムへの橋渡し
セザンヌの方法論を押し進めてゆくと、キュビズムへと連なり、あるいはデザインの原点になっている、という見方も出来る。
→彼が描いたモティーフは、どのように解体され、再構築されたのか、という点について考える必要がある。

ビベミュスの石切り場から見たサント・ヴィクトワール山の写真

ビベミュスの石切り場から見たサント・ヴィクトワール山(1887)

全体を構成する形体と山のデフォルメを示す軸線

中心軸の周囲を回る面と量による構成の原理

橙色と緑色の部分の形体を抽出したもの

白い部分の形体を抽出したもの

IV. 解体と再構築
表現とは、全く新しい情報によって構成されるわけではなく、影響といったものにより、一度知覚した情報を、より細かな情報へと解体し、それを再び組み立て直すことで、新たな表現として提示される。

類似性と解体
解体の仕方、細かさによって、類似の程度が決定される。
AとBが類似する表現物であった場合、両方を同じ単位で解体で解体すると、同一の情報をどれだけ含有しているかが、AとBの類似性の程度であると定義できる。

差別化と再構築
表現が、他のものと差別化される最も重要な要因となるのは、どのようにして再構築するか、ということ。
→すなわち、どのような単位に解体し、それをどのように再構築するかが、「オリジナリティ」と呼ばれるものに相当する。
→完全に新しい情報のみで構築することの困難性について、再考してみよう。

プロセスを意識する
解体と再構築を行う過程で、どのような構造を与え、それがどのように機能するかも同時に考慮しなければならない。
→それは情報をいかにしてデザインするか、ということである。これについての詳細は、次週の授業で詳しく説明する。

V. 来週までの課題
以下のセザンヌの作品を幾何学的形体に分解し、「柔らかく躍動する固体」というテーマで、別の形に切り貼りして再構築してください。着色しても構いません。
テーマをどのように解釈するかは、皆さんにお任せします。
制作ノートにではなく、別の用紙、A4サイズの少し厚手のものを用意して制作してください。

ビベミュスの石切り場(1898-1900)

画像をクリックするともっと大きなサイズで見れます。

参考文献
  • 『大淋派展』, 読売新聞社, 2008.
  • ペリュショ, アンリ. 『セザンヌ』, 矢内原伊作 訳, みすず書房, 1995.
  • リウォルド, ジョン. 編 『セザンヌの手紙』, 池上忠治 訳, 美術公論社, 1982.
  • ローラン,アール. 『セザンヌの構図』, 内田園生 訳, 美術出版社, 1972.


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