レクチャー/ワークショップ1 - Oct 08, 2010

  1. 自然の文法
  2. 神は細部に宿る
  3. 装飾を削ぎ落とす
  4. 骨格を露わにする
  5. 来週までの課題

I. 自然の文法
自然が作り出している構造や機能は、何か神秘的なものによって隠されているという訳ではなく、厳密に検証してゆけば、人間が作り出すものと同じく、一定の決まり事があり、ルールが潜んでいる。逆に言うと、それを手本として、われわれは文化や社会を形成してきた。 まずは自然の文法を理解しよう。

世界を構築する幾何学
例えば、美しさであったり心地良さといった、人間の感官的な指標も、実は数学的な文法に基づいているものが多い。

その具体例として、フィボナッチ数列や黄金比といったものが挙げられる。

フィボナッチ数列
0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, 610, 987, 1587, 2584, 4181, 6765, 10946, 17711…

レオナルド・フィボナッチ(1179-1250)が兎の出生率から発見した数学的解法


フィボナッチ数列を図形にしてみると、このようになる。

黄金比
1:1.618 もしくは 5:8
英語で“Golden Ratio”と訳される、比率的に美しいとされる数的割合。

フィボナッチ数列との組み合わせで自然の中に多く存在していて、建築やデザインなどに応用されている。


『ウィトルウィウス的人体図』(1487年頃)


『ウィトルウィウス的人体図』に注釈をつけたもの


ピラミッドにおける黄金比


フィボナッチ数列と音階

モデュロール
建築家ル・コルビュジエ(Le Corbusier, 1887-1965)がフランス語のModule(寸法)とSection d’or(黄金分割)を組み合わせた造語。

建造物の基準とするための数列で、人が直立して片手を上げた時の指先までの高さを黄金比で割ったもの。

卵が先か鶏が先か
世界を構成している文法は、予め自然の中にあったから、それを発見できたのか、それとも結果として、調べてみたら自然の中にもあったのか、果たしてどちらだろうか?

物事の進化(変化)について考えてみよう。対象だけを眺めていても答えは出てこない。


大きな岩が、このような形の石になるまでのプロセスについて考えてみよう。

環境という因子
自然が変化をする要因として、それと隣接する、あるいは囲い込む環境との因果関係を抜きに考えることは出来ない。

今回の課題に関して言えば、植物そのものについてだけでなく、植物を取り巻くものについても考えてみること。

何が植物を変えるのか?

II. 神は細部に宿る
ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエの言葉。

全体を構成する細部にこそ、全体の美を生み出す要因がある、という意。

表層的な装飾ではなく、まずは構造を掌る細部に目を向けよ、ということ。

Ludwig Mies van der Rohe
ドイツ、アーヘン出身

1886-1969

バウハウス三代目の校長

近代建築を代表する建築家

ミースは、ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライトと並ぶ近代建築三大巨匠の一人。

彼が校長を務めたバウハウス」は、1919年にヴァイマールに設立された総合芸術学校で、ドイツ語で「建築の家」を意味する。

ちなみに初代校長は、ヴァルター・グロピウス、二代目はハンネス・マイヤーで、マイスターと呼ばれる教授陣にはヨハネス・イッテン、モホリ・ナジ、パウル・クレー、ヴァシリー・カンディンスキー、ヨゼフ・アルバース、リオネル・ファイニンガー、ヘルベルト・バイヤー、オスカー・シュレンマーなどがいた。

バルセロナ・チェア (1929)

バルセロナ万博にてスペイン国王を迎えるために作られたもの。

ファンズワース邸 (1950)

エディス・ファンズワースの依頼により、別荘として建てられたが、建設費が予算を大幅に超えたために訴訟沙汰になったがミースが勝訴した。

ガラス張りの外装と壁、柱を極力排した内装が特徴。

ユニヴァーサル・スペース
間取りが仕切りによって、使用目的が限定されてしまうのではなく、空間を自由に使えるように柱や壁を最小限に留める設計。

この考え方を建築以外に当てはめてみると、構造の自由な入れ換えによって、多様な形態を生み出すことが可能になる。

そのような入れ換えをしても、構造体として機能することが重要。

課題との関係
植物の細部に目を向け、何が全体を構成しているのか、目に見える全体ではなく、その植物を成り立たせている細部が何なのかを見つけ出す。

ユニヴァーサル・スペースのように、全体を構成する内部の要素を入れ替えても全体がバラバラにならないように編集する。
細部への配慮こそが最も重要な点。

III. 装飾を削ぎ落とす
目に見えているものには、装飾が施されている。その表層を覆っている装飾を削ぎ落とした時、初めて対象の本質が姿を現す。

対象の特性をリサーチしてゆく際、この装飾に惑わされないように気をつけること。

対象を成り立たせている主語や述語といった、核となる部分を見極める。

最適の選択
生命体を含む自然は、自らが最適の状態であるような最良の選択をする。

これによって変化ではなく「進化」が生じる。

この例が、自然教育園で見た「遷移」であり、進化は動物に限られたものではなく、自然の中には同様の現象が別の名の下で存在している。

情報を把握する
自然が行っているような「最適の選択」という文法を、人間が作り出しているものの文法に書き換えるためには何が必要だろうか?

自然が自らに対して選択をしているような、合理的な選択をしなければならない。

偶発的な選択肢で作品を作らないために、まずは対象を構成する情報を把握する。

変化の速度
装飾は表層的変化をするので、環境に影響を受けやすいが、深層部の本質的な要素は、そう簡単に変わってしまうような変数によって構成されているわけではない。

特に自然の変化は、ゆっくりと進む。

それに対し、人間の作り出すものは、いかようにも作り換えることが出来る。

想像と創造
人間の作り出すものの変化は、人間自身の思考の変化に比例する。

人間が考えることは、人間が具現化可能な範囲内で実現する。または人間は具現化が可能なことしか考えられない。
これは「卵が先か鶏が先か」の話と同じ。

IV. 骨格を露わにする
人間の身体も自然であるが、そのフォルムを成り立たせている要素の一つに「骨」がある。

装飾を取り除けば、どんな人間でも、その構造や機能を支えているのは骨であり、その上にある筋肉である。

それによって、身体のフォルムは形成される。

「骨」を見つけ出す
構造を支える最も深層部と言える「骨格」を探り出すこと。

選んだ植物にとって、その植物たらしめているものが何なのかを明らかにする。

この作業を行わないと、ただ単に表層だけを追いかけることになってしまう。

単体と複合体
骨は単体として存在しているが、それが運動を伴う「機能」をするためには、複合体でなければならない。

単数系:os 複数形:ossa

これと同様に、単一的な要素を見つけ出したら、それと連動している同じ要素のものとの関係を探し出してみる。

V. 来週までの課題
まず自画像を描いてから、自分の顔を構成している要素を、点・線・面に置き換えて、顔を構成してみる。

この際、頭骨と各器官との位置関係や大きさなど、自分の顔を構成している文法を崩さないように置き換えること。

制作ノートに描画し、次週、コピーしたものを提出。

以下は課題のための参考画像。
自分の骨の形を意識しながら自画像を描いてください。

参考文献
  • ドーチ, ジョージ. 『デザインの自然学』, 多木浩二 訳, 青土社, 1997.
  • 森於菟, 小川鼎三, 大内弘, 森富. 『解剖学 第1巻』, 金原出版株式会社, 1950.
  • ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ. 『形態学論集・植物篇』, 木村直司 編訳, 筑摩書房, 2009.


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