授業目的

本授業は,一般的に「表象文化」という名の下で行われている哲学や思想をベースにした美学的な文化論とはやや異なるアプローチで,「表象文化」という言葉の意味から考えてもらうべく,「表象(representation)」と「文化(culture)」の関係について,実績的なトレーニングも含めて,対象を言葉で表現する力を養うことを主たる目的とする.

最終的に言葉によって論じてもらうことになるが,言葉というものは基本的に意味として作用するものであり,様々な文化のように,見たり聴いたりするといった感覚の刺戟にはなりにくい.

逆に言うと,意味だけのものとして作用していない対象を言葉に置き換えることには,必ず困難さが伴う.

「表象文化」における「表象」とは,言葉による「再現」でもあるので,その点は批評や感想とは区別されなければならない.

安易に言語の枠組みの中だけで対象を理解しようとすると,独善的な解釈に基づいてしまうことがあり,結果,単なる感想文に陥りかねない.

それを回避すべく,まずはヒトの感覚の中で最も多くの情報を伝達する「視覚」から理解するトレーニングを行うことで観察眼を養い,対象を多角的に捉え,「見えていない」部分を理解し,「見えている」部分をより深く,正確に把握できるようになってもらう.

その上で,対象を言葉によってどのように「再現」できるかという段階に進み,最終的にそれを論文という形にまとめるスキルを習得する.

文化を論じることは,対象が日常的で身近であるが故に,容易なものだと思い込みがちだが,課題を通じて,その困難さを経験することで,本授業以外において言葉で何かを論じるための「道具」としてもらいたい.



授業概要

自らの身体について,果たしてどれほど理解しているだろうか?

身体とは自らのものでありながら,それを所有しているわけではなく,また別の身体と交換することも出来ない.

無論,医療行為として,身体の一部を人工的なもので代替することはあるが,それは自己の身体を放棄するということにはならない.

身体は,心などと同様に,その人のアイデンティティを形成する重要なものである.

そうした身体から生み出される文化とは,身体自身の表象なのであって,身体を抜きには成立しない.

どんな文化であっても,何らかの形で身体の所産として生み出されてくるのであって,文化それ自体として誕生,発展することはない.

それ故,文化を理解するためには,まず身体についての理解が必要なのである.

本授業では,表象されたものの具体例としてフットボール(サッカー)とファッションを扱うが,スポーツ文化や服飾史といったものの知識獲得を目的とはしていない.

その点を十分に理解した上で,身体という実体に対し,それに加算する表現としてのファッションを,身体から生み出されるダイナミズムの美しさ,あるいは身体それ自身の形態美としてのフットボールについて,身体とどのような関係にあるのかについて考えてもらう.

文化の基底には身体があり,そこから様々な形式や形態へと派生してゆくという背景を踏まえ,単に題材とするものだけに留まらず,それに関係する他の文化事象/事物も横断的に眺めることが必要となる.

そうした広い領域を駆け抜けるだけの脚力を履修者には要求する.

それを達成した結果として身に付くものが,本授業に特化した成果に留まらず,あらゆる学問分野にとって共通する基礎体力となるものであることを保証しておきたい.


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