授業目的

知識と呼ばれるものを集積し,それを他者に伝えようとする場合,多くはその手段として言語に頼ることになる.では<経験>を伝えるには,どのような手段があり,どのような工夫が必要だろうか.

あるいはまた,理論や理屈としては知っていることを,それを知らない人に対し,それらをうまく説明するにはどのような方法が考えられるだろうか.

本演習では,日常,何気なく見過ごしている,または自明のこととして気に留めないようなことを,言葉を尽して論じるのではなく,一般的にはアートやデザインと呼ばれる手法をもって提示することで,他者にメッセージを伝達するコミュニケーション・スキルを学ぶ.

ただし今日的なアートやデザインは,古典的な美学領域だけに留まることなく,エンジニアリングやコンピュータ・サイエンスなどの科学を横断し,吸収しながら進歩している.

故に哲学や思想で取り扱われる美学の意味も,刷新されなければならず,美術を含む芸術の役割自体,技術の発展と共に更新されているのが現状である.

そんな時代にあって,思考と制作の産物としてのアートやデザインの可能性として,どのようなあり方を提示できるか,高度な制作技術を前提とすることなく,自身のアイデア/発想を具現化するという作業に半期間を費やしてもらう.

頭の中で思い浮かんだことを頭の中だけで実現してしまう言語表現ではなく,モノとして現実の世界に引っ張りだしてくるスキルや方法論を,自らが工夫しながら模索する時間にしてもらいたい.


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授業概要

現代のわれわれの生活を支えているエネルギーとして,電気の存在は欠くことができない.

自然のエネルギーでありながら,自然の中でよりも,人間の生活の中で様々な動力となるものに変換されて使用されている.現代的な生活において,電気のない生活など考えられないのが現状であろう.

電気は自然の物理現象として存在しながら,主に別の自然の力,例えば水力や火力,風力や原子力などを利用し,それを人工的な動力源に転換する.そうして人工的なものの多くを支えているのである.

また,自然としての電気は,同じく自然の存在としてのわれわれの身体内にも存在している.われわれが何かを考え,あるいは行動する時に,脳内の神経伝達物質は電気の力を借りて信号を伝達する.すなわち,われわれ人間によって表現されたものの全ては,脳内での電気活動の結果だと言ってもよく,われわれの生活は,それが成り立つ根幹の部分で電気の恩恵を受けている.それを前提とした上で,改めて電気というものによって作り出されるものについて考えてもらいたい.

かつてマーシャル・マクルーハンはメディアを人間の拡張として捉えたが,自然でも人工のものの中にあっても,何かを伝えようとする時に必ず媒介している電気が,人間の生み出す美しさにどのように係わり,また「原動力」となっているのか,それを言葉ではなく作品という手段によって実現してもらう.

本演習は電気を扱いながらも,作品という形式をもってメディアやコミュニケーションの可能性について追求し,またそれをモノ作りという手先の思考によって表現するものである.


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