授業目的

アートの歴史は,自然をいかにして人工化する試みであったと言えるだろう.

しかしそれは<術としてのアート>が有効であった時代の話であり,現代において,テクノロジーを導入したアートとは一線を画すようになっている.

アートと道具の進歩とは分ち難い関係にあるものだが,いくら道具が進歩したとしても,アートの本質までが変わってしまうわけではない.

つい最近まで,そのように信じられてきた.

しかしながら,モノを作るという行為,表現と呼ばれていた<職人的営為=アート>という時代は終わりつつあるのかもしれない.

絵を描く,物体を造形するといった行為は,様々な道具(3Dプリンタやレーザーカッターなど)の発展により,必ずしも職人的技術を必要としなくなっているのが現状だろう.

かつて写真術が登場した時,絵画は未来の行く末を選択させられる状況に直面した.

結果として,「見えるように描く」という絵画の大前提を放棄せざるを得なくなった.

それと似たような文脈で,現在,モノ作りとアートの境界線は,道具の進歩によって曖昧になりつつある.

そうした転換期にあって,何かを伝えるための手段としてのアート,あるいはデザインの役割とは何かを,言語以外で伝える方法について,実際に制作をすることで学んでもらいたい.

これは技術習得が中心となるものではなく,表現の本質について問い直す試みであり,その実践として位置付けられる.

自身が発想したものをどのように具現化するか,それを頭の中だけで実現するのではなく,現実の世界に引っ張り出してくるスキルや方法を,試行錯誤しながら模索してもらいたい.

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授業概要

自然は大きく二つに分けられるだろう.

一つはそれを成り立たせる物質を含む現象と,もう一つはわれわれヒトをも含む生物である.

狭義に捉えれば,この限りでないことは言うまでもないが,われわれが日常的に目にする自然とは,主にこの二つと言っていい.

だがそれらは当たり前のように存在している故,その構造/機能が具体的にどのようになっているのかがわかりにくい,

まずは普段,何気なく見過ごしてしまっている自然の仕組みについて精緻に観察し,それをどうすれば言葉による説明以外で伝えることが出来るのか,その方法について考えてもらいたい.

そしてその結果を,目に見える形式において実現する.

当然,そのためには一定程度の技術が必要となるが,技術力の高さのみが重要であるわけではない.

肝要なのは,見過ごしている日常の自然の機微に気付く観察力.

この観察力こそが,最終的には制作をする際の違いを生むものとなる.

実際に制作をする技術,素材を加工したり,動きを制御するシムテムの構築など,実際に手を動かす作業をしてもらうが,これは各自のアイデアに応じて習得してもらうこととなる.

その制作のテーマとして,今回は<動く>について考えてもらいたい.

まずは何が動いているかだけではなく,どう動いているかに気付けるようになってみよう.

その仕組みを伝える工夫について実践的に思考することが,発想力を育み,想像力を伸ばし,コミュニケーション能力を向上させる.

本演習はアートやデザインの方法論/技術を参照するものの,アートやデザインの授業とは趣を異にする.

受講者各自の表現力全般を伸ばすためのものであり,受け売りの知識を獲得するためではなく,自分で考え,問題を解決するという<経験>をしてもらうことが何よりの成果として設定される.

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