2000.6.12
市川・藤野

ロナルド=ドゥオーキン『ライフズ・ドミニオン』
第7章 生と死の狭間 −末期医療と尊厳死−


安楽死 … 死期が切迫している傷病者の肉体的苦痛を緩和・除去し、安らかな死を迎えさせる処置
尊厳死 … 助かる見込みのない患者の延命、治療を中止し、人間として尊厳をもって死を迎えさせる処置 (=自然死とも呼ぶ)

医療技術の発展 → 植物状態で生きられる者の出現 → 「 死の権利」等の議論
安楽死、尊厳死は末期医療の問題として統一的に論ずることができる。

p252〜 ◆ 事前指示の必要性

今日では、多くの人々が植物状態になった時、それを継続させる治療を望むか否かについて前もって決定しておく (事前指示)重要性を自覚している。

(例) アメリカ 〇 個人的決定として全州で事前指示
リビングウィル
医療代理 を承認

一定条件下で署名者を生存させるための特定医療処置使用の禁止を指示する署名者作成の文書

署名者が生死決定不能の場合、代わって生死決定をする第三者を指名する署名者作成の文書

※ 多くのヨーロッパ諸国では承認されていない。

p283 ◆ 政治的決定 (尊厳死・安楽死法の動向)

→ 社会による構成員の死の選択の許容範囲決定

カリフォルニア州では一定要件下に自ら選択した時間と場所で、 死の援助を要請する材料を認める法案が否決された (1992年)。
ワシントン州でも同様の法案が否決された(1991年)。

しかし、最近の全国的世論調査では64%の人々が、尊厳死・安楽死の合法化に賛成している。

※ ヨーロッパ諸国でも法的に死の援助を要請する権利は認められていない。

◎ オランダ → 法的に認められていないが、社会的合意により慣行に従う限り医師は患者を殺すことが認められてきた。

p295 ◆ 死の権利は憲法上の権利は?

<連邦最高栽> 意志能力を有する者が永続的植物人間になる場合、その除去を求める権利がある。 (ナンシー・クルザン事件)

〇 事前指示があるなら患者の意志は尊重される。
→ 州法で要件限定できる。

〇 患者は生きたままにされない権利を有する。
↓
非合法になっている殺してもらう権利との線引きは?

死の権利を承認することで様々な側面が考えられる。

〇 誤診があった時、それに基づいて人々が死を求めてしまう危険性がある。

〇 医師が生命救済にたいして無頓着に、社会全体が死について無神経になることはないか等の危惧。

p296 ◆ 死の決定 ―― 時期と方法をめぐる議論 ――


医療倫理学上の議論 − 誰がどのような予防措置と公的資格の下に決定すべきか。


道徳上の議論 − 誰が決定するに関わらず、どのような決定が正しい決定か
↓
死の時期と方法について、一体どのように考えるべきなのか

のみならず (2)をみなで論じ、理解を共有することが重要。
なぜなら、死の決定をどのように考えるべきかという理解があってからこそ、誰がいかなる決定をすべきかという判断を下すことができるからである。

p297 ◆ 死の決定の際には (1) (2) (3) の状況が考えられる。

意識能力がある場合

自殺 … 多くの西欧諸国で犯罪ではない。

自殺幇助を求める権利は? … アメリカの大部分の州と西欧諸国で禁止

よって医療現場で、治療の拒否はできる(その治療をしないと死ぬ時でも)が、一度取り付けた生命維持装置を取り外すことは死の幇助となり、できない。

これに対し意見が分かれる

患者は食事拒否、生存治療拒否などで徐々に苦痛に満ちた死は可能
だが、毒物注射等による即時・苦痛のない死はできない。

医師とは殺人者になってはいけないのであり、この差こそ重要

T 1,400人の医療関係者に対する質問で、末期患者に対し、過剰治療を行ったと答えた者は、70%を超えた。

p299 ◆ 事例

〇 ナンシー・B事件(カナダ)… 長期生存可能な首から下が麻痺した女性が生命維持装置の除去を求めた訴訟。

<判> 患者がその状況下で生き続けることに耐えられないと思うなら生命維持装置除去を要求する権利あり。


〇 リリアン・ボイス事件(イギリス)… 主治医として13年間、患者と親密な人間関係にあった医師が、患者の懇願で致死量の毒物を注射した事件。

<判> 医師に有罪判決。 職業上の絶対的義務に対する完全な裏切り。 しかし、医療審議会は医師の行為は許されないとしたが、医療活動を禁止しなかった。

〇 トランブル事件(アメリカ)… 主治医が患者の懇願に従って、致死量の 薬を処方し、患者がその薬で命を絶った。

<大陪審> 医師を有罪として起訴すべきではないと判断。

また、当該医師の処置について医療審査委員会は全員一致で、非違行為は認められないとして、医療資格を剥奪する等はしなかった。

〇 ケボーキアン医師の自殺機(アメリカ)… 医師が様々な自殺機を考案。

少なくとも9人が自殺に使用した。
ケボーキアン医師の自殺機使用を阻止するためミシガン州は一定期間、自殺幇助を禁止する法律を制定した。

p303

意識がない場合

意識がないが末期状態 (例)重度の心不全状態

意識がないが死に瀕していない状態 (例)永続的植物状態

親族の対応 ・ 生命維持装置の除去を求める

・ 元気な時と同様に接する

・ 生命維持装置の除去を求めた事例

p304 〇 ナンシー・クルザン事件(アメリカ)… 永久的な植物状態になった娘の死の許可を両親が求めた訴訟。

<連邦最高裁> 事前指示があるなら生命維持装置の除去を求めることは、憲法上の権利として認められるとした。

〇 アンリニー・ブランド事件(イギリス)… 植物状態になった息子の生命維持装置除去を両親が求めた訴訟。

<一審> 患者の利益として両親の請求を認めた。

<控訴院>患者の自己決定の観点(植物状態なら死を選んだ可能性が高かったと判断される)から一審を支持する。

意識はあるが能力がない場合 (アルツハイマー症)

論 点

医師とは何なのか、医師の役割をどう捉えるべきか。

医療技術は現在の水準(例えば、息をしているだけの状態を維持できる)まで発展しないほうがよかったのか。



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