第一章 複合的平等

法哲学ゼミ 担当:中 充 10月15日

本書自体の目的:社会的財が優越の手段とならない、なりえない社会を叙述すること

<多元論>

人間の社会は財の配分をめぐる一つの共同体である。その配分の基準、取り扱われ方についてのありかたの探究が配分的正義の議論(?)
財の多様性→配分に関する手続、実行者、基準の多様性に対応
配分の機構・基準が完全・単一であったことはかつてなかった
→単一の財・単一の基準への探究は配分的正義の問題を誤らせる
☆正義は人間による一つの組み立て→一つの仕方でしか作られないというのは疑わしい。正義の諸原理はそれ自体が多元的な形をしている

<財の理論>

○人々は(他の)人々に財を配分する
○人々は財を心に浮かべ、創出する。そうした財を彼らは次に自らの間に配分する
・・財は人々の手に入る前に心に入り、財とは何か、何のための財かについての共有された考えに従って配分はパターン化される
配分の多元性を説明し、限定するための六つの命題
@ 配分的正義が関係する財はすべて社会的財である
A 人々が引き受けるのは具体的なアイデンティティーである
B 道徳的・物質的世界すべてを包含できるような第一のあるいは基本の財からなる単一のセットというものはない
C 財の動きを決定するのは財の意味
D 財の社会的な意味は歴史的性質を持つ
E 意味が別個のものであるなら配分は自律していなくてはならない

<優越と独占>

優越:一つの財を持っている人がそれを持っていることで広範囲にわたる他の財の支配権を握ることができる場合
独占:価値の世界における君主がすべての競争相手に対して財を制している状態
☆ 優越した財を独占しようとする主張がイデオロギーを構成する
優越・独占への反対要求
@ 優越している財はどのようなものであれ、平等に、あるいは少なくともより広く共有されるよう再配分されるべき(独占の不正)
A その方法はすべての社会的財の自律的配分へと開かれているべき(優越の不正)
B 新しい集団によって独占される、新しい財が現今の優越的財にとって代わるべき(今ある優越と独占のパターンの不正)

<単一なる平等>

第一の主張=独占への挑戦
富が優越し広く共有されている→他のいかなる財も独占されない=単一平等の体制
例)貨幣の優越・平等な配分→教育への投資→普遍化→能力の優越・独占
対処:新しい転換パターンに限定を加え、有能な者の独占を抑える→それは国家権力の仕事⇒国家権力の優越・独占化

<専制と複合的平等>

第二の問題=優越の縮小こそ肝要・・・著者の立場
特定の財の転用可能な範囲を狭め、配分領域の自律性を守る
独占の批判⇒単一平等を求める
優越の批判⇒現実の配分の複合性を再形成し、それと共生する道
魅力的な社会:様々な社会的財が独占的に保持されているが、どのような特定の財も決して転用可能ではない
パスカルとマルクスの主張
@ 個人性と社会的財とはそれぞれが活動領域を持っており、そこにおいてそれらは自由に、自発的に、正当に自らの効果を生み出すAこうした配分原理の軽視は専制である
☆ 一つの財についてその領域内であれば独占は不適当ではない

<三つの配分原理>

自由交換:一つの市場を作り出し、そこにおいてすべての財は貨幣という中立的媒体を通し、他のすべての財へと転換可能。独占も優越もなく配分は社会的意味を直に反映する
(批判)貨幣の優越性
功績:個々の功績に応じてなされる配分で、その結果は予測不能かつ多様で、優越した財はない (批判)配分の基準は多元的で、きわめて難しい判断を要する
必要:共同体の富をそのメンバーの必要を満たすために配分する
(批判)機能できる範囲はきわめて狭く、他の配分基準への配慮を要する

<階層制度とカースト制度>

財の社会的意味は配分領域の自律を要求する(優越・独占はその意味の侵害)
⇔優越・独占が意味の制定であり、社会的財が階層制度から理解されるような社会

☆ 古代インドのカースト制度
諸々の社会的財すべてが階層制度の物的・知的規制に服し、制度自体は儀式的純粋さという単一の価値により決定されている。社会的な意味は重なり合い、緊密に結びついている→複合的平等の不可能
単一平等ならば広く配合されている一つの支配的財が一つの平等社会を作る。一方、複合的平等は、境界線の防御を必要とし、財について、いくつの財が自律的な形で考えられるべきかを求めることになり、困難である。しかし、私たちが意味を識別し、配分の領域を区別し始めるや否や、平等のある企てをはじめているのである。

<議論の舞台>

配分的正義についての議論の舞台には、政治的共同体がふさわしい。
(理由)
・政治的共同体は言語、歴史そして文化が一緒になって集合的な意識を産み出すため、私たちが共同の意味の世界に近づこうとする時最も近い。
・政治が共同性の絆を確立する。
・この共同体それ自体が配分される財、もっとも重要な財である。

これに代わり得る唯一のものは人類自体、地球全体であるが、様々な困難が生じ得るだろう。

<論点>

・理想的な単一なる配分の基準は本当にありえないのか?
・複合的平等は著者の言うように理想的な社会を実現させるのか?


Copyright (C) 2000-2010 大阪市立大学法哲学ゼミ
http://www42.tok2.com/home/takizemi/

2001年度スケジュールに戻る