平成14年5月13日
瀧川ゼミ

J・S・ミル『自由論』 
第3章 幸福の諸要素の一つとしての個性について

担当:黒田


思想良心の自由・表現の自由の絶対的必要性とその理由(第二章)
↓同じ理由から
自己の意見を実行する自由―自分自身の責任と危険とにおいてなされる限り、同胞たちにより肉体上または精神上の妨害をうけることなく自己の意見を自己の生活に実現していくことの自由

※自分自身の責任と危険とにおいてなされる限り…正当な理由なく他人に害を与える場合には、免罪性(自由の特典)を失う
人間の可謬性・人間の真理が大部分半真理であること・意見の自由市場的発想 等の原則は、意見に対してと同様に行為に対しても適用しうる

<原理>他人に関係があるというのでない事柄においては、個性が自己を主張することが望ましい

(個性の自由な発展が幸福の主要なる構成要素)

・一般的に個人の自発性への無関心という問題(最大の困難) p115
ヴィルヘルム・フォン・フンボルトの学説―
「能力と発展との個性」(目的)のために、「自由と状況の多様性と」が必要

慣習の模倣と、自らの選択の必要性―
@経験の狭隘の恐れ・解釈の正しさへの疑問
A環境・性格への適合の疑問
B慣習だから従う場合の発展の無さ

・悟性の活動、欲望・衝動の必要性 p120

欲望・衝動の擁護
 悪との直結の否定…悪い行為は良心の弱さに起因、
          強い衝動と弱い良心との必然的因果関係否定
 善と結びつきうることの証明…人間性の素材をより多く持つ
               =より多くの善も為しうる

欠乏の現状
社会が完全に個性を征服してしまっている
(慣習化しているものに対する嗜好以外に嗜好を持ち得ない)
…カルヴィン派においては望ましい状態<我意は罪>―神の意志の禁欲的解釈
    ↓<緩和>
権威者に指定された方法により、人間が嗜好の或るものを満足させることは神の意志(偏狭な人生観)…今日多数人が信じている
    ↓
人間的卓越の型―人間の天性は、単に捨て去るためにではなく、他の目的のために与えられた本性をもっている、という人間性の観念
…他人の権利と利益とにより課された限界の範囲内で、個性的なものを開発し喚起するべき(「異教徒の自己主張」)
    ↓
人間が高貴で美しい観照の対象となり、その生活が豊富で多彩になり、民族への結びつきが強固になる
成長という点からも、利己的な要素に抑圧を加えることで天性の社会的要素(他人の幸福を自己の目的としようとする感情と能力)を成長させる。…基準は他人の幸福

・啓蒙の必要性 p129

未発達な人々(自由を欲求せず、また自ら自由を利用しようとも欲しない人々)に向かって、〔たとえ彼ら自身は自由を必要としなくても〕、指摘してやる必要がある。
 ↓
信仰や慣習が機械的なものに堕落してゆこうとする中で、絶えず再起する独創力により防止しうる人が必要(天才の重要性)
少数者たる天才(いかなる人より個性的)を確保するために、自由の雰囲気が必要
 (自由に天才を発揮することを許すことの必要性)

天才の必要性・重要性=思想と行動における独創性の必要性
※独創性―独創的でない人々にとってその効用を感知できない一事であるが、彼らの目を開くことが出来るもの。
→謙遜な態度で独創性の働きを信じさせ、必要を確信させるべき
 凡庸が人類の間で優勢な力とならせている一般的傾向(順応)
 ↓
 英雄崇拝ではなく、凡庸者に道を示す自由のみ
 現在においては、一般的なものへ順応しないという実例だけでも、それ自体が一つの貢献
 奇矯な言動の豊富さは、社会の包含している天才、精神的活力、道徳的勇気の豊富さに比例

・普遍的に認められるべき個性 p136

人の異なるに従って、その精神的成長のために必要な諸条件もまた異なる
 ↓
趣味・生活様式の相違は、制しきれないほどに多数の味方がいることを理由として寛容されるが、行動においての少数派は、肩書きや身分なくしては悪し様な評判を免れないし、自分の好むままに行為するという贅沢に大いに耽る人は精神鑑定の委員会にかけられる等の不寛容をうけることがある p138

現代の世論の傾向には、個性の顕著な表現に対してことさらに不寛容という特徴があり、道徳の改善を目的とする強力な運動(行為の規則性を増大させ過度の行為を挫折させる)が開始されている
博愛の精神の普及―同胞たちの道徳と思慮分別の改善への活動
 ↓
行為の一般的な規則を指定しようとする公衆の欲求、あらゆる人々を是認された標準に一致させようとする公衆の努力が強力
 ↓
強壮な理性の指導下にある偉大な精力と、良心的な意志の強力な統制下にある強烈な感情の代り に、意志や理性の力なしにただ規則に外面的に順応するにとどまる薄弱な感情と貧弱な精力しか 残らない

慣習の圧制―人間の進歩に対する不断の障碍物 p142

<東洋>慣習の専制が完璧、正義と公正は慣習に一致、
全てのものを一様たらしめようという理想
→停滞的(警告的実例)

<西洋>技術、政治、教育、道徳においても改革を熱心に求めている
道徳においては、自分たちこそ進歩的と自負し、個性を敵視
…各人の相違が重要なことを忘れている
性格と教養の多様性により、今日まで進歩的で多面的な発展をなしえた
    ↓

現在―状況の多様性の減少(同化作用)p147

非順応を助けようとするSocial support(自己自身が多数者の優位に反抗しつつ、公衆の意見んや傾向と相違する意見や傾向を保護することに関心をもつ、しっかりとした社会力)の不存在へ
・差異の存在することそのことが有益であるということを理解するに至らない限り、個性はその地歩を維持することは困難となる
強制的な同化に抵抗しうる今こそ、個性の権利を主張すべき時期である

論点

一、他人に関係のある事柄についての干渉を慎む限りで許される自由p114と、自由の享受を未発達な人に知らせることの重要性を強調することp132は矛盾しないか?
 他人の幸福p128だからいいのか?

二、自分の好むままに行為するという贅沢に大いに耽ることはやはり現代でも不寛容を免れえないか?p138

三、現代の同化作用p147は望まれてきたことではないのか?


Copyright (C) 2000-2010 大阪市立大学法哲学ゼミ
http://www42.tok2.com/home/takizemi/

2002年度スケジュールに戻る