積極的安楽死

2002 / 6 / 17
担当:4班(黒田・三浦・加藤)

安楽死の歴史・経緯

1.中世キリスト教社会
生命は神の与えられたものであり、したがって、自殺であれ安楽死であれ、人間が人の 生命を奪うことは神の意思に反するという考え方が前提
→安楽死は殺人の一種として処罰の対象だった
(自殺も同様)

2.18世紀末
近代医学発達が契機となり、死苦から病者を解放するための積極的安楽死を是認しよう とする考えが起こってくる

3.20世紀
安楽死の合法化を求める動きが広がる
1930年代にはイギリスやアメリカで「安楽死協会」ができ、安楽死合法化を目指す運動が 活発に展開された
ところが、1933年ナチスが政権を掌握
→「安楽死命令」の名の下に精神障害者、役に立たない老人、ユダヤ人などが大量虐殺 欧米の、安楽死を容易に肯定しようとする考え方に大きなショックを与える

4.現代
安楽死は人道主義的立場からその合法性が基礎付けられるべきであり、特に本人の意思 に合致する場合のみに限定すべきであることが主張されるようになる
宗教、哲学、文学、医学、法学など、様々な分野で十分に論じられるべき問題

諸外国の動向

1.オランダ
2000年11月 下院で安楽死法案を賛成多数で可決
2001年4月 上院で可決
国家レベルで安楽死が合法化されるのは世界初
世論調査では92%が安楽死合法化を支持
(1) 患者の自発的意思
(2) 耐え難い苦痛
(3) 治癒の見込みがない
(4) 担当医師が第三者の医師と相談
などの条件を満たす安楽死について、医師の刑事訴追免除を刑法で定める内容
患者が事前に安楽死希望を表明→医師は原則として患者の希望に従わねばならない
未成年者(オランダでは18才から成年)の安楽死→12〜15才:親の同意が必要
16才以上:親の同意は不要

2.ベルギー
2001年10月 上院で安楽死法が可決
2002年5月 下院で、国家としては2番目となる安楽死法が可決
要件はオランダと同様
しかし、オランダでは12才以上であれば親の同意があれば安楽死できるが、ベルギーで は18才以上に限定

3.オーストラリア
1995年5月 北部準州議会で安楽死法可決
22の要件に該当する場合に積極的安楽死、または自殺幇助を認める内容
1996年12月 北部準州にそのような法律を制定する権限はないと、同法を無効とする法案がオーストラリア連邦議会下院で可決
1997年3月 同法案が上院で可決
そのあいだに4人の安楽死が実施される

4.アメリカ合衆国
1976年〜1985年 36の州が尊厳死(消極的安楽死)を認める「自然死法」を法制化
1994年 オレゴン州で安楽死法成立
1997年 オレゴン州で安楽死法施行
1998年〜2000年に96人が希望し、2000年1年間で27人に実施

日本では…

1.名古屋高裁判決(昭和37年)
脳溢血で苦しむ父親を息子が農薬入りの牛乳で殺害した事件に対し、以下の要件を満た す場合には安楽死の違法性は否定されるとした
(1) 不治の病で死期が目前
(2) 患者の苦痛が甚だしい
(3) 患者の死苦の緩和が目的
(4) 本人の真摯な嘱託または承諾が必要
(5) 医師の手によることが原則
(6) 倫理的に妥当かつ認容しうる方法による

2.横浜地裁判決(平成7年、東海大学安楽死事件)
多発性骨髄腫で苦しむ患者に、医師が家族の要請により、塩化カリウム製剤などの薬物 を注射して死亡させた事件について、以下の要件を満たす場合には「緊急避難」として認 められるとした
(1) 患者に耐え難い肉体的苦痛がある
(2) 死が避けられず、死期が迫っている
(3) 肉体的苦痛を除去・緩和する方法を尽くし、他の代替手段がない
(4) 生命の短縮を承諾する患者の明示の意思表示がある

3.京北病院の事件(平成8年4月27日)
国保京北病院長が、古くからの友人である末期癌患者に、筋弛緩剤を自己判断で点滴投 与し、その直後に患者は死亡した
京都地検は「投与された筋弛緩剤は致死量に達しておらず、薬剤投与と患者死亡との因果 関係が認められない」として不起訴

4.川崎協同病院の事件(平成14年4月19日)
気管支喘息で植物状態になった患者に対し、平成10年11月に女性主治医が家族の目の 前で気管内チューブを抜き、筋弛緩剤を投与して死亡させていたと報道
病院側と遺族側の証言が食い違い、現在捜査中

5.学説(通説)
安楽死は刑法的にも許容されうるとし、その合法性を是認(刑法35・37条)
「不治の病で、死期が近づき、身体的、精神的苦痛の激しい患者に、医師が一般に苦痛を 軽減する方法をして現代医学上認められる方法を施し、そのために死亡することがあっ ても、現在の刑法にて処罰されることはない」

6.世論
尊厳死を支持する考え方は急速に広まる
→医師の判断だけによって治療行為が進められるのではなく、患者の意思をもっと反映した治療を受けたいという、医療における患者の自己決定権を重視する世論の流れ
※毎日新聞の世論調査(1996年)
約60%…安楽死や尊厳死を許容
26%…自分自身の安楽死を望む人
56%…自分の末期の苦痛には尊厳死を求める人

7.新聞
オランダ下院の安楽死法案可決に際して…
朝日新聞・社説(2000年11月30日付)
→合法化に反対
毎日新聞・社説(同日付)
→日本でも時間をかけて議論を深める必要性あり
オランダ上院の法案可決に際して…
読売新聞・社説(2001年4月15日付)
→安楽死と自殺容認との境界の曖昧さを指摘
安楽死の前に、生きる力を与える医療こそ検討されるべきでは?
産経新聞・社説(2001月4月12日付)
→日本では、安楽死よりも尊厳死を望む国民が増えている
ホスピスや在宅医療・介護サービスを充実すべき
毎日新聞・解説記事(2001年4月11日付)
→「日本とオランダでは国情が違い、日本でただちに安楽死の方向に進むという状況ではない」という日本尊厳死協会事務局長のコメントを紹介

参考文献

医療人間学入門/安楽死
http://www3.kmu.ac.jp/~legalmed/ethics/theme1.html
か・ら・だ/け・あ
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/ne0b2901.htm
ジャパンブリーフ2001年5月 「オランダ安楽死法への日本の影響」
http://www.fpcj.jp/j/fshiryou/jb/0119.html
千葉医師会
http://www.chiba.med.or.jp/ippan/gendai-mirai/
判例時報 324号11頁


Copyright (C) 2000-2010 大阪市立大学法哲学ゼミ
http://www42.tok2.com/home/takizemi/

2002年度スケジュールに戻る