第2章 ミクロ経済学の概説 第6節〜第8節

2002/10/21 担当:和田

6 市場の均衡

A 完全競争市場における均衡

完全競争産業とは─どの1企業の利潤最大化行動も、どの1個人の効用最大化行動も、
市場価格に影響しない。

例 価格が高すぎ(供給>需要)
       ↓
  価格を押し下げる
       ↓
  需要増加、供給減少
       ↓
  需要量と供給量の差が縮まる
       ↓
均衡価格に到達(両曲線の交点)=需要量と供給量が一致した状態
                消費者の意思決定と供給者の意思決定が調和
※均衡を変化させるもの・・・新たなテクノロジー、消費者の嗜好の変化(=外在的な作用)

B 市場構造と供給理論

   完全競争市場←───────────→独占市場
(多数の売手と買手)           (企業と産業は一に帰する)

完全競争市場
いつでも代替可能な売手と買手(=プライステイカ−)が存在。
つまり企業は需要曲線が水平であること(いつでも需要がある)を前提に行動する。
注)実際の曲線は右下がりである
→価格と生産量は均衡価格と均衡生産量に一致する

独占市場を形成させる参入障壁>
@法的制限
例)旅客運送市場への新規参入不許可
A規模の経済=自然独占
アウトプットのレベルが大きいほど生産の平均費用が少なくて済む、
という生産の事情。 ──→その産業に企業がひとつだけしかないことは有利。
理由:ある1社がその産業のアウトプットのすべてを生産できれば
   他の数社でより高い平均費用をかけて同じだけ生産するより安価になるため。

<独占企業の利潤最大化>
限界費用と限界収入が一致すること。(この点は競争的産業と同じ)
しかし限界収入は売られるアウトプットの単位数が増加するにつれて減少。(競争的企業とは異なる)
例)競争的企業の場合、均衡状態になる点(p.54図2.9 qc)が
  独占企業の場合、企業の総収入がまったく変化しない点に一致(MR=0)
  このままアウトプットの量を増加させると、総収入が減少=損をする
            ↓グラフ上では
需要曲線よりMR曲線が下に位置(完全競争市場より傾き大)
つまり価格を下げたときの需要の増加率が小さい

以上のことから、独占企業のとる行動パターンは次のようになる。

大幅な値下げを行っても、需要はあまり伸びない
            ↓
       現状価格を維持し続けたい
            ↓
限界収入と限界費用が一致するアウトプット・レベルを選択
            ↓
       企業の利潤が最大化される

<その他の市場構造>
完全競争と独占という両極端の中間に位置するようなもの

寡占市場
利潤最大化行動が相互依存しあっていることを認識している複数の企業からなる市場。
この相互依存状況の経済分析にはゲームの理論が必要。

不完全競争市場
企業の参入・撤退の自由あり。数多くの企業の存在。(完全競争市場と同じ性質)
同時に1つの重要な独占的要素をも有する。
*独占的要素・・・差別化可能なアウトプットを生産すること
         (ブランド名、色、サイズ、質、耐久性、その他)
・・・問題2.9−2.10の答え

C 均衡分析の具体例

<賃貸住宅市場の例>
市が条例で、均衡市場賃料よりもかなり低い賃料を賃貸住宅賃料の上限に設定した場合、賃貸住宅の需要と供給はどうなるか。

市の期待─少なくとも同程度の量の住宅がより低い賃料で賃貸される
実際の結果─需要量は増加、供給量は減少する。 
賃貸住宅はhd-hs(図2.10)に相当する分だけ供給不足に陥る。

<その後の動向>
1賃料上限規制が厳格に強制される場合
 →何らかの事情が起こるまで供給不足は続行。
?家主が通常の修繕や維持管理を止めて住宅を放置。
→競争的賃料になるまで住宅の価値は下落

2賃料上限規制が厳格でない場合
 →消費者と供給者の間で供給不足を回避する手段がとられる
例)賃料以外のサービスや秘密の支払いで(上限の賃料を超える実質的賃料)優先的に自分に賃貸してくれるようにする。
・・・問題2.11の答え

7 ゲームの理論

<ナッシュ均衡>

完全競争←───┬────→独占
        寡占=最大化意思決定が相互依存している複数の企業が存在。
合理的行動原則─他社を見張り、かれらの設定する価格に基づき、利潤を最大化するような価格を設定。
↓これに従うと
均衡=他のプレイヤーに対して利潤最大となる行動を全員がとる状況。
誰も行動変更できない。(自分が有利にはならないから。)
──→このような状況を「ナッシュ均衡」という。
法現象においては…
複数の意思決定者 
    
     ←─他者の選択した行動が影響

一人の最適な行動

<囚人のジレンマ>

(p.60〜p.63の事例より)
相手がどんな行動を選択したとしても自白することが優越戦略となる。

最善の行動が同一である。
               ↓   
他のプレイヤーの戦略変更なしには有利にはなれない
               ↓
みんなが優越戦略をとるから=動かない
※戦略…他者の反応に対応して自己の行動を決定する計画。
(市場においても多人数ゲームにおけるナッシュ均衡になっている。)

<ナッシュ均衡の欠点>
ゲームによっては均衡が生じない
――パレート最適でない(両方ともが有利にはなっていない)。
しかしパレート最適な結果をとることは不可能。
└→「信頼できるコミットメント」をすることはできないため。

<有限回繰り返しゲーム>
何度も同じ試行を繰り返す→協力関係が生じる
この原則に従ってA・Bがとる戦略を表にすると以下のようになる。
  1〜9回目  10回目(最終回)
A   黙秘      自白 1〜9回目と10回目では状況は異なる
B   黙秘      自白

最終回ではA・Bともに優越戦略をとる

9回目が事実上の最終回となる

9回目の最適戦略は?

10回目と同じ論理で、共に「自白」を選択

8回目が事実上の最終回になる

結局、1回目から最適戦略は「自白」になる

<無限回繰り返しゲームの場合>
協力が誘発される…共に最も効率のよい結果を選ぶ
「しっぺ返し戦略(条件付協力戦略)」
前回のゲームで相手が協力(黙秘)した場合、次回は自分も協力し、
逆に協力状態にあったが、前回のゲームで相手が自白した場合、次回は自分も自白する。
↓ つまり
相手が何らかの行動変更をしない限り、協力関係は維持される

債権者と債務者の関係についてみると―
・債務者の事業がうまくいっている間…無限回の繰り返しゲーム
・もうすぐ支払不能になりそうな場合…有限回の繰り返しゲーム

問題2.16

(1)日本における談合の蔓延
各社は自己の利潤を最大化するために、ゲームの理論によって導き出される「合理的行動原則」に従って行動(価格を設定)しようとする。
そのためには、他社がどのような行動をとるかを見張り、それに基づいて自らの戦略を決定する必要がある。その結果、生じる均衡状態を維持するために、談合という方法がとられてきたと考えられる。

(2)行政による談合の温存促進
発注側が行政であることは、その市場の安定性を意味すると考えれば、このような談合は無限回繰り返しゲームになぞらえて考えることができる。
無限回繰り返しゲームでは協力が誘発されるシステムになっているので、市場は協力関係が維持され(均衡状態となり)、誰かが戦略を変更しない限りこの状態が続くことになる。
また、グループ分けを行うことは、戦略変更(裏切り行動)を抑制する効果があると考えられる。

8 資産に対する価格設定の理論

資産=所得の流れを産み出す資源
例)アパートの賃料収入 特許料収入
将来にわたるもの・・・現在価値(現時点でいくらまでなら支払う用意があるか)に換算
現在の割引価値を計算で割り出すことが可能
→法律においても広く利用できる
例)財産を破壊された者に対する損害補償額の算定 


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