第5章 所有権法の経済分析 解答

担当:卓・松尾・岡・本田

3−1

a所有権と宗教上の自由権の違いについて
共通点:ほかの私人・国家・政府から干渉されず、個人が自由に選択できる。
    自己の意思を他者に対する責任を負うことなく行使できる。
異なる点:所有権は外面的なものであるが、宗教上の自由権は内面的なものである。
     所有権は売買の対象になるが、宗教上の自由権は売買の対象にならず、譲渡・放棄することはできない。よって、宗教上の自由権には流通性がない。

bどうして宗教上の自由権が所有権よりも平等に分配されているか?
所有権は外面的なものであり、また、所有権の対象である「物」があって初めて成立するものである。さらに、ある「物」に対する所有権は排他性・独占性があるが、宗教上の自由権にはそのような性質はない。(たとえば、ある個人だけがキリスト教を信じることができる権利などというものは考えられない)このことから、宗教上の自由権のほうが所有権よりも平等に分配されているのである。

3−2

アダムさんは、第三者であるクレアさんから3200ドルの買受けを受けたとする。このクレアさんの申し込みの事実は、従前の各自の威嚇値や協力による余剰、妥当な解にどのような変化をもたらすか?
この場合、クレアさんが二人の交渉の前か後どちらに交渉に入ったかわからないので、場合わけを行う。

aブレアさんの申し込みの前にクレアさんが現れた場合
この場合、アダムさんの威嚇値はクレアさんに車を売ってしまうことなので、従前の3000ドルから3200ドルに変化する。一方、ブレアさんの威嚇値は5000ドルのままである。よって威嚇値の合計は8200ドルに変化する。なお協力解の価値は9000ドルのまま変わらない。協力による余剰は9000−8200で800ドルとなる。妥当な解とは協力による余剰を平等に分配することなので、アダムさんとブレアさんの妥当な解はそれぞれ、3600(3200+400)、5400(4000+1400)ドルになる。

bブレアさんの申し込みの後にクレアさんが現れた場合
この場合、クレアさんの提示する3200ドルは従前の妥当な解である3500ドルを下回るので二人のそれぞれの値に変化を及ぼさない。

3−3

(a)300×0.5−50=100     A:100ドル
(b)−300×(1−0.5)−50=−200 A:−200ドル
(c)和解は0ドルなので費用も0ドル
(d)トライアルの費用の分の100ドル
(e)−200+(100/2)=−150 A:150ドル支払う
(f1)300×2/3−50=150 A:150ドル
(f2)−300×(1−2/3)−50=−150 A:−150ドル
(f3)協力解の価値:0ドル 威嚇値の合計:0ドル
    0−0=0 よって0ドル
(f4)トライアルの費用が少ない場合。お互いに強気な場合。
    一般的には、威嚇値の合計が協力による余剰とほとんど変わらない場合。

3−4

a「平等」の捕らえ方によって公平・不公平の両方の答えになる。たとえば、Aは窃盗をしているのだから、元の収穫量を基準に考えるのが平等だとすれば、Aの50とBの150を基準とし、それに余剰の100を半分ずつ分配するので、Aは100Bは200が公平な分配となり、表の分配は不公平ということになる。また、AとBの結果を完全に等しくするのが公平だとすれば、Aに70、Bに30分配するのが公平ということになり、表の結果は不公平になる。なお、両者の割合の差が小さくなれば平等だとするとA:B=80:120から130:170になり、差が小さくなっているので公平だといえる。

b威嚇についての制約が余剰の分配に影響を与えることはない。分配は威嚇値の合計と協力解の余剰によって制約されるからである

c「各人にその威嚇値に応じた分け前を与えよ」という原則に従うと、A:B=80:120なので、それに応じて余剰の100をAに40Bに60分配することになる。
「各人にその生産性に応じた分け前を与えよ」という原則に従うと、A:B=50:150なので、それに応じて余剰の100をAに25Bに75分配することになる。

3−5

もし、法が農民を火花による被害から保護した場合、鉄道会社は1750ドル支払って火花止めを建設するであろう。逆に、法が鉄道会社に賠償責任を負担することなく火花を出し続ける権利を認めると、農民は1750ドル以上3000ドル未満の範囲のお金を鉄道会社に支払って鉄道会社に火花止めを立ててもらうようにするだろう。この場合には、農民の権利を認めて、鉄道会社に火花止めを建設させるのが効率的である。

3−6

3−7

「所得理論」=所得が増加すると正常財の需要が増加する
「価格理論」=需要が増加すれば、価格は上昇する。
まず、「牧場主の権利」から「農民の権利」に法が変われば、農民は今まで自分のお金でフェンスを立てていたのが、牧場主にお金をもらって立てることになる。そうなると農民の所得が増加する。問いでは、穀物は正常財となっているので、所得が増加すれば、需要が増加する。また、価格理論より、需要が増加すれば、価格が増加してしまい、穀物に対する需要が一定のレベルで止まり、その後、需要は減少しそうだが、この場合は供給側も農民なのでそのようなことはなく、需要は増加し続ける。そのため、より広い土地が必要になり、多くのフェンスの建設をもたらすのである。(法が「農民の権利」から、「牧場主の権利」に変わった場合は、穀物と肉が入れ替わるだけで、同じ結果となる)

3−8

3−9

3−10

a交渉費用
b強制費用
c交渉費用
d探索費用
e探索費用
f交渉費用

3−11

e<b<f<c<d<a の順である。

e大学入学(探索:D交渉:E強制:E)
 どの大学を受験しようという点では探索費用が少しかかるが、選抜方法・授業内容が明確なので交渉費用、強制費用はほとんど生じないため。

bアーティチョウク(チョウセンアザミ)の購入(探索:D交渉:D強制:E)
 どのアーティチョウクにするかについて探索費用が少しはかかるが、交渉費用・探索費用はほとんどかからないものと思われる。

f新車のための保険の購入(探索:C交渉C強制:E)
 どんな保険があるかを調べるのにいくらかの探索費用がかかるかもしれない。そして、保険会社との保険の内容(特約等)についても交渉費用がかかると思われる。だが、いったん契約してしまえば履行しないということはありえないので、強制費用はかからないと思われる。

c都市ガスの配管を隣人の土地の地下に張るための地役権の獲得(探索:E交渉:B強制:B)
 地役権の対象が決まっているので探索費用はかからない。しかし、地役権の費用をいくらにするか、範囲をどこまでにするか等についてかなりの費用がかかるとおもわれる。また、契約が実際に履行するかどうかについても監視をしたりしなければならなくなったり、契約違反の際の処罰についてもかなりの費用が必要である。

dバーガーキングのフランチャイズの売却(探索:C交渉:A強制:A)
 相手の探索、売却価格の交渉、契約履行の確保等に相当なエネルギーを要するものと思われる

a結婚(探索:A交渉:AA強制?)
 相手を見つけるのが問題であり、見つけたとしても、結婚まで持っていくのには、お金も時間も精神的エネルギーもものすごくかかるかもしれない。強制はできないものと思われる。

3−12

a私的な住居での喫煙
 合意できる。合意の内容は「当事者間交渉にゆだねるべき」との結果になるだろう。

bショッピング・モール(商店街)、室内競技場や室内でのコンサート・ホール、あるいは、野外の競技場などの公共的施設。
 そう簡単に合意できないとおもわれる。取引費用の閾値が比較的高い人々は当事者間の交渉にゆだねるべきだと主張するだろうし、低い人々は介入主義的な方法で対処するべきだと主張するであろう。なぜなら、公共施設はその中にいる人はかなり多いが、タバコを吸いたい場合には周りの人にだけ許可を得れば済むだけの話だと、取引費用の閾値が比較的高い人々は主張するであろうし、取引費用の閾値が低い人々は、周りの何人かに同意を得るのも取引費用がかかるから、介入主義的な方法にするべきだと主張するかもしれないし、また、自分のすぐ周りの人だけではなく、その場所全体の人にも影響のあることだから介入主義的な方法で解決するべきだと主張するであろう。

cホテルの部屋での喫煙
 合意できる。合意の内容は「当事者間交渉にゆだねるべき」との結果になるだろう。

d旅客機の中での喫煙
 合意できる。合意の内容は「介入主義的な方法で問題に対処するべき」との結果になるだろう。

3−13

3−14

164ページとは逆のことをすればよい。現時点の価格での将来の期日の農産物売却契約を締結し、将来低い価格で購入すればよいのである。

3−15

a-1まず、広い特許について
これは特許権のカバーする範囲が広い制度である。この場合、副次的発明をカバーしているため、基礎的発明に投資するインセンティヴを与えることができる。基礎的発明をすれば、それを用いた副次的発明にはそれほど費用もかからず、しかも、経済的価値をも見込めるからである。しかし、副次的発明に対するインセンティヴは見込めないと思われる。なせなら副次的発明をしても特許料などを(基礎的発明をした)特許権者に支払う必要があり、経済的価値が低くなってしまうからである。

a-2次に、狭い特許について
この場合、副次的発明はカバーされていないので、副次的発明に投資するインセンティヴを与えることができる。それは、発明された基礎的発明を用いて、安い費用で副次的発明をすることでたやすく経済効果をあげられる。しかも基礎的発明を自由に用いることができるため、使用料等も支払う必要がないからである。逆に、基礎的発明に対するインセンティヴは見込めないというのは容易に想像できる。

b基礎的発明と副次的費用に携わる者との間の取引費用の大小について
広い特許にした場合、副次的発明をしようとするときにそのつど交渉しなければならず、取引費用は大きいと考えられる。一方、狭い特許とした場合、自由に副次的発明をすることができるため、交渉費用は小さいと思われる。また、基礎的発明の数よりも副次的発明の数のほうが多い。以上より、特許権のカバーする範囲が狭いほうが効率的である。
しかし、これが長期的にも妥当かどうかはわからない。なぜなら、あまり副次的発明に有利な制度にしてしまうと、基礎的発明に携わる者がいなくなってしまう恐れがある。副次的発明は基礎的発明があって初めて成り立つものである。基礎的発明が減ってしまうと副次的発明も減ってしまう。そうならないためにも、基礎的発明に対するインセンティヴを与える制度にすることも、長期的視点からは考えないといけない。


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