第6章 民事訴訟手続の経済的効率性 第8節〜第9節2003-01-16 担当:岡8 コモン・ローには効率的になる傾向があるのか注)コモン・ロー=イギリスにおいて国王裁判所の判決例から導き出され発展した不文法のこと。一般慣習法とか普通法とかいわれる。競争的市場とコモン・ローとの類似点について 両方とも、社会全体の利益を増大させようとしているのではない。競争的市場は買い手と売り手の利益を最大化するように努力し、訴訟当事者は自分が勝訴するように最大の努力をする。この点で両者は似ているといえる。しかし、競争的市場は資源を効率的に分配する。 ⇒では、訴訟も効率を自動的に達成するのか? 訴訟も競争によって効率的になる(だろう)ことを説明するメカニズム 「訴訟による淘汰」=非効率な法が効率的な法よりも訴訟になりやすいと仮定した場合、非効率な法が繰り返し裁判にさらされ、修正・破棄される可能性が大きくなり、結果として効率性を達成する。 そのためには、裁判官が効率的な法に「反対しない」だけで十分。なぜなら、効率・非効率にかかわらず、裁判官が法を選択するなら、上の仮定により、法は効率性に向か って進化するから。 ⇒上の仮定は本当に正しいのか? →「たぶん」イエス なぜ、「たぶん」なのか 合理的原告は期待判決額が訴状費用に比べて大きい場合にしか訴訟を提起しない。 一般に、法が非効率であるほど期待判決額が大きくなる。→どうしてか? 「非効率な法」=権原を間違って配分している法のこと。 「効率的」=その物を最も高く評価しているものにその者を分配すること。 また、一般的に法的権原を最も高く評価するものがそれを獲得するために最も多くの費用をかけようとする。そのため、法が不利な配分をしたときに正しく配分されるべき者が多く訴訟を起こすため。 →結局、非効率な法のほうが訴訟となりやすく、是正されることも多くなり、その結果効率的になる=訴訟における「神の見えざる手」 しかし、その効果は市場よりも弱い。 →法は適用範囲が広範であり、訴訟の当事者だけにその効果はとどまらない。そのため、効率的な法がもたらす利益のほんの一部しか、その先例を鼎立した原告は受け取ることはできないので。←「たぶん」の最も大きな理由 問題6-12 ・ 裁判所を一種の市場のように見ることの問題点 非効率な法を覆せば、富の量が増加する。 ↓しかし 勝訴すれば、再分配の利益を得られる。 ↓そのため 法が効率的・非効率を問わず、勝訴可能性があれば訴えを提起する。 ↓だから 非効率な法が存続するケースも ex:製造物責任 以上のように、非効率性よりも再分配による利益のほうが訴訟を提起する上で重視される。これが、裁判所を一種の市場のように見ることの問題点である。 9 裁判所は効率性を好むか?・ 裁判官は意識的に効率性の目標を設定しているか?実際のところはわからない。 ↓しかし 単に「効率性」という言葉を使わないだけかもしれない。 正当化の根拠が、効率性の考慮になっているのでは? 「効率性」の言い換えの例1 費用の内部化 効率的インセンティヴの条件=費用と利益の内部化 内部化の条件(詳しくは5章参照) 加害者が損害を自分自身のもののように考えて意思決定をすること。つまり、損害が加害者自身の期待費用であるかのように考えること。 内部化すると予防の費用と釣り合わせようとする。←効率性達成に必要なこと。 「効率性」の言い換えの例2 将来のルールの合意 紛争当事者がルールの影響にも考慮している場合、当該事件にはルールの変更に合意できないかもしれないが、将来の事件のためのルールの変更には同意できるかもしれない。 ex:過失責任ルールから過失相殺ルールへ 被害者は現在争っている事件では過失責任ルールを望むが、被害者も加害者も将来の類似の事件では、過失相殺ルールの適用を望む。 ルール変更の条件として、誰をも不利にすることなく、誰かを有利にするようなルールであろこと。 →つまり、パレート改善であること。 トピックス 「最善の道はまっすぐで狭いのか?」 問題6-13 トピックス 「レンタ・ジャッジ」 →紛争当事者が退任した裁判官を借りてきて裁判外で紛争を解決する手続きのこと。 賛成論と反対論がある。 |