安楽死 〜いのちに処分権は認められるのか〜

2003.4.28
発表:海野、大貝、尾谷、水野

安楽死と尊厳死の定義

*真の安楽死(純粋安楽死):生命の短縮をともなわない
*間接的安楽死:苦痛除去のために使用される薬の副作用として死期が早まるもの
*消極的安楽死:延命治療を控えた結果として死期が早まるもの
*積極的安楽死:苦痛除去のために生命を短縮するもの

*尊厳死:もはや患者は苦痛すら感じず意識のない状態での延命治療の中止によるもの

安楽死と尊厳死のちがいは患者の苦痛除去のために行われるものなのかどうかというところにあると考えられる。


判例

名古屋高裁 昭和37.12.22 昭和37う496 尊属殺人被告事件
判例要旨による違法阻却事由としての安楽死
(1)病者が現代医学の知識と技術からみて不治の病におかされ、しかもその死が目前に迫っていること
(2)病者の苦痛が甚だしく、何人も真にこれを見るに忍びない程度のものなること
(3)もっぱら病者の死苦の緩和の目的でなされたこと
(4)病者の意識がなお明瞭であって意思を表明できる場合には、本人の真摯な嘱託または承諾のあること
(5)医師の手によることを本則とし、これによりえない場合には医師により得ないと首肯するに足る特別な事情があること
(6)その方法が倫理的にも妥当なものとして容認しうるものなること

横浜地判 平成7.3.28 判時1530号28頁
判例要旨による違法阻却事由としての安楽死
(1)患者に苦痛があること
(2)死期が切迫しており、不治の病であること
(3)苦痛の除去のために代替手段がないこと
(4)患者の意思表示があること(積極的安楽死なら明示の意思表示が必要)
         ↓
消極的安楽死(不作為型安楽死)に対する判例の立場:
「医師の治療義務の限界を根拠に一定の要件のもとで許容される。」
間接的安楽死(〃)に対する判例の立場:
「医学的適法性を持った治療行為の範囲内の行為とみなしうることと、患者の自己決定権をもとに許容される。」
積極的安楽死(作為型安楽死)に対する判例の立場:
「苦痛から逃れるためほかに代替手段がなく、生命を犠牲にすることの選択も許されてよいという緊急避難の法理と、その選択を患者の自己決定権に委ねるという自己決定権の理論を根拠に認められる。」

学説

消極的・間接的安楽死は適法、積極的安楽死は違法、とする立場が多い。

*このような差異は、積極的安楽死が直接に人を殺すという行為であるからと考えられる。

判例においても明らかなように、患者本人の意思表示があれば、つまり本人の意思によって自らの生命を中断できるのか?=自己の死の処分権限を認めてよいのか?


☆私の体は私のものか?


@そのような主張の根拠:
・すべて、その人の所有に属するものは、その人の決定に委ねられなくてはならない、という所有への自己決定権。
・他者危害の原則にも反しない。
・所有の哲学:生命と体は最も本来的な所有物であり、所有者はそれを自由に処分してよい。

Aそれに対する批判:
・もともと財産を決定するためのものをいのちにまで拡張している
・自分の所有について、他人への危害を含まない限り何をしてもよいとはいえない場合もある(動物虐待、麻薬、人工妊娠中絶とか)
・人類は長い年月をかけて、いのちは自分ひとりのものではないという考えを育んできた。
いのちにつき所有権、すなわち処分権を認めていのちの処分の自己決定権を広く許容することは、認めるべきではない。

☆本当に安楽死が生命の質を追及する行為として妥当するのか?
cf:尊厳死→あくまでも生命の質を確保するための自己決定。
       生命の処分を目的とした自己決定権ではない。
             ↓
自己決定権の限界
積極的安楽死のように、直接に人の生命を立つことにより苦痛から解放する行為は生命の質の確保といえるのだろうか?
→耐えがたい肉体的苦痛は、医療技術の進歩により解消されつつある。
 だが、どうしても取れない苦痛に苦しむ患者はいる。
        ↓

☆安楽死を認めるべきか?

→・外国の現状(p4)
・認めることによる利点・弊害(p5)

認めることによる弊害も多い。だが、危険を回避するために制度そのものを否定したのでは社会が成り立たないのではないか?
(原子力発電所、死刑制度などの例)
        ↓
弊害を防ぐ制度を整えるべき。(要件を厳しくするなど)だが人間が作るものなのでそれで完全と言えるのか。


参考:

民206条・・所有権の内容
 民85条・・物の意義
 民90条・・公の秩序・善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効
 憲13条・・幸福追求権
 憲25条・・生存権
   @すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する
   A国はすべての生活部面について社会福祉、社会保障および公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。


外国の安楽死について

 従来は「生命は神聖」であるがゆえに生命至上主義が当たり前であった。
    ↓
 しかし医療の進歩により「生命維持装置」などによる延命が可能になり、人々の生命観や死生観が多様化してきた。そのような中で患者の自己決定権を求める声は高まっていった。

アメリカにおける身体の自己決定権

@統一解剖贈与法(1968年制定)
十八歳以上の者が、知的精神的判断能力がある間に、献体希望や臓器提供の意思を表明しておけば、遺言確認の手続きもいらずだれの承諾も必要とせず、献体、あるいは臓器提供ができると定められている。
Aカリフォルニア州自然死法(1976年制定)
世界で初めてリビング・ウィルを認めた法律として有名。末期状態になったときに生命維持装置を中止するか取りはずすようにと、十八歳以上の者が知的精神的判断能力がある間に、医師に対して文書をもって指示する書面を作成しておく権利をカリフォルニア州民に認める、という内容からなっている。
B患者の自己決定権法(1990年制定)
自分の住む州における患者の自己決定権に関する法律を知ってもらい、必要なときにその権利の行使ができるようにと制定された。医師はこのような法律があることを患者に説明し、例えばリビング・ウィルを作りたいと希望する場合には、必要な手続きについて説明し手助けをする義務がある。

オランダにおける安楽死

世界でも珍しくオランダでは安楽死が容認されています。オランダの刑法では医師による自発的安楽死も自殺幇助も有罪になる可能性があります。しかし1973年以来社会的運動がさかんになり、患者の自発的自己決定によるものならばその違法性が阻却されて、医師は起訴されないという制度が整ってきました。ここには患者の自発的意思決定の絶対性があります。
オランダで安楽死が容認されている理由として、
1安楽死容認へ向けての歴史的な重み
2医療制度の充実
3多様性を容認する個人主義社会
4宗教的倫理的寛容性
5個人の自立性と自己決定権の重要性についての高い認識
などがあげられています。
 

安楽死を認めると・・・

メリット

患者の死ぬ権利の尊重
閉鎖的医療をやめさせる
耐える意味のない苦痛の除去
   意味のある苦痛と意味のない苦痛
   患者の苦痛は肉体的苦痛だけではない
肉体的苦痛からの解放
90%という数字の意味
不必要な殺人の防止
   家族による殺人
   医師一人の独断による殺人
患者の意志の尊重
医療は患者中心であるべき
患者の経済的負担の除去
   月給13万で月23万の治療費
自己決定権の尊重

デメリット

医者の判断による殺人
不本意な死の選択
    無言のプレッシャー
    社会の役割の放棄
精神的苦痛の増大
告知によって10人に一人はうつ病になる可能性が高い
患者の権利の侵害
    インフォームドコンセントと「知らされない権利」
医療倫理の崩壊
医療に期待できない
    ガン告知によって90%はあきらめる。10%はおびえる。
不必要な安楽死の発生
法律を使った国家の殺人
自己決定権の押し付け
誤診による殺人
   90%・60%・44%


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