知識と所有 〜グループワークを通じて〜

担当:小栢・本田・加藤


あなたはある裁判所に勤務する裁判官である。
ある日、ある事件があなたの元に持ち込まれた。
以下が、その事件の背景と経緯である。


マンガ大国日本。「ドラえもん」や「ドラゴンボール」など、海外に輸出され、現地で大人気となっている作品も多い。中にはストーリーの原作者と絵の作画者が異なるケースもあり、その数は意外に多い。「クッキークッキー」もそのうちのひとつである。

「クッキークッキー」は1970年代に人気少女マンガ月刊誌に連載されたマンガで、養護施設で育った少女クッキーが、いじめや恋人の死などの逆境を乗り越えて成長していくというストーリーである。ストーリーの原作を水城京子氏が担当し、マンガの作画をいからしゆりこ氏が担当した。その後テレビアニメ化され、一連のキャラクター商品も人気を博した。

1995年2月、原作者・水城氏と作画者・いからし氏が、版元の出版社とのあいだに結ばれていた契約を解除したあたりから話がおかしくなってきた。つまり、出版社との契約解除後は「クッキークッキー」の権利の許諾元が、水城氏といからし氏のふたつになったのである。その影響は1997年になってから出てきた。

いからし氏が、クッキーの絵をリトグラフ(石版画)や絵ハガキに使用する許可を、水城氏に無断で与えていたのである。それが強行販売されそうになったため、1997年9月水城氏は、いからし氏と、その許諾を受けて製品を製造・販売しようとしていた広告会社を相手取り、クッキーの絵を使用した製品の作成・販売を差し止める請求をあなたの勤める裁判所に対して起こした。

水城氏・いからし氏の裁判における主張はこうである。

水城氏:
「マンガの絵の著作権は、ストーリー原作者の私にもあるのだから、私の許可なく出回るクッキーの絵は違法である」

いからし氏:
「水城氏の原作原稿は参考程度に過ぎないもので、ストーリーの骨子は自分で考えたもの。それにクッキーの絵は自分の創作なのだから、それをどう使おうが私の勝手だ」


あなたなら、どのような判断を下しますか?


実際の判決はどうだったのでしょう?
「キャンディキャンディ事件」
 原告:水木杏子氏(「キャンディキャンディ」原作者)
 被告:いがらしゆみこ氏(「キャンディキャンディ」作画者)
 論点:「キャンディキャンディ」は水木氏といがらし氏の共同著作物か、二次的著作物か。

1999年2月 東京地裁の一審判決
 水木氏の主張を全面的に認める。
 →キャンディの絵の著作権は水木氏にもある。
 《理由》
「キャンディキャンディ」は、水木氏が書いた原稿に沿ってストーリーが展開しており、ストーリーの骨子を創作したのがいがらし氏であるとは到底言えない。
        ↓
連載漫画は「原作原稿という著作物を翻案することによって創作された二次的著作物に当たると認められる」
        ↓
「連載漫画は、絵のみならず、ストーリー展開、人物の台詞や心理描写、コマの構成などの諸要素が不可分一体となったひとつの著作物というべき」
        ↓
絵という要素のみを取り上げて、いがらし氏だけが利用する権利をもつということにはならない。

これを受け、いがらし氏が控訴。

2000年3月 東京高裁の二審判決
 いがらし氏の控訴を棄却する。

ここでいがらし氏は、最高裁に上告。

2001年10月25日 最高裁判決
 一審・二審を支持し、いがらし氏の上告を棄却する。


知的財産権について

最近、知的財産権という言葉がよくクローズアップされているが、これは大きく二つに分けることができる。

@特許権、実用新案権、意匠権、商標権といった工業所有権
そして
A文化的な創作物を保護の対象とする著作権で、これは著作権法という法律で保護されている。
まず、先ほど出てきた著作権について見てみよう。


著作権

文化的な創作物とは、文芸、学術、美術、音楽、などのジャンルに入り、人間の思想、感情を創作的に表現したもののことで、著作物という。また、それを創作した人が著作者である。

そして著作権法は、作曲家や著述家や、その他の芸術家に独占権を認めて、特許法が発明家に与えるのと同様のインセンティブを与えようとするものである。なぜこのような法が必要かというと、新規の芸術上の創作に対して、独占権による保護を認めないと、創作活動は過小にしか行われないからである。その理由は、ひとたび創作が公表されると、対価を創作者に払うことなくそれを享受する、ただ乗り受益者を排除することが非常に困難となるため、その結果、創作者が市場取引を通じて、創作に費やした費用を回収すること、あるいは、利益をもたらすその他に活動に使う代わりに、才能と時間をその創作活動に投入したことによる機会費用を回収することは容易ではないからである。

そして、著作権は権利を得るための手続きをなんら必要としない。著作物を創作した時点で自動的に権利が発生し、以後著作者の死後50年まで保護されるのが原則である。

また、「二次的著作物とは、著作物を翻訳し、編曲し、もしくは変形し、または脚色し、映画化し、その他翻案することにより創作した著作物」を言う。 翻案とはアレンジのことを言い、原著作物の基本部分や筋名などを変更せずに、表現の形式を変えて別個の著作物を作ることであり、いわゆるパロディーもこれに含まれると解されている。具体的には映画化や小説をマンガ化するような場合、もしくはマンガをアニメ化するような場合があげられる。

そして、二次著作物を創作する際には、原則的に原著作者の許諾が必要である。


工業所有権

次に工業所有権についてである。

特許権、実用新案権、意匠権、商標権などがこれに含まれる。
工業所有権は著作権とは違い、登録しなければ権利が発生しない

特許は自然法則を利用した、新規性・進歩性のある、産業上有用な発明に対して一定期間(日本では20年間)与えられる独占権である。また、同一の発明について、異なった日に2以上の出願がなされた場合、先に特許庁に出願した者に特許を与えている=「先願主義」をとっている。

実用新案権は、物品の形状・構造・組み合わせに関する考案(小発明)に対して一定期間与えられる独占権である。保護期間は出願日から6年間である。

意匠権は、美感・独自性のある物品(物品の部分を含む)の形状・模様・色彩に関するデザインを一定期間保護する独占権である。保護期間は、設定の登録の日から15年である。

商標権は、商品・役務に使用するマーク(文字・図形・記号など)を登録して一定期間保護する独占権である。保護期間は、設定の登録の日から10年をもって終了するが、更新すれば何回でも更新することができる。

特許権の根拠(学説)

産業政策説・・・一国の産業政策として発明の権利保護を図るため
発明奨励説・・・発明のための企業努力に報い、発明を奨励するため
公開代償説・・・累積的な技術発明のために、発明公開の代償として権利を付与する
過当競争防止説・・・模倣による、過当で不当な競争を防止するため

所有権と知的所有権の比較

→どちらも「排他的な支配権」であることは同じ。

<所有権>
・ 有体物
・ 恒久性
・ 一物一権
・ 時効による取得可能
・ 先占・発見などで取得可能

<知的所有権>
・ 無体物
・ 一定期間
・ ひとつのものに複数の権利
・ 時効取得はない
・ 登録の必要な場合がある

→知的財産はその非排除性ゆえに、実際としてはいくらでも他人が自由に使用できる。つまり、著作権や特許権の排他性は、法律が人工的に与えたものに過ぎない
知的所有権は「使用・収益する権利」というより、むしろ「他人の利用を禁止する権利」と言ったほうがよいかもしれない

論点

@工業所有権は一国において唯一の権利だが、著作権は互いに模倣・盗用がなければ類似していてもよい。この違いをどう考えるか。

A知的財産は所有できるのか。(発明・商標・文芸・美術etc・・・それぞれについて)


資料

知的所有権概観


工業所有権法

工業所有権法  特許法・・・・・・・・・・・・発明(微生物発明,動植物発明)

        実用新案法・・・・・・・・考案

        意匠法・・・・・・・・・・・・意匠

        商標法・・・・・・・・・・・・商標

商法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・商号

不正競争防止法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・周知商標,商品形態


著作権法

著作者の権利  著作財産権・・・・・・・・文芸(キャラクター)
                 学術(ソフトウェア,データベース)
                 美術
                 音楽

        著作者人格権

著作隣接権・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・演奏
                 放送
                 レコード
                 製作
                 映画

民法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・氏名,肖像

* 括弧内は、特殊な例


《参考文献》

角田政芳・辰巳直彦『知的財産法』 有斐閣アルマ(2000年)
小野昌延『知的所有権 Q&A100のポイント』 有斐閣(1991年)
稗貫俊文『知的財産権と独占禁止法』北海道大学法学部叢書11 有斐閣(1994年)
『工業所有権入門』 特許庁
『はじめての著作権講座』社団法人著作権情報センター (2001年)
『工業所有権標準テキスト(特許編)』・『同(商標編)』 特許庁(2001年)
稲森謙太郎『勝手に使うな!知的所有権のトンデモ話』 講談社(2001年)
Netlaw/著作権法に関する判例の解説“キャンディキャンディ事件”
http://www.netlaw.co.jp/hanrei/candy1.html


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