動物と所有権

2003.6.2
担当:大川・長澤・三浦・和田

<論点>

・動物を飼う(所有する)ということは、なぜ、正当化されるのか。
・動物に何らかの権利を認めることと、ペットとして人間が動物を飼うことは矛盾しないのか。

<動物を飼うべきでない>

動物の権利を認め尊重するということは、動物が本来の野生の中で生きていける状態を続けさせていくはずであり、人間がペットとして動物を所有し、動物の自由を制限するのは許されないのではないのか。

どのように愛情をもって飼うとしても、ペットとして動物を飼うこと自体が、動物から、野生で生きるという生来の欲求を奪うことになる。

<動物を所有してもよい>

動物と人間、特に犬との関係は古く、2万年以上前からのつきあい。
最後の氷河期が終わり、ホモサピエンスの登場とともに犬の祖先であるオオカミと人類の共生関係は始まったとされる。
2万年の歴史の過程で人間は動物をペット、家畜として飼いならしてきた。飼いならされた動物には、もはやかえるべき野生はなくそういう状況を作り出してきた人間には、このような状況に対処する責任がある。

全ての動物をペットとしてよいのではなく、野生の動物はそのままにしておくべきで、野生動物をペットとして飼うことは、野生動物がもつ、本来の自然環境の中で生きる権利を侵害することになるので認められない。

ペットとして適切な動物(犬、ねこ等)との間に、愛情に基づき、かつ、動物たちの身体的、心理的欲求に十分に配慮した関係を結ぶことと、動物の権利の原則や主張とは矛盾しない。


<動物実験の是非>

 洗剤やシャンプー、化粧品、医薬品の開発や、医学研究のために、日本では約2000万、世界では2億もの動物が実験に使用されていると推定されている。いままで動物実験は「医学のため、科学のため、人間のために必要である」と言われてきた。しかし1970年代より欧米各国を中心に、アニマルライトの運動が盛んになり、倫理的にも科学的にも動物実験に対する疑問、反対の声が高まってきている。

※ 動物実験擁護派の意見

・ 20世紀のほとんどすべての医学上の進歩と発見は動物実験に基づいたもの。(狂犬病の治療法、はしかの予防法、インスリンの発見)
・ 病気や健康問題の中には生きた生物でしか研究できないプロセスがある。動物は、ヒトを使うことが、非実現的あるいは非倫理的な場合に医学研究にとって必要である。

※ 動物実験反対派の意見

倫理的批判と科学的批判がある。

倫理的批判…動物を檻に入れ、毒物を飲ませ、脳に電極を差し込み、臓器を取り出           し、生体解剖する動物実験。→動物も人間と同じように痛みや苦しみを感じる生き物。人間には、他の生命をそのように取り扱う権利はない。
科学的批判…動物と人間では生体反応が違い動物実験の結果を人間に当てはめることはできないので、動物実験は無意味である。それどころか、薬害など人体への害を及ぼすので危険である。動物実験でわかることは、その動物のことだけで、人間に対する効果や安全性などはわからない。
⇒代表的な薬害として、スモンやサリドマイドがある。(いずれも動物実験では安全性が確かめられたとして市場に売り出された。)


生命の処分権

ヒトは動物の生命を奪う権利を持っているのか。

<カラスの駆除>

都市部においてカラスが急激に繁殖し始めたのは1990年代。
その後、現在に至るまでその数は3、4倍に増加し、多くの被害が報告されている。

・ 動物への被害・・・vs.小動物(公園にいるカモやスズメ、散歩中の犬etc.)
           vs.動物園の大きな動物(サルやバイソンの毛をむしりとるetc.)
・ 人間への被害・・・頭上から襲う・食べ物を奪うetc.
・ 環境への被害・・・ごみを荒らすetc.

東京都のカラス対策事業
国内でも特にカラスが繁殖している東京都では、平成12年に東京都経済局林務課が対策事業を立ち上げ、13年9月には「カラス対策プロジェクトチーム」が発足した。
都内に生息するカラスの数・・・約3万7千羽(H.13年12月〜14年1月調査)

なぜ、都市部でカラスが繁殖するのか
・ゴミの多さ・・・生ゴミがきちんとポリバケツやネットの中に入れて捨てられていないために、それを食べてカラスは空腹を満たしている。さらに、生ゴミは栄養価が高く、それによってカラスの繁殖能力が高まっているとの指摘もある。
・ ヒトを恐れなくなった・・・他の動物(野良犬・野良猫etc.)に対する餌付け行為

<論点>

繁殖の原因を見ると、そのほとんどが人間の行為によることがわかる。
人間は自らが招いた現象を「生態系の維持」の名のもとに、カラスの生命を奪うことは許されるのか。

<保健所の実態>

年間60万頭以上の犬・猫が全国保健所で処分されており、そのほとんどが元・飼い主らによる持込のケースである。そのほかに、住民による通報などよって捕獲された迷い犬などが処分される。その処分は主に炭酸ガスによる窒息死であり、安楽死とはほど遠いものであるという
指摘がなされている。また、新しい引き取り手を探すイベントなども開催されているが、ペット産業が白熱しているさなかでも、一度保健所に抑留された犬・猫の引き取りは微々たるものである。
動物の愛護及び管理に関する法律 第四章 雑則
動物を殺す場合の方法として、第二十三条 (1)動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない。

<動物愛護および管理に関する法律:動物愛護法>

2000年12月施行
動物保護および管理に関する法律からの改正

改正された点

1.名称の変更
「動物保護および管理に関する法律」から「動物愛護および管理に関する法律」に変更
「保護」は世話だけだが、「愛護」は対象物を愛すること。

2 命あるもの
「動物が命あるものであることにかんがみ、みだりに殺し傷つけまたは苦しめないようにその動物との共生に配慮しなければならない」

  動物が「もの」から →「命ある存在」へ変更

3.飼主の責任の派生
「動物の所有者または占有者は、命あるものである動物の所有者、または占有者としての責任を充分に自覚して、その動物を適正に飼育し、または管理することにより、動物の健康および安全を保持するように努めること」と飼主の責任を決めた。

4.動物関係の仕事をしているひとの義務の派生

  (1)動物取扱業が届出制になる(違反した場合罰金20万円)

  (2)動物販売業者に責任が課せられる(購入者への飼育法の適切な説明が求められる)

5.動物愛護担当職員の設置

  動物取扱い業者の実態調査や立入り検査の施行

6.動物愛護推進員の設置

7.罰則の強化

動管法では、動物を虐待したり殺したりしても 3万円以下の罰金または科料であったが、動物愛護法では みだりな愛護動物の殺傷には、100万円以下の罰金、または懲役一年以下の刑。愛護動物似たいし、みだりに水や食事を止めることにより衰弱させる等の虐待を行ったものは30万円以下の罰金。愛護動物を遺棄したものは30万円以下の罰金 となる。

<タマちゃんにかかわる法律、関連団体について>

改正鳥獣保護法・・・今までの鳥獣保護法を改正し、アゴヒゲアザラシなど海に生息する哺乳類も保護の対象に加え、捕獲や殺傷するには県の許可が必要で違反すると一年以下の懲役、または百万以下の罰金を課する、という法律。今年の四月十六日に施行された。

タマちゃんを見守る会・・・田中保男会長(72歳)を中心に集まった単なるタマちゃんの追っかけグループ。タマちゃんの見物に毎日来ていた人達が仲良くなり、昨年11月に約20名で「タマちゃん会」を発足させたのが始まり。その後会員を増やし、現在は160名以上にも達する。ほぼ24時間体制でタマちゃんを見守り、タマちゃんの住みやすい環境をつくろうとする。

タマちゃんのことを想う会・・・粟野裕司代表(39歳)のほか約20名からなる団体。タマちゃんの事を想い故郷に返してあげたいと願う心優しい団体のはず。しかし、アザラシに対して知識不足のため、無理やり捕獲しようとして失敗する。アザラシは臆病な動物なので、無理に捕獲しようとするとショック死する可能性があることを知らなかった。この事件により、世間から嫌われてしまう。その後も捕獲を狙い、毎日6キロのホタテを川に投げ入れ餌付けし、捕獲訓練を続ける。しかし、タマちゃんがホタテを食わない、鳥獣保護法の改正により捕獲が違法になる、など粟野氏の苦悩は続く。

パナウェーブ研究所・・・千乃裕子氏を代表とする団体。白装束集団で知られている。千乃氏は五月五日に会見し「タマちゃんを助けてー」と叫ぶ。実は、粟野氏は元教団出身者で今回の捕獲作戦費用、えさ代等のため教団から約600万の資金援助を受けていた。山梨県にある教団関連施設にはタマちゃん専用プールが二つ作られていたらしい。

タマちゃん友人会・・・横浜市西区がタマちゃんに住民票を交付したことに対して日本在住の外国人17名が「私たちにも住民票を!!」と抗議の意味を含めて結成した会。


<参考文献>

『動物に権利はあるか』 ローレンス・プリングル 日本放送出版協会 (1995年)
東京都庁HP http://www.metro.tokyo.jp/
厚生労働省HPhttp://www.mhlw.go.jp/ 
ねこだすけ http://www02.so-net.ne.jp/~nekonet/index.html


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